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    <title>Mutant Music</title>
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    <updated>2026-08-19T23:57:15+09:00</updated>
    <author>
        <name>Mutant Music</name>
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        <title>さよならは目の前に</title>
        <author>
            <name>Mutant Music</name>
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        <updated>2026-08-15T00:28:22+09:00</updated>
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                <![CDATA[
                        <img src="https://mutant-music.com/media/posts/58/sayonara-wa-me-no-mae-ni-thumbnail.jpg" alt="青灰色の窓辺に伏せて置かれた一枚のインスタント写真" />
                    会いたい人は、目の前にいない。 でも、 さよならは目の前に まだ別れてもいないのに、さよならだけは見えている。 相手が何かを告げたわけではない。 ただ、少し大人びて見えた。それだけで、 あぁ僕は取り残されていく… と思ってしまう。この歌で怖いのは、別れそのものより、自分が同じ場所にいるうちに、相手の時間だけが先へ進んでしまうことなのだと思う。 YouTubeで見る いつも心の支えだった あの人は今何を想ってるんだろ？ 「あなたに会いに行きたいけど うまい口実が見つからない」 あの頃の僕はひたすらシャイで 自分でももどかしくて そんな自分が悔しくて そんな思いが涙に変わる 2つも年上だととても大人に見えるんだよ 二人で写真を撮ったことも今は夢のよう すっかり落ち着いて余計に大人びて見えるよ あぁ僕は取り残されていく…さよならは目の前に 人生ってとても気の張るものだけど あなたといれば悩みごとも消えてしまう 苦しくなった時はいつもあの人を想ってたんだろ？ 気づいた時にはもう遅い…さよならは目の前に さよならは目の前に 曲を読む 最初の二行から、時間が少しずれている。 いつも心の支えだった あの人は今何を想ってるんだろ？ まず、 いつも心の支えだった である。 だった 過去形だ。そして次の行には、 今 がある。あの人は、今、何を想っているのか。支えだった時間はすでに過去へ置かれ、僕だけが現在から相手の心を想像している。ただし、関係が終わった、とはまだ書かれていない。さよならも起きていない。 それなのに文法だけは、少し先に別れ始めている。そして呼び方は、 あの人 である。少し遠い。ところが次の二行だけは、鉤括弧に入る。 「あなたに会いに行きたいけど うまい口実が見つからない」 ここでは、 あなた になる。外側から語る時には、あの人。心の中では、あなた。距離が急に縮まる。&hellip;
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                    <p><img src="https://mutant-music.com/media/posts/58/sayonara-wa-me-no-mae-ni-thumbnail.jpg" class="type:primaryImage" alt="青灰色の窓辺に伏せて置かれた一枚のインスタント写真" /></p>
                <div><div class="song-intro" data-content-type="song"><p>会いたい人は、目の前にいない。</p>
<p>でも、</p>
<blockquote><p>さよならは目の前に</p></blockquote>
<p>まだ別れてもいないのに、さよならだけは見えている。</p>
<p>相手が何かを告げたわけではない。</p>
<p>ただ、少し大人びて見えた。それだけで、</p>
<blockquote><p>あぁ僕は取り残されていく…</p></blockquote>
<p>と思ってしまう。この歌で怖いのは、別れそのものより、自分が同じ場所にいるうちに、相手の時間だけが先へ進んでしまうことなのだと思う。</p></div>
<div class="song-video">
  <div class="post__iframe"><iframe width="560" height="315" src="https://www.youtube-nocookie.com/embed/xEsRESxoF84" title="Mutant Music「さよならは目の前に」" loading="lazy" allow="accelerometer; autoplay; clipboard-write; encrypted-media; gyroscope; picture-in-picture; web-share" allowfullscreen></iframe></div>
</div>
<p class="text-link song-video-link"><a href="https://www.youtube.com/watch?v=xEsRESxoF84" rel="noopener">YouTubeで見る</a></p>
<h2 id="work-info">作品情報</h2>
<dl class="song-facts">
  <div><dt>作品区分</dt><dd>アルバム未収録曲</dd></div>
  <div><dt>制作</dt><dd>16歳時・制作年月不明</dd></div>
</dl>
<h2 id="lyrics">歌詞</h2>
<pre class="lyrics" lang="ja">いつも心の支えだった
あの人は今何を想ってるんだろ？

「あなたに会いに行きたいけど
うまい口実が見つからない」

あの頃の僕はひたすらシャイで
自分でももどかしくて
そんな自分が悔しくて
そんな思いが涙に変わる

2つも年上だととても大人に見えるんだよ
二人で写真を撮ったことも今は夢のよう

すっかり落ち着いて余計に大人びて見えるよ
あぁ僕は取り残されていく…さよならは目の前に

人生ってとても気の張るものだけど
あなたといれば悩みごとも消えてしまう

苦しくなった時はいつもあの人を想ってたんだろ？
気づいた時にはもう遅い…さよならは目の前に

さよならは目の前に
</pre>
<h2 id="reading">曲を読む</h2>
<p>最初の二行から、時間が少しずれている。</p>
<blockquote><p>いつも心の支えだった<br>
あの人は今何を想ってるんだろ？</p></blockquote>
<p>まず、</p>
<blockquote><p>いつも心の支えだった</p></blockquote>
<p>である。</p>
<blockquote><p>だった</p></blockquote>
<p>過去形だ。そして次の行には、</p>
<blockquote><p>今</p></blockquote>
<p>がある。あの人は、今、何を想っているのか。支えだった時間はすでに過去へ置かれ、僕だけが現在から相手の心を想像している。ただし、関係が終わった、とはまだ書かれていない。さよならも起きていない。</p>
<p>それなのに文法だけは、少し先に別れ始めている。そして呼び方は、</p>
<blockquote><p>あの人</p></blockquote>
<p>である。少し遠い。ところが次の二行だけは、鉤括弧に入る。</p>
<blockquote><p>「あなたに会いに行きたいけど<br>
うまい口実が見つからない」</p></blockquote>
<p>ここでは、</p>
<blockquote><p>あなた</p></blockquote>
<p>になる。外側から語る時には、あの人。心の中では、あなた。距離が急に縮まる。</p>
<p>でも、その近い呼び方のまま、会いに行けるわけではない。問題は、会いたいかどうか、ではない。もう、</p>
<blockquote><p>会いに行きたい</p></blockquote>
<p>とは分かっている。</p>
<p>なのに、</p>
<blockquote><p>うまい口実が見つからない</p></blockquote>
<p>のである。会いたい。なら会いに行けばいい。とはならない。</p>
<p>会いたいだけでは、理由として足りないらしい。別の理由。口実。が必要になる。かなり面倒くさい。</p>
<p>でも、この面倒くささがそのまま歌になっている。</p>
<p>次の連では、動けない理由を相手ではなく自分の側へ置く。</p>
<blockquote><p>あの頃の僕はひたすらシャイで<br>
自分でももどかしくて<br>
そんな自分が悔しくて<br>
そんな思いが涙に変わる</p></blockquote>
<p>まず、</p>
<blockquote><p>あの頃の僕</p></blockquote>
<p>である。歌を書いている時点ですでに、少し前の自分を振り返っている。そして、シャイ。もどかしい。悔しい。</p>
<p>涙。と進む。相手に何かをされたから泣く、ではない。自分で自分を見て、もどかしい。</p>
<p>そんな自分が、悔しい。そして、</p>
<blockquote><p>そんな思いが涙に変わる</p></blockquote>
<p>感情が最後に身体へ出る。ここでは、</p>
<blockquote><p>そんな</p></blockquote>
<p>も二度続く。そんな自分。そんな思い。何が悔しいのかを細かく分析するより、指をさすように、そんな。そんな。</p>
<p>と進んでいく。十六歳の心の説明としては、そのくらいの粗さの方がむしろよく分かる。そして、二人の距離が数字になる。</p>
<blockquote><p>2つも年上だととても大人に見えるんだよ<br>
二人で写真を撮ったことも今は夢のよう</p></blockquote>
<blockquote><p>2つ</p></blockquote>
<p>ではない。</p>
<blockquote><p>2つも</p></blockquote>
<p>である。二歳差が客観的にどれくらい大きいか、という話ではない。僕には、大きい。しかも、</p>
<blockquote><p>とても大人に見える</p></blockquote>
<p>なのである。大人だ。とは言わない。</p>
<blockquote><p>見える</p></blockquote>
<p>相手そのものというより、僕からどう見えているかが書かれる。その次には、</p>
<blockquote><p>二人で写真を撮ったこと</p></blockquote>
<p>が出る。写真を撮った、という出来事はかなり具体的だ。同じ場所に二人でいた時間が、一枚の写真になった。</p>
<p>なのに、</p>
<blockquote><p>今は夢のよう</p></blockquote>
<p>である。そんな具体的な出来事なのに、夢のよう。具体的だから現実味が増す、とは限らないらしい。むしろ、そこに本当に二人でいたことの方が、今となっては現実離れして見える。</p>
<p>そして、もう一度、</p>
<blockquote><p>見える</p></blockquote>
<p>が来る。</p>
<blockquote><p>すっかり落ち着いて余計に大人びて見えるよ<br>
あぁ僕は取り残されていく…さよならは目の前に</p></blockquote>
<p>最初は、</p>
<blockquote><p>とても大人に見える</p></blockquote>
<p>だった。今度は、</p>
<blockquote><p>余計に大人びて見える</p></blockquote>
<p>である。</p>
<blockquote><p>余計に</p></blockquote>
<p>つまり、前から大人に見えていた。久しぶりに見たら、さらにそう見える。ここでも、相手が実際にどれほど変わったのか、歌詞は測っていない。あくまで、</p>
<blockquote><p>見える</p></blockquote>
<p>のである。</p>
<p>でも、その見え方だけで、僕の側には大きな変化が起きる。</p>
<blockquote><p>取り残されていく</p></blockquote>
<p>取り残された、ではない。</p>
<blockquote><p>取り残されていく</p></blockquote>
<p>今まさに、置いていかれている途中だ。相手が遠ざかっていく動作も書かれていない。別れを告げられたわけでもない。ただ、相手が大人びて見える。</p>
<p>その瞬間、自分だけが同じ場所に残っているように感じる。そして、</p>
<blockquote><p>さよならは目の前に</p></blockquote>
<p>である。ここが不思議だ。「さよなら」は、本来なら出来事だ。言う。言われる。</p>
<p>別れる。そういう時間の中に起こるものだ。</p>
<p>でも、この歌では、</p>
<blockquote><p>目の前</p></blockquote>
<p>にある。空間へ置かれている。まだ来ていない未来が、目の前の景色として見えている。しかも、会いたい「あなた」は、今ここにはいない。</p>
<p>目の前に見えているのは、あなたではなく、さよなら。かなり寂しい配置である。そのあと、急に話が大きくなる。</p>
<blockquote><p>人生ってとても気の張るものだけど<br>
あなたといれば悩みごとも消えてしまう</p></blockquote>
<p>十六歳で、</p>
<blockquote><p>人生って</p></blockquote>
<p>である。ずいぶん大きく出た。しかも人生は、</p>
<blockquote><p>とても気の張るもの</p></blockquote>
<p>らしい。かなり疲れている。</p>
<p>でも、その大きな「人生」が、</p>
<blockquote><p>あなたといれば</p></blockquote>
<p>の一言で、急に一人の相手へ縮む。人生はいろいろ大変。でも、あなたといれば、</p>
<blockquote><p>悩みごとも消えてしまう</p></blockquote>
<p>全部解決する、とは書かない。人生が楽になる、でもない。悩みごとが、消えてしまう。相手の存在が、世界そのものを変えるというより、その時だけ、気にしていたことを消してくれる。だからこそ、その人がいなくなることが怖いのだろう。</p>
<p>そして最後に、最初の、</p>
<blockquote><p>いつも</p></blockquote>
<p>が戻る。</p>
<blockquote><p>苦しくなった時はいつもあの人を想ってたんだろ？<br>
気づいた時にはもう遅い…さよならは目の前に</p></blockquote>
<p>冒頭では、</p>
<blockquote><p>いつも心の支えだった</p></blockquote>
<p>と言い切っていた。でもここでは、</p>
<blockquote><p>いつもあの人を想ってたんだろ？</p></blockquote>
<p>疑問形になる。最初から知っていたはずのことを、最後になって自分へ確認している。本当に、ずっと支えだったんだろ？苦しい時、いつも思い出していたんだろ？そうだったんじゃないか？</p>
<p>相手を失いそうになって初めて、その人が自分の中でどれほど大きかったのかを、自分自身へ問い直している。そして、</p>
<blockquote><p>気づいた時にはもう遅い…</p></blockquote>
<p>である。何に気づいたのか。一つには決めなくていいと思う。好きだったこと。支えられていたこと。</p>
<p>感謝していたこと。会いたかったこと。それを言葉にしていなかったこと。いろいろ重なっている。</p>
<p>何に対して、</p>
<blockquote><p>もう遅い</p></blockquote>
<p>のかも書かれない。告白するには。感謝するには。会いに行くには。引き留めるには。</p>
<p>どれか一つへ固定しないからこそ、「遅い」という感覚だけが大きく残る。そしてまた、</p>
<blockquote><p>さよならは目の前に</p></blockquote>
<p>歌の最後には、とうとう一行だけになる。</p>
<blockquote><p>さよならは目の前に</p></blockquote>
<p>それだけ。さよならした、とは最後まで歌わない。相手の答えもない。別れた後の景色もない。目の前にある。</p>
<p>そこで止まる。</p>
<p>つまり、この歌は「さよならの歌」なのに、歌の中では一度もさよならが起きない。ずっと、来る前。気づくのも遅かった。動くのも遅かった。</p>
<p>でも、さよならだけはまだ来ていない。</p>
<p>そのぎりぎりの時間に立っている。</p>
<p>現在のみゅーは、当時の自分を「ひどく不器用」「いちいち面倒くさい」と笑う。でもすぐに、十六歳には十六歳なりの人生しかなく、それがその時には全部だったと言い直す。恋愛、感謝、憧れのどれか一つに分類せず、本人自身がまだ分類できていないまま残す方がいい。手紙の返事について「いまだに返事を待っている。半分は冗談だ。でも、半分は本気だ。」と今も言えるところまで、この歌の時間は続いている。</p>
<h2 id="production-background">制作背景</h2>
<p>現在のみゅーの回想では、二歳上の音楽部の先輩との別れが近づく中で書いた曲。感謝を言葉にしてこなかったことへ遅れて気づき、一日で曲ができたら手紙を書く、という自分なりのルールを課したという。その日、床屋で突然、間奏のコード進行と口笛が浮かび、本人曰く「なぜ床屋だったのかは知らない」。そこから一気に歌と手紙まで書いたと振り返っている。</p>
<h2 id="history">Mutant Music史から見ると</h2>
<p>現在のみゅーは、十六歳から十八歳までに、三百曲以上作った、と振り返っている。多くはインストで、歌詞を付けた曲を当時、「ウタモン」と呼んでいた。その中から選んだDemo曲集について、現在は、「後のMutant Musicへつながっていく『エピソードゼロ』」と呼んでいる。ただ、この言葉は少し慎重に使いたい。</p>
<p>エピソードゼロ、と言うと、後の作品の伏線を探したくなる。この歌のここが、後のあの曲へ発展した。まだ未熟だったものが、後に完成した。そんな歴史にしたくなる。</p>
<p>でも「さよならは目の前に」は、後の曲を予告していなくても、すでに十分変な場所に立っている。まだ別れていない。でも別れは見える。好きなのか。感謝なのか。</p>
<p>憧れなのか。まだ分類できない。言葉にするのも遅い。その宙づりだけで、一曲になっている。</p>
<p>後の1st albumには、<a href="/songs/otegami/">「おてがみ」</a>がある。あちらでは、相手からもらった言葉が、今の自分を動かしている。そして、聞こえてくる、「がんばれよ」へ、「がんばるよ」と応答する。</p>
<p>「さよならは目の前に」では、制作の背景に、自分から書いた手紙がある。返事は、少なくとも現在の記憶には残っていない。一方は、受け取った言葉へ答える。こちらは、届くかどうか分からない言葉を、ようやく渡す。</p>
<p>どちらも手紙にまつわる歌だけれど、言葉の向きが違う。それを成長や発展とは呼ばなくていい。その時その時で、言葉を渡す側だったり、受け取る側だったりした。同じ1st albumには、<a href="/songs/ashita-mo-kimi-ni-aeru/">「明日も君に会える」</a>もある。</p>
<p>題名だけ並べても、かなり対照的だ。明日<strong>も</strong>、君に会える。それに対して、さよならは、目の前に。一方では、今ある時間が明日も続くことを願う。</p>
<p>こちらでは、まだ終わっていない時間の先に、別れがもう見えてしまう。ただし、「さよならは目の前に」が先にあったから、後に「明日も君に会える」という反対の歌を書いた、といった因果までは資料にない。</p>
<p>同じ人が、別の時間には、会える明日を歌い、別の時間には、来てほしくないさよならを歌った。それでいい。もっと後の<a href="/songs/ano-hi-ano-toki-sayonara/">「あの日あの時さよなら」</a>は、題名からしてもう、さよならを過去へ置いている。</p>
<blockquote><p>どうしても分からない<br>
あの日あの時さよなら</p></blockquote>
<p>あちらでは、別れはすでに起きた。そのあとから、なぜだったのか、まだ分からない。「さよならは目の前に」では逆である。理由が分からないというより、出来事そのものがまだ来ていない。</p>
<p>さよならは、未来にある。でも、目の前に見える。一方は、過去になった別れを振り返る。こちらは、未来の別れを先に見てしまう。時間の向きがまるで違う。</p>
<p>だから、この十六歳の歌を、後の別れの歌の原型、と呼ぶ必要もないと思う。後の歌には後の時間がある。この曲には、さよならの一歩手前でしか生まれない時間がある。そして歌は最後まで、</p>
<blockquote><p>さよならは目の前に</p></blockquote>
<p>から進まない。言った後でもない。乗り越えた後でもない。</p>
<p>目の前。</p>
<p>そこで止まる。</p>
<p>現在のみゅーがDemo曲集を、青臭く。小難しく。妙に肩肘を張っている。と振り返るのも分かる。</p>
<p>でも本人はそのあと、「それも含めて当時の僕だ」とも書いている。たぶん、この曲に必要なのはそのくらいの距離なのだと思う。十六歳の「人生ってとても気の張るもの」を、今の言葉で賢く直さない。</p>
<p>二歳差くらい大したことない、とも言わない。会いたいなら会いに行けばいい、とも言わない。その時には、二歳は大きかった。人生は気が張った。口実がなければ会いに行けなかった。</p>
<p>そして、さよならは本当に、目の前に見えた。その小さな世界を、小さいからと縮めない。それだけで、この曲は今も十分残る。</p>
<nav class="song-sequence-nav" aria-label="作品順">
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</nav></div>
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        </content>
    </entry>
    <entry>
        <title>In my life</title>
        <author>
            <name>Mutant Music</name>
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            <category term="year-2008"/>
            <category term="type-song"/>
            <category term="release-akanezora"/>

        <updated>2011-09-04T09:00:00+09:00</updated>
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                        <img src="https://mutant-music.com/media/posts/47/in-my-life-thumbnail.jpg" alt="薄明の空へ開いた戸口に立てかけられたギター" />
                    やる気を出す。 勇気を出す。元気を出す。全力を出す。結果を出す。 この歌では、気分も成果もずいぶん簡単に、「出す」。 元気だから動くのではない。 とりあえず元気を出して、乗って、歩いて、道草を食って、ギターを鳴らして、踊る。それでも心の中では、 いつかは弾ける 始まりの予感 まだ「予感」である。外側はもう騒がしい。内側は、まだ始まるかもしれないと思っている。その少し変な時差から、この歌は始まる。 YouTubeで見る In my life 朝から やる気を出して たまにはその気になって 端から調子に乗って 訳なく強気になって ココイチ 勇気を出して モリモリ 元気を出して ときめく トレンドに乗って 欲望もむき出しにして In my life 雨なら 電車に乗って 晴れたら 原チャに乗って あちこち歩きまわって たまには 道草喰って 嫌なこと 忘れちまって いつもの笑顔になって 一日 全力出して 見事な結果を出して In my life 頭の中では 心の中では&hellip;
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        <content type="html">
            <![CDATA[
                    <p><img src="https://mutant-music.com/media/posts/47/in-my-life-thumbnail.jpg" class="type:primaryImage" alt="薄明の空へ開いた戸口に立てかけられたギター" /></p>
                <div><div class="song-intro" data-content-type="song"><p>やる気を出す。</p>
<p>勇気を出す。元気を出す。全力を出す。結果を出す。</p>
<p>この歌では、気分も成果もずいぶん簡単に、「出す」。</p>
<p>元気だから動くのではない。</p>
<p>とりあえず元気を出して、乗って、歩いて、道草を食って、ギターを鳴らして、踊る。それでも心の中では、</p>
<blockquote><p>いつかは弾ける 始まりの予感</p></blockquote>
<p>まだ「予感」である。外側はもう騒がしい。内側は、まだ始まるかもしれないと思っている。その少し変な時差から、この歌は始まる。</p></div>
<div class="song-video">
  <div class="post__iframe"><iframe width="560" height="315" src="https://www.youtube-nocookie.com/embed/5MtdzXjRAv4" title="Mutant Music「In my life」" loading="lazy" allow="accelerometer; autoplay; clipboard-write; encrypted-media; gyroscope; picture-in-picture; web-share" allowfullscreen></iframe></div>
</div>
<p class="text-link song-video-link"><a href="https://www.youtube.com/watch?v=5MtdzXjRAv4" rel="noopener">YouTubeで見る</a></p>
<h2 id="work-info">作品情報</h2>
<dl class="song-facts">
  <div><dt>収録作品</dt><dd><a href="/discography/akanezora/">4th album『茜空』</a></dd></div>
  <div><dt>Track</dt><dd>1</dd></div>
  <div><dt>制作</dt><dd>作曲2008年6月・作詞2008年9月</dd></div>
  <div><dt>初出</dt><dd>2011年9月4日</dd></div>
  <div><dt>クレジット</dt><dd>作詞: みゅー／作曲: みゅー</dd></div>
</dl>
<h2 id="lyrics">歌詞</h2>
<pre class="lyrics" lang="ja">In my life

朝から やる気を出して
たまにはその気になって
端から調子に乗って
訳なく強気になって
ココイチ 勇気を出して
モリモリ 元気を出して
ときめく トレンドに乗って
欲望もむき出しにして

In my life

雨なら 電車に乗って
晴れたら 原チャに乗って
あちこち歩きまわって
たまには 道草喰って
嫌なこと 忘れちまって
いつもの笑顔になって
一日 全力出して
見事な結果を出して

In my life

頭の中では 心の中では
いつかは弾ける 始まりの予感
朝まで踊ろうよ 悲しいことなど
忘れてしまえばいいね

In my life

桜 春風に乗って
とにかく 陽気になって
ひまわり 大きくなって
夜空に花火が咲いて
秋空 切なくなって
街中 素敵になって
北風 冷たくなって
人肌恋しくなって

In my life

メチャクチャ はしゃぎ回って
爆音でギターかき鳴らして
腹から大声出して
ハチャメチャ 踊りまくって
嫌なこと 忘れちまって
いつもの笑顔になって
そんな君を好きになって
これからヨロシクなって

In my life

頭の中では 心の中では
いつでも聞こえる 始まりの合図
叶わず 零れる あらゆる思いが
切ない心に 溢れているなら
朝まで踊ろうよ 悲しいことなど
忘れてしまえばいいね

In my life
</pre>
<h2 id="reading">曲を読む</h2>
<p>題名が一行だけ置かれる。</p>
<blockquote><p>In my life</p></blockquote>
<p>そして、日本語の動詞が一気に流れ込んでくる。</p>
<blockquote><p>朝から やる気を出して<br>
たまにはその気になって<br>
端から調子に乗って<br>
訳なく強気になって<br>
ココイチ 勇気を出して<br>
モリモリ 元気を出して<br>
ときめく トレンドに乗って<br>
欲望もむき出しにして</p></blockquote>
<p>全部、終わらない。出して。なって。乗って。して。</p>
<p>文を閉じず、次の動作へ渡し続ける。朝から、</p>
<blockquote><p>やる気を出して</p></blockquote>
<p>なのがまず面白い。やる気が出る、ではない。</p>
<p>自分で、出す。勇気も、</p>
<blockquote><p>出して</p></blockquote>
<p>元気も、</p>
<blockquote><p>出して</p></blockquote>
<p>しまう。気分というより、蛇口から出す何かのような扱いである。さらに、</p>
<blockquote><p>訳なく強気になって</p></blockquote>
<p>理由すら要らない。なぜ自信があるのか。そんなことは後回しでいい。強気になってしまえばいい。</p>
<blockquote><p>端から調子に乗って</p></blockquote>
<blockquote><p>トレンドに乗って</p></blockquote>
<p>同じ「乗る」でも、調子。流行。と、乗る対象がどんどん変わる。自分で正しい方向を慎重に決めてから進む歌ではない。まず乗る。</p>
<p>そして最後には、</p>
<blockquote><p>欲望もむき出しにして</p></blockquote>
<p>となる。これもよく見ると、「出し」が入っている。やる気。勇気。元気。</p>
<p>欲望。内側にあるものを、どんどん外へ出していく。そこでまた、</p>
<blockquote><p>In my life</p></blockquote>
<p>と題名が一行だけ戻る。説明はない。これが、my life。らしい。次は、実際に外へ出る。</p>
<blockquote><p>雨なら 電車に乗って<br>
晴れたら 原チャに乗って<br>
あちこち歩きまわって<br>
たまには 道草喰って<br>
嫌なこと 忘れちまって<br>
いつもの笑顔になって<br>
一日 全力出して<br>
見事な結果を出して</p></blockquote>
<p>雨なら電車。晴れたら原チャ。天気によって手段は変える。</p>
<p>でも、外へ出ることは変わらない。</p>
<p>さらに、</p>
<blockquote><p>あちこち歩きまわって</p></blockquote>
<p>目的地だけへ一直線に行くわけでもない。</p>
<blockquote><p>道草喰って</p></blockquote>
<p>まで入る。その一方、後半では、</p>
<blockquote><p>全力出して</p></blockquote>
<blockquote><p>結果を出して</p></blockquote>
<p>である。また「出す」。今度は、気分ではなく、全力。結果。まで出す。</p>
<p>随分なんでも出せる。ただ、その間に一つ重要なものが挟まる。</p>
<blockquote><p>嫌なこと 忘れちまって<br>
いつもの笑顔になって</p></blockquote>
<p>新しい自分になろう、ではない。</p>
<blockquote><p>いつもの笑顔</p></blockquote>
<p>へ戻る。ということは、笑顔そのものが完全になくなったわけではないらしい。嫌なことを忘れれば、いつもの状態へ戻れる。少なくとも、そう自分に言っている。ところが、これだけ外では動いているのに、サビへ行くと急に内側へ戻る。</p>
<blockquote><p>頭の中では 心の中では</p></blockquote>
<blockquote><p>いつかは弾ける 始まりの予感<br>
朝まで踊ろうよ 悲しいことなど<br>
忘れてしまえばいいね</p></blockquote>
<p>外では、乗って。歩いて。全力を出して。結果まで出している。</p>
<p>でも、</p>
<blockquote><p>頭の中では 心の中では</p></blockquote>
<p>まだ、</p>
<blockquote><p>始まりの予感</p></blockquote>
<p>なのである。しかも、</p>
<blockquote><p>いつかは</p></blockquote>
<p>だ。今始まった、ではない。</p>
<p>いつか。まだ先である。外側の生活はすでにかなり動いているのに、心はこれから何かが始まりそうだと感じているだけ。そして、</p>
<blockquote><p>悲しいことなど</p></blockquote>
<p>の、</p>
<blockquote><p>など</p></blockquote>
<p>も少し気になる。悲しいことなんて。そんなもの。と小さく扱おうとしている。</p>
<p>でも歌詞は、悲しくなくなった、とは言わない。</p>
<blockquote><p>忘れてしまえばいいね</p></blockquote>
<p>である。忘れよう。それでいいじゃないか。くらいの提案だ。</p>
<p>解決するでも、受け入れるでもない。とりあえず朝まで踊って、忘れる。今はそれでいい。そんな感じがある。</p>
<p>そして再び、</p>
<blockquote><p>In my life</p></blockquote>
<p>次は、一年が一気に通り過ぎる。</p>
<blockquote><p>桜 春風に乗って<br>
とにかく 陽気になって<br>
ひまわり 大きくなって<br>
夜空に花火が咲いて<br>
秋空 切なくなって<br>
街中 素敵になって<br>
北風 冷たくなって<br>
人肌恋しくなって</p></blockquote>
<p>春。夏。秋。冬。八行で巡る。</p>
<p>でも面白いのは、誰がどうなっているのかが途中から曖昧なことだ。桜が春風に乗る。ひまわりが大きくなる。花火が咲く。そこまでは景色の話らしい。</p>
<p>ところが、</p>
<blockquote><p>とにかく 陽気になって</p></blockquote>
<p>誰が？</p>
<blockquote><p>秋空 切なくなって</p></blockquote>
<p>秋空が切ないのか。自分が切ないのか。</p>
<blockquote><p>街中 素敵になって</p></blockquote>
<p>街全体なのか。見ている側なのか。主語をわざわざ補わないので、季節の変化と、自分の気分と、街の変化が、同じ「なって」の列へ混ざっていく。春なら陽気。秋なら切ない。</p>
<p>冬なら人肌恋しい。どれも、my life。明るい季節だけを選ばない。切なくなることも、誰かが恋しくなることも、同じ一年の中へ入れてしまう。</p>
<p>そこからまた、</p>
<blockquote><p>In my life</p></blockquote>
<p>今度は、急に騒がしくなる。</p>
<blockquote><p>メチャクチャ はしゃぎ回って<br>
爆音でギターかき鳴らして<br>
腹から大声出して<br>
ハチャメチャ 踊りまくって<br>
嫌なこと 忘れちまって<br>
いつもの笑顔になって<br>
そんな君を好きになって<br>
これからヨロシクなって</p></blockquote>
<p>メチャクチャ。爆音。大声。ハチャメチャ。かなりうるさい。</p>
<p>そしてまた、</p>
<blockquote><p>嫌なこと 忘れちまって<br>
いつもの笑顔になって</p></blockquote>
<p>が、そっくり戻る。さっきと同じ方法である。嫌なことがある。忘れる。笑顔になる。</p>
<p>また嫌なことが起きたら、また忘れるのかもしれない。それくらい暫定的だ。</p>
<p>ところが、その直後に、</p>
<blockquote><p>そんな君を好きになって</p></blockquote>
<p>が来る。ここは少し変だ。それまで、はしゃぐ。ギターを鳴らす。大声を出す。</p>
<p>踊る。という動作を、自分の生活の実況として読んでいた。でも、</p>
<blockquote><p>そんな君</p></blockquote>
<p>と言われた瞬間、今までの無主語の動作が、急に君の姿にも見えてくる。はしゃいでいたのは誰なのか。ギターを鳴らしていたのは誰なのか。僕なのか。君なのか。</p>
<p>二人なのか。歌詞は整理しない。自分の日常だけだったはずの <code>my life</code> に、いつの間にか君が入っている。そして、</p>
<blockquote><p>これからヨロシクなって</p></blockquote>
<p>である。普通なら、これからヨロシク。でよさそうだ。でもこの歌は、</p>
<blockquote><p>なって</p></blockquote>
<p>を付ける。よろしく、という挨拶まで、陽気になって。大きくなって。切なくなって。と同じ動詞の流れへ押し込んでしまう。</p>
<p>関係の始まりまで、「なって」で運んでいく。また、</p>
<blockquote><p>In my life</p></blockquote>
<p>最後のサビでは、最初と似た形が戻る。</p>
<p>でも、かなり変わっている。</p>
<blockquote><p>頭の中では 心の中では<br>
いつでも聞こえる 始まりの合図<br>
叶わず 零れる あらゆる思いが<br>
切ない心に 溢れているなら<br>
朝まで踊ろうよ 悲しいことなど<br>
忘れてしまえばいいね</p></blockquote>
<p>最初は、</p>
<blockquote><p>いつかは弾ける 始まりの予感</p></blockquote>
<p>だった。最後は、</p>
<blockquote><p>いつでも聞こえる 始まりの合図</p></blockquote>
<p>になる。まず、</p>
<blockquote><p>いつかは</p></blockquote>
<p>が、</p>
<blockquote><p>いつでも</p></blockquote>
<p>へ変わる。いつか起こるかもしれない。から、いつでも聞こえる。へ。</p>
<p>次に、</p>
<blockquote><p>予感</p></blockquote>
<p>が、</p>
<blockquote><p>合図</p></blockquote>
<p>になる。予感は、自分の中で感じるものだ。合図は、何かが始まる時に届くものだ。そして、</p>
<blockquote><p>弾ける</p></blockquote>
<p>だったものが、</p>
<blockquote><p>聞こえる</p></blockquote>
<p>になる。未来の可能性だった「始まり」が、音として何度でも聞こえるものへ変わる。かなり前進したようにも見える。</p>
<p>ところが、その直後は、</p>
<blockquote><p>叶わず 零れる あらゆる思いが<br>
切ない心に 溢れているなら</p></blockquote>
<p>である。始まりの合図が聞こえる。でも、思いは叶わない。しかも、</p>
<blockquote><p>零れる</p></blockquote>
<p>のに、</p>
<blockquote><p>溢れている</p></blockquote>
<p>外へこぼれているのか。中に溢れているのか。両方だ。抱えきれないものがある。</p>
<p>だから最後の答えは、新しい哲学にはならない。最初とまったく同じ、</p>
<blockquote><p>朝まで踊ろうよ 悲しいことなど<br>
忘れてしまえばいいね</p></blockquote>
<p>である。始まりの予感が、始まりの合図になった。君も現れた。それでも、悲しいものはある。叶わない思いもある。</p>
<p>だから、もう一度踊る。もう一度忘れようとする。この歌の明るさは、悲しみを克服した人の明るさではない。悲しみがまだある人が、やる気を出して。元気を出して。</p>
<p>笑顔になって。ギターを鳴らして。踊って。何度も生活を外側から起動し直している。そして最後に、また一行。</p>
<blockquote><p>In my life</p></blockquote>
<p>それだけで終わる。やる気も。切なさも。恋も。叶わない思いも。</p>
<p>全部、my life。どれか一つだけを本当の自分にしない。この反復が、この曲のかなり大事なところだと思う。</p>
<p>大きな再出発の背景があるのに、歌に出てくるのは電車や原チャや道草といった日常だ。しかもAメロは息継ぎがほとんどなく、本人は本当に息切れしている。そのコメントが「また一興」。再生の歌を立派に仕上げすぎない、その生活感がいい。</p>
<h2 id="production-background">制作背景</h2>
<p>音楽活動からいったん距離を置いた後、歌の上手い人との出会いや新しいバンド構想をきっかけに、再び音楽が生活へ戻り始めた時期の曲。みゅーは「出来た瞬間からこのアルバムの一曲目にと決定していた」と振り返っている。Aメロは本人曰く「もろ、ビートルズのpaperback writer」、サビにはスピッツの影響を感じており、終盤にはもっとオルガンを騒がせる別案もあったが採用しなかった。みゅー本人による詳しい制作記録は、<a href="/notes/production-stories/#story-in-my-life">NOTES「制作秘話」</a>で読めます。</p>
<h2 id="history">Mutant Music史から見ると</h2>
<p>この曲の前には、<a href="/songs/shiawase/">「しあわせ」</a>がある。</p>
<p>現在のみゅーは、「しあわせ」を最後に音楽活動をやめようと思っていたと振り返っている。そのあとに作られたのが、<code>In my life</code>。だから作品史の上では、どうしても、再出発。という言葉が頭に浮かぶ。</p>
<p>しかも本人自身が、「また生きる意味が見つかった」とまで書いている。ただ、この歌を、完全復活しました。もう大丈夫です。という曲にしてしまうと、歌詞とは少し違う。</p>
<blockquote><p>朝まで踊ろうよ 悲しいことなど<br>
忘れてしまえばいいね</p></blockquote>
<p>は二度出る。最後には、</p>
<blockquote><p>叶わず 零れる あらゆる思いが<br>
切ない心に 溢れているなら</p></blockquote>
<p>まで出る。悲しみは残っている。叶わないものもある。それでも始まりの合図を聞いて、また踊る。だから再出発ではある。</p>
<p>でも、それは悲しみを片づけた後の再出発ではない。</p>
<p>悲しいまま、生活を動かし始める。そういう再開だったように見える。Mutant Musicには、題名に <code>life</code> を持つ曲がすでに二つある。まず、<a href="/songs/life-goes-on/">「Life goes on」</a>。</p>
<p>あの曲では、生き方の矛盾や間違いがあっても、生活は続いてしまう。そういう <code>life</code> だった。</p>
<p>次に、<a href="/songs/instant-life/">「インスタントライフ」</a>。こちらでは、一つの生活が始まり、終わり、また別の生活が始まる。短い単位の反復として <code>life</code> を見た。そして、<code>In my life</code>。</p>
<p>今度は、lifeについて説明するというより、その中身を並べる。やる気を出す。雨なら電車。晴れなら原チャ。道草。</p>
<p>春。夏。秋。冬。ギター。</p>
<p>踊る。誰かを好きになる。三曲とも <code>life</code> という言葉を使うけれど、同じ結論へ向かってはいない。続いてしまう生。始まっては終わる生活。</p>
<p>その生活の中で今日やること。縮尺が違う。だから <code>In my life</code> を、過去の二曲がたどり着いた完成形とはしない。むしろこの曲は、人生を大きく説明することを一度やめて、今日の動詞へ戻った歌に見える。そして、4th album『茜空』は、この曲から始まる。</p>
<p>現在のみゅー自身が、出来た時から一曲目に決めていた、と振り返っている。それも少し面白い。新しいアルバムの最初なのに、大きな宣言文から始めない。</p>
<blockquote><p>朝から やる気を出して</p></blockquote>
<p>である。朝起きたところから始まる。そして最後まで、悲しいことは消えない。始まりも、一回きりではない。</p>
<p>最初は、</p>
<blockquote><p>いつかは弾ける 始まりの予感</p></blockquote>
<p>最後には、</p>
<blockquote><p>いつでも聞こえる 始まりの合図</p></blockquote>
<p>となる。始まりは、一度だけ起きる特別な事件ではなくなる。生活の中で、何度でも聞き直すものになる。音楽をやめようと思ったあとにも、また聞こえた。</p>
<p>明日また嫌なことがあっても、もしかすると聞こえる。そのたびに、元気を出して。笑顔になって。朝まで踊る。何度でも始める。</p>
<p><code>In my life</code> という題名は大きいけれど、実際に歌われているのは、そのくらいの日々なのである。</p>
<h2 id="credits">クレジット</h2>
<dl class="song-facts">
  <div><dt>作詞</dt><dd>みゅー</dd></div>
  <div><dt>作曲</dt><dd>みゅー</dd></div>
</dl>
<nav class="song-sequence-nav" aria-label="作品順">
  <a rel="prev" href="/songs/shiawase/"><span class="song-sequence-nav__label">前の曲</span> <span class="song-sequence-nav__title">「しあわせ」</span></a>
  <a class="song-sequence-nav__back" href="/discography/akanezora/">4th album『茜空』へ戻る</a>
  <a rel="next" href="/songs/fletcher/"><span class="song-sequence-nav__label">次の曲</span> <span class="song-sequence-nav__title">「フレッチャー」</span></a>
</nav></div>
            ]]>
        </content>
    </entry>
    <entry>
        <title>フレッチャー</title>
        <author>
            <name>Mutant Music</name>
        </author>
        <link href="https://mutant-music.com/songs/fletcher/"/>
        <id>https://mutant-music.com/songs/fletcher/</id>
        <media:content url="https://mutant-music.com/media/posts/48/fletcher-thumbnail.jpg" medium="image" />
            <category term="year-2008"/>
            <category term="type-song"/>
            <category term="release-akanezora"/>

        <updated>2011-09-04T09:00:00+09:00</updated>
            <summary type="html">
                <![CDATA[
                        <img src="https://mutant-music.com/media/posts/48/fletcher-thumbnail.jpg" alt="青紫の暗がりで一灯だけ照らされた空の舞台" />
                    踊れ。 上れ。逃げるな。全部忘れろ。感じるままに。好きなように楽しめ。 ずいぶん自由な歌である。そして、ずいぶん命令が多い。 楽しんで As you like と言いながら、帰ろうとする人まで指さして、 逃げるな！メガネ と呼び戻す。好きにしろ。ただし、帰るな。この少し無茶な参加への熱意が、「フレッチャー」の勢いを作っている。 YouTubeで見る 澄んだ音で Clap your hands 手を鳴らせ Boys &amp; Girls 済んだことは Slip your mind 今ここで Wash away さぁ！皆踊れ 音に溺れ 恥も捨てて ありのままに Coming up 踊れ！ ステージ（ここ）に上れ 全部忘れて 感じるままに なんだかんだで Happy life 楽しんで As you like さぁ！皆踊れ 音に溺れ&hellip;
                ]]>
            </summary>
        <content type="html">
            <![CDATA[
                    <p><img src="https://mutant-music.com/media/posts/48/fletcher-thumbnail.jpg" class="type:primaryImage" alt="青紫の暗がりで一灯だけ照らされた空の舞台" /></p>
                <div><div class="song-intro" data-content-type="song"><p>踊れ。</p>
<p>上れ。逃げるな。全部忘れろ。感じるままに。好きなように楽しめ。</p>
<p>ずいぶん自由な歌である。そして、ずいぶん命令が多い。</p>
<blockquote><p>楽しんで As you like</p></blockquote>
<p>と言いながら、帰ろうとする人まで指さして、</p>
<blockquote><p>逃げるな！メガネ</p></blockquote>
<p>と呼び戻す。好きにしろ。ただし、帰るな。この少し無茶な参加への熱意が、「フレッチャー」の勢いを作っている。</p></div>
<div class="song-video">
  <div class="post__iframe"><iframe width="560" height="315" src="https://www.youtube-nocookie.com/embed/4d6sNhf4CMY" title="Mutant Music「フレッチャー」" loading="lazy" allow="accelerometer; autoplay; clipboard-write; encrypted-media; gyroscope; picture-in-picture; web-share" allowfullscreen></iframe></div>
</div>
<p class="text-link song-video-link"><a href="https://www.youtube.com/watch?v=4d6sNhf4CMY" rel="noopener">YouTubeで見る</a></p>
<h2 id="work-info">作品情報</h2>
<dl class="song-facts">
  <div><dt>収録作品</dt><dd><a href="/discography/akanezora/">4th album『茜空』</a></dd></div>
  <div><dt>Track</dt><dd>2</dd></div>
  <div><dt>制作</dt><dd>作曲2008年6月・作詞2008年8月</dd></div>
  <div><dt>初出</dt><dd>2011年9月4日</dd></div>
  <div><dt>クレジット</dt><dd>作詞: みゅー／作曲: みゅー</dd></div>
</dl>
<h2 id="lyrics">歌詞</h2>
<pre class="lyrics" lang="ja">澄んだ音で Clap your hands
手を鳴らせ Boys &amp; Girls
済んだことは Slip your mind
今ここで Wash away

さぁ！皆踊れ 音に溺れ
恥も捨てて ありのままに
Coming up 踊れ！ ステージ（ここ）に上れ
全部忘れて 感じるままに

なんだかんだで Happy life
楽しんで As you like

さぁ！皆踊れ 音に溺れ
恥も捨てて ありのままに
Coming up 踊れ！ ステージ（ここ）に上れ
全部忘れて 感じるままに

Ah... おれが稀代のフレッチャー
さぁ！ おれの時代だぜ 逃げるな！踊れ
Ah... これが期待のプレッシャー
さぁ！ 命の炎が 消える前に

Ah... 誰が次代のフレッチャー
さぁ！ 君の時代だぞ 逃げるな！メガネ
Ah... これが期待のプレッシャー
さぁ！ 命の炎が 消える前に

さぁ！皆踊れ 音に溺れ
恥も捨てて ありのままに
Coming up 踊れ！ ステージ（ここ）に上れ
全部忘れて 感じるままに
</pre>
<h2 id="reading">曲を読む</h2>
<p>最初から、音で押してくる。</p>
<blockquote><p>澄んだ音で Clap your hands<br>
手を鳴らせ Boys &amp; Girls<br>
済んだことは Slip your mind<br>
今ここで Wash away</p></blockquote>
<p>まず、</p>
<blockquote><p>澄んだ</p></blockquote>
<p>と、</p>
<blockquote><p>済んだ</p></blockquote>
<p>である。読みは同じ。でも一つは、今、鳴らす音。</p>
<p>もう一つは、もう終わったこと。澄んだ音を出しながら、済んだことは流してしまえ、という形になっている。しかも日本語だけでは終わらない。<code>Clap your hands</code><code>Slip your mind</code><code>Wash away</code>と、短い英語が次々に入る。文法を説明する時間はない。</p>
<p>手を鳴らす。忘れる。洗い流す。とにかく今の身体へ話を戻そうとしている。そしてサビ。</p>
<blockquote><p>さぁ！皆踊れ 音に溺れ<br>
恥も捨てて ありのままに<br>
Coming up 踊れ！ ステージ（ここ）に上れ<br>
全部忘れて 感じるままに</p></blockquote>
<p>まず、</p>
<blockquote><p>踊れ</p></blockquote>
<p>である。命令形。しかもそのすぐ後は、</p>
<blockquote><p>溺れ</p></blockquote>
<p>踊れ。溺れ。音がよく似ている。そして、</p>
<blockquote><p>上れ</p></blockquote>
<p>まで来る。踊れ。溺れ。上れ。意味より先に、末尾の響きが身体を前へ押していく。</p>
<p>面白いのは、</p>
<blockquote><p>音に溺れ</p></blockquote>
<p>という言い方だ。音を聴け、ではない。</p>
<p>音の中へ入れ。しかも沈め。外から鑑賞する位置を残してくれない。さらに、</p>
<blockquote><p>ステージ（ここ）に上れ</p></blockquote>
<p>である。歌詞そのものが、ステージと、ここを重ねている。</p>
<p>舞台は向こうにある特別な場所ではない。</p>
<p>ここ。今いる場所が、そのままステージになる。観客と演者の境目まで崩したいらしい。</p>
<p>ところが、この強い命令の中に、</p>
<blockquote><p>ありのままに</p></blockquote>
<blockquote><p>感じるままに</p></blockquote>
<p>が入っている。ありのままでいい。感じたままでいい。かなり自由な言葉だ。</p>
<p>でも、それを言っている人が、踊れ！</p>
<p>上れ！と叫んでいる。自由にしろ、と命令されている。これは少し可笑しい。もちろん、この矛盾を論理的な欠陥として直す必要はない。</p>
<p>むしろ、どうしても参加してほしい。考えてないで来い。という熱の方が先に立っている。その熱が強すぎるから、自由への誘いまで命令形になる。そして短い二行。</p>
<blockquote><p>なんだかんだで Happy life<br>
楽しんで As you like</p></blockquote>
<p>急に軽い。</p>
<blockquote><p>なんだかんだで</p></blockquote>
<p>で、事情を全部まとめる。何があったのか。何を忘れたいのか。なぜここまで踊らせたいのか。詳しく説明しない。</p>
<p>なんだかんだ。それで、</p>
<blockquote><p>Happy life</p></blockquote>
<p>そして、</p>
<blockquote><p>As you like</p></blockquote>
<p>好きなように。やっぱり自由でいいらしい。でもその直後に、また、</p>
<blockquote><p>皆踊れ</p></blockquote>
<p>が戻ってくる。好きにしていい。ただ、こっちは踊ってほしい。その押し引きがずっと続く。そして後半、急に一人称が大きくなる。</p>
<blockquote><p>Ah... おれが稀代のフレッチャー<br>
さぁ！ おれの時代だぜ 逃げるな！踊れ<br>
Ah... これが期待のプレッシャー<br>
さぁ！ 命の炎が 消える前に</p></blockquote>
<p>まず、</p>
<blockquote><p>おれが稀代のフレッチャー</p></blockquote>
<p>である。大きく出た。</p>
<p>普通のフレッチャーではない。</p>
<blockquote><p>稀代</p></blockquote>
<p>である。そして次の行は、</p>
<blockquote><p>おれの時代だぜ</p></blockquote>
<p>稀代。時代。音が続く。さらに、</p>
<blockquote><p>期待のプレッシャー</p></blockquote>
<p>稀代。時代。期待。ずっと似た音が回っている。しかも内容まで少し面白い。</p>
<p>おれは稀代だ。おれの時代だ。ものすごく自信満々である。その直後に、</p>
<blockquote><p>期待のプレッシャー</p></blockquote>
<p>と言う。自信の表明と、期待される重さが、同じ響きの中に入っている。俺についてこい、と堂々としているだけではない。期待されている。そのことはプレッシャーでもある。</p>
<p>そして、この踊りには突然期限まで付く。</p>
<blockquote><p>命の炎が 消える前に</p></blockquote>
<p>それまでの、手拍子。ダンス。ステージ。Happy life。</p>
<p>という楽しげな空気から、急に、命が消える前に、まで行く。ずいぶん大きい。</p>
<p>でも、この一行が入ることで、なぜそんなに急いで踊らせるのか、少し分かる。</p>
<p>いつでも踊れるわけではない。</p>
<p>身体が動く時間には限りがある。だから、済んだことは流して。恥も捨てて。今ここで。踊れ。</p>
<p>そういう切迫感になる。そして、すぐ次の人物を探し始める。</p>
<blockquote><p>Ah... 誰が次代のフレッチャー<br>
さぁ！ 君の時代だぞ 逃げるな！メガネ<br>
Ah... これが期待のプレッシャー<br>
さぁ！ 命の炎が 消える前に</p></blockquote>
<p>さっきは、</p>
<blockquote><p>稀代</p></blockquote>
<p>だった。今度は、</p>
<blockquote><p>次代</p></blockquote>
<p>である。さらに、</p>
<blockquote><p>君の時代</p></blockquote>
<p>が来る。稀代。時代。期待。次代。</p>
<p>時代。期待。ほとんど音だけで世代交代している。そして重要なのは、</p>
<blockquote><p>おれの時代</p></blockquote>
<p>が、たった一連しか持たないことだ。すぐに、</p>
<blockquote><p>君の時代</p></blockquote>
<p>になる。おれの時代だぜ。と言った本人が、その直後には次を探している。</p>
<p>自分の天下を永久に続けたい歌ではない。</p>
<p>むしろ、今は俺。次は誰だ。という歌だ。しかも、</p>
<blockquote><p>誰が次代のフレッチャー</p></blockquote>
<p>と広く問いかけた直後に、</p>
<blockquote><p>君の時代だぞ</p></blockquote>
<p>となる。「誰が？」から、「君だ」へ急に狭まる。そしてさらに、</p>
<blockquote><p>メガネ</p></blockquote>
<p>まで付く。皆。Boys &amp; Girls。誰が。君。</p>
<p>メガネ。呼びかけの範囲がどんどん一人へ絞られていく。全員へ「踊れ」と言っても、どうしても踊らない人がいる。なら、指名する。そこにいる君。</p>
<p>そこのメガネ。逃げるな。かなり乱暴である。ただし、歌詞だけから、この「メガネ」が誰なのか、までは分からない。後のセルフライナーには、この人物像についてもう少し説明がある。</p>
<p>でも歌詞だけを読めば、集団の外へ出ようとしている一人を、無理やり輪の中へ呼び戻す言葉として残っている。そして最後は、また同じサビ。</p>
<blockquote><p>さぁ！皆踊れ 音に溺れ<br>
恥も捨てて ありのままに<br>
Coming up 踊れ！ ステージ（ここ）に上れ<br>
全部忘れて 感じるままに</p></blockquote>
<p>結局、次代のフレッチャーが誰だったのか、答えは出ない。メガネが踊ったのかも分からない。ステージへ上ったのかも分からない。ただ、</p>
<blockquote><p>上れ</p></blockquote>
<p>と呼びかけたところで歌は終わる。フレッチャーは、完成した一人の主人公の名前というより、誰かから誰かへ渡される役名のようにも見える。おれがフレッチャー。次は誰だ。君だ。</p>
<p>その君も、いつかまた次を呼ぶのかもしれない。この歌では、一番偉い人になることより、熱を止めないことの方が大事らしい。</p>
<p>「みんな踊れ」という命令は、観客だけに向いているわけではない。現在のみゅーは、斜に構えて感情が動くのを避ける「自分の中のメガネ」にも向けた言葉だったと読む。一方で、自分を絶対的な先頭ではなくフォロワー側の「フレッチャー」と捉えながら、歌では堂々と先頭に立つ。その自信と自嘲が同居している。</p>
<h2 id="production-background">制作背景</h2>
<p>この頃のみゅーは、余計なことを考えないよう音楽へ没頭し、「感情の排泄」のように曲を作っていたという。狙っていたのは、突然暗転してミラーボールが回り、観客が踊り、モッシュするようなバンド曲。AパートとB・Cパートは別々に生まれ、「合体したら上手いこと行った」と本人は振り返っている。参照した音楽もピアノとストリングスのファンクから福山雅治までかなり自由で、似ているところには本人自身が「似てる、認める」と書いている。みゅー本人による詳しい制作記録は、<a href="/notes/production-stories/#story-fletcher">NOTES「制作秘話」</a>で読めます。</p>
<h2 id="history">Mutant Music史から見ると</h2>
<p>アルバムでは、この前に <a href="/songs/in-my-life/"><code>In my life</code></a> が置かれている。並べて聴くと、かなり続いて聞こえる。<code>In my life</code> では、</p>
<blockquote><p>朝まで踊ろうよ 悲しいことなど<br>
忘れてしまえばいいね</p></blockquote>
<p>と言った。「フレッチャー」では、</p>
<blockquote><p>全部忘れて 感じるままに</p></blockquote>
<p>そして、</p>
<blockquote><p>皆踊れ</p></blockquote>
<p>である。前の曲で自分へ向けていた、忘れよう。踊ろう。という言葉が、次の曲では、忘れろ。踊れ。</p>
<p>と外へ向く。曲順としては、とてもきれいだ。</p>
<p>ただし制作順は、そのままではない。</p>
<p>両曲とも作曲は2008年6月だが、「フレッチャー」の作詞は8月。<code>In my life</code> の作詞は9月。だから、<code>In my life</code> の思想が「フレッチャー」で集団へ発展した、という制作順にはできない。</p>
<p>アルバムへ並べた時に、自分へ向けた踊りと、みんなへ向けた踊りが、結果として隣り合った。むしろ、その編集上の響きとして見る方がいい。そして以前の<a href="/songs/tokyo-walker/">「Tokyo Walker」</a>には、</p>
<blockquote><p>Everybody say, Tokyo Walker</p></blockquote>
<p>という呼びかけがあった。あの曲でも最後には、みんな、が入ってきた。ただし、参加の仕方はかなり違う。「Tokyo Walker」では、同じ名前を口にする。街を歩く。</p>
<p>それで参加できた。「フレッチャー」はもっと乱暴だ。手を鳴らせ。踊れ。音に溺れろ。</p>
<p>ステージへ上れ。しかも、帰ろうとすれば、逃げるな。である。同じ「みんな」への呼びかけでも、一方は街を一緒に歩く共同体。こちらは身体をぶつけ、ステージへ上げようとする共同体だ。</p>
<p>どちらかがより進んだ形という話ではない。</p>
<p>必要としている参加の温度が違う。そして「フレッチャー」には、参加するだけでは終わらないところがある。</p>
<blockquote><p>おれが稀代のフレッチャー</p></blockquote>
<p>と名乗ったあと、</p>
<blockquote><p>誰が次代のフレッチャー</p></blockquote>
<p>と聞く。</p>
<p>自分が中心になって終わる歌ではない。</p>
<p>自分は誰かの後を追った。今は自分が前に立つ。そして次の誰かを呼ぶ。その誰かも、また次を呼ぶかもしれない。</p>
<p>現在のみゅー自身が、題名をフォロワーシップと結びつけていることを考えると、この曲で面白いのは、先頭と後方が固定されていないことだと思う。フレッチャーは永遠の二番手でもない。絶対的なリーダーでもない。</p>
<p>誰かを追い、ある時には前に出て、また次へ渡す。そういう位置なのだろう。だから、</p>
<blockquote><p>おれの時代だぜ</p></blockquote>
<p>の次に、</p>
<blockquote><p>君の時代だぞ</p></blockquote>
<p>が来る。時代を奪い合うというより、手渡している。ただ、その受け渡しは優しくない。逃げるな。踊れ。</p>
<p>上れ。命の炎が消える前に。かなり強引だ。</p>
<p>でも、この時のみゅー自身が、余計なことを考えないように音楽へ没頭し、それを「感情の排泄」と呼んでいた。そう考えると、この強引さをきれいな教育論へ整える必要もないと思う。まず自分が音へ飛び込む。</p>
<p>次に、隣の人も引きずり込む。そして、その人がまた次を呼ぶ。少なくともこの曲では、それくらい騒がしい形でしか渡せないものがあった。それを渡す人の名前が、フレッチャー、なのだと思う。</p>
<h2 id="credits">クレジット</h2>
<dl class="song-facts">
  <div><dt>作詞</dt><dd>みゅー</dd></div>
  <div><dt>作曲</dt><dd>みゅー</dd></div>
</dl>
<nav class="song-sequence-nav" aria-label="作品順">
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</nav></div>
            ]]>
        </content>
    </entry>
    <entry>
        <title>あの日あの時さよなら</title>
        <author>
            <name>Mutant Music</name>
        </author>
        <link href="https://mutant-music.com/songs/ano-hi-ano-toki-sayonara/"/>
        <id>https://mutant-music.com/songs/ano-hi-ano-toki-sayonara/</id>
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            <category term="type-song"/>
            <category term="release-akanezora"/>

        <updated>2011-09-04T09:00:00+09:00</updated>
            <summary type="html">
                <![CDATA[
                        <img src="https://mutant-music.com/media/posts/49/ano-hi-ano-toki-sayonara-thumbnail.jpg" alt="青い部屋から夕焼け色の部屋へ開く扉" />
                    誰もいない。 でも、あなたとふたり。 同じ部屋。同じ街。同じ「誰にも見つからない」。二度目には、あなたはひとり。ほとんど同じ言葉を繰り返しているだけなのに、場所の意味がまるごと変わる。 そして最後まで、なぜそうなったのかは分からない。 この歌は「さよなら」を説明する歌ではない。 説明できないまま残った「さよなら」に、何度も戻ってくる歌だ。 YouTubeで見る 誰もいない部屋に あなたとふたり 誰もいない街に あなたとふたり 誰もいない世界 あなたとふたり 誰にも見つからないように ふたり いつまでも続く 夢の途中で さよならさ 誰もいない部屋に あなたはひとり 誰もいない街に あなたはひとり 誰もいない星空 あなたはひとり 誰にも見つからないように ひとり どこまでも続く 道の果てに さよならさ いつまでも続くと思っていた なのに ただどこまでも続くと思っていた なのに なすすべもなく 終わりをつげる あなたに さよなら 片道の旅路の上に そっと 取り残されてしまった 忘れ物 ああ 深い闇 手探り まだ探し続けている&hellip;
                ]]>
            </summary>
        <content type="html">
            <![CDATA[
                    <p><img src="https://mutant-music.com/media/posts/49/ano-hi-ano-toki-sayonara-thumbnail.jpg" class="type:primaryImage" alt="青い部屋から夕焼け色の部屋へ開く扉" /></p>
                <div><div class="song-intro" data-content-type="song"><p>誰もいない。</p>
<p>でも、あなたとふたり。</p>
<p>同じ部屋。同じ街。同じ「誰にも見つからない」。二度目には、あなたはひとり。ほとんど同じ言葉を繰り返しているだけなのに、場所の意味がまるごと変わる。</p>
<p>そして最後まで、なぜそうなったのかは分からない。</p>
<p>この歌は「さよなら」を説明する歌ではない。</p>
<p>説明できないまま残った「さよなら」に、何度も戻ってくる歌だ。</p></div>
<div class="song-video">
  <div class="post__iframe"><iframe width="560" height="315" src="https://www.youtube-nocookie.com/embed/Q1Y9LCW_AkQ" title="Mutant Music「あの日あの時さよなら」" loading="lazy" allow="accelerometer; autoplay; clipboard-write; encrypted-media; gyroscope; picture-in-picture; web-share" allowfullscreen></iframe></div>
</div>
<p class="text-link song-video-link"><a href="https://www.youtube.com/watch?v=Q1Y9LCW_AkQ" rel="noopener">YouTubeで見る</a></p>
<h2 id="work-info">作品情報</h2>
<dl class="song-facts">
  <div><dt>収録作品</dt><dd><a href="/discography/akanezora/">4th album『茜空』</a></dd></div>
  <div><dt>Track</dt><dd>3</dd></div>
  <div><dt>制作</dt><dd>作曲2008年10月・作詞2009年2月</dd></div>
  <div><dt>初出</dt><dd>2011年9月4日</dd></div>
  <div><dt>クレジット</dt><dd>作詞: みゅー／作曲: みゅー</dd></div>
</dl>
<h2 id="lyrics">歌詞</h2>
<pre class="lyrics" lang="ja">誰もいない部屋に
 あなたとふたり
誰もいない街に
 あなたとふたり
誰もいない世界
 あなたとふたり
誰にも見つからないように
ふたり

いつまでも続く
夢の途中で
さよならさ

誰もいない部屋に
 あなたはひとり
誰もいない街に
 あなたはひとり
誰もいない星空
 あなたはひとり
誰にも見つからないように
ひとり

どこまでも続く
道の果てに
さよならさ

いつまでも続くと思っていた
なのに
ただどこまでも続くと思っていた
なのに

なすすべもなく
終わりをつげる
あなたに
さよなら

片道の旅路の上に そっと
取り残されてしまった 忘れ物
ああ 深い闇 手探り
まだ探し続けている 愚か者

悲しみで枯れ果てた花に そっと
やさしく降り注ぐ 冷たい雨も
ああ 心潤せない
どうして降り止まない？

どうしても分からない
あの日あの時さよなら
</pre>
<h2 id="reading">曲を読む</h2>
<p>最初は、</p>
<blockquote><p>誰もいない部屋に<br>
 あなたとふたり<br>
誰もいない街に<br>
 あなたとふたり<br>
誰もいない世界<br>
 あなたとふたり<br>
誰にも見つからないように<br>
ふたり</p></blockquote>
<p>「誰もいない」が三度出る。部屋。街。世界。どんどん広がる。</p>
<p>でも、誰もいない、と言いながら、</p>
<blockquote><p>あなたとふたり</p></blockquote>
<p>である。二人はいる。つまり「誰もいない」は、文字どおりの無人ではない。僕とあなた以外、誰もいない。そういう世界らしい。</p>
<p>部屋から街へ。街から世界へ。場所が広がるほど、逆に二人だけになる。そして、</p>
<blockquote><p>誰にも見つからないように</p></blockquote>
<p>である。見つからないことは、ここでは必ずしも怖くない。二人でいるなら、誰にも邪魔されない。誰にも見つからない。そんな秘密の場所にも見える。</p>
<p>最後も、</p>
<blockquote><p>ふたり</p></blockquote>
<p>一語だけだ。誰もいない世界に、ふたり。かなり閉じている。</p>
<p>でも、その閉じた世界は長く続かない。</p>
<blockquote><p>いつまでも続く<br>
夢の途中で<br>
さよならさ</p></blockquote>
<p>まず、</p>
<blockquote><p>いつまでも続く</p></blockquote>
<p>と言う。終わらない。そのはずなのに、次の行は、</p>
<blockquote><p>夢の途中で</p></blockquote>
<p>である。</p>
<p>最後まで見た夢ではない。</p>
<p>途中。そして、</p>
<blockquote><p>さよならさ</p></blockquote>
<p>夢が完結して目覚めたのではない。</p>
<p>まだ途中なのに、切られる。「いつまでも」と、「途中で」。同じ三行の中で、もう噛み合っていない。そして二度目。形はほとんど同じだ。</p>
<blockquote><p>誰もいない部屋に<br>
 あなたはひとり<br>
誰もいない街に<br>
 あなたはひとり<br>
誰もいない星空<br>
 あなたはひとり<br>
誰にも見つからないように<br>
ひとり</p></blockquote>
<p>変わったのは、</p>
<blockquote><p>あなたとふたり</p></blockquote>
<p>から、</p>
<blockquote><p>あなたはひとり</p></blockquote>
<p>である。似ている。</p>
<p>でも同じではない。</p>
<p><code>と</code> が <code>は</code> になる。<code>ふたり</code> が <code>ひとり</code> になる。最初の、</p>
<blockquote><p>あなたと</p></blockquote>
<p>には、誰かとの接続があった。僕とあなた。だから二人だった。二度目では、</p>
<blockquote><p>あなたは</p></blockquote>
<p>と、あなた一人を取り出す。接続する助詞が消えるのと一緒に、ふたり、も、ひとり、へ変わる。ほとんど同じ歌詞を使っているからこそ、この小さな変化が大きい。しかも場所も一つ変わる。</p>
<p>最初は、</p>
<blockquote><p>誰もいない世界</p></blockquote>
<p>だった。二度目は、</p>
<blockquote><p>誰もいない星空</p></blockquote>
<p>になる。部屋。街。その先が、世界、ではなく、星空。視界はむしろ遠くへ開いている。</p>
<p>なのに、あなたはひとり。</p>
<p>広くなったから自由になるわけではない。</p>
<p>そしてまた、</p>
<blockquote><p>誰にも見つからないように</p></blockquote>
<p>である。一度目には、二人だけの秘密に見えた「見つからなさ」が、今度はかなり寂しい。誰にも見つけてもらえない。そんな意味まで帯び始める。</p>
<p>同じ一行なのに、ふたり、か、ひとり、かで変わってしまう。そして二度目の「さよなら」。</p>
<blockquote><p>どこまでも続く<br>
道の果てに<br>
さよならさ</p></blockquote>
<p>最初は、</p>
<blockquote><p>いつまでも</p></blockquote>
<p>だった。今度は、</p>
<blockquote><p>どこまでも</p></blockquote>
<p>になる。時間から、空間へ。そして最初は、</p>
<blockquote><p>夢の途中で</p></blockquote>
<p>だった。今度は、</p>
<blockquote><p>道の果てに</p></blockquote>
<p>になる。途中。から、果て。へ。</p>
<p>それでも共通しているのは、</p>
<blockquote><p>続く</p></blockquote>
<p>という言葉だ。いつまでも続く。でも途中で終わる。どこまでも続く。でも果てがある。</p>
<p>続くはずのものの中に、最初から終わりが入り込んでいる。そして、どちらにも、</p>
<blockquote><p>さよならさ</p></blockquote>
<p>が置かれる。時間をどこまで伸ばしても。道をどこまで伸ばしても。そこに同じ言葉が待っている。だから後で、本人はその矛盾をそのまま言い直す。</p>
<blockquote><p>いつまでも続くと思っていた<br>
なのに<br>
ただどこまでも続くと思っていた<br>
なのに</p></blockquote>
<p>ここで初めて、</p>
<blockquote><p>思っていた</p></blockquote>
<p>と明かされる。いつまでも続く。どこまでも続く。それは世界の事実ではなかった。自分がそう思っていた。</p>
<p>そして、</p>
<blockquote><p>なのに</p></blockquote>
<p>一語だけ。説明はない。何が起きたのか。なぜ終わったのか。誰が悪かったのか。</p>
<p>何も書かない。ただ、なのに。である。二度目には、</p>
<blockquote><p>ただ</p></blockquote>
<p>まで付く。</p>
<blockquote><p>ただどこまでも続くと思っていた</p></blockquote>
<p>「ただ」。ずいぶん控えめな言い方だ。それしか望んでいなかった、と言いたいのかもしれない。でも、どこまでも続くこと、を求めている。実はかなり大きな願いである。</p>
<p>無限を望みながら、「ただ」と言う。そこにも少し無理がある。そして、ようやく直接的な別れが来る。</p>
<blockquote><p>なすすべもなく<br>
終わりをつげる<br>
あなたに<br>
さよなら</p></blockquote>
<blockquote><p>なすすべもなく</p></blockquote>
<p>何もできない。止めることも。変えることも。そして、</p>
<blockquote><p>終わりをつげる</p></blockquote>
<p>だけでは、まだ文が終わらない。誰が終わりを告げるのか。次の行で、</p>
<blockquote><p>あなたに</p></blockquote>
<p>が来る。「終わりをつげる」が「あなた」へつながるなら、終わりを告げるあなたに、最後の一行、</p>
<blockquote><p>さよなら</p></blockquote>
<p>を返しているようにも読める。ただ、主語までは書かれていない。それまで二度出てきたのは、</p>
<blockquote><p>さよならさ</p></blockquote>
<p>だった。少し歌らしく、言い切るような響きがある。ここだけは、</p>
<blockquote><p>さよなら</p></blockquote>
<p>裸の言葉になる。大きな説明もない。返せるものが、それしか残っていないように見える。そして歌は、別れのあとへ行く。</p>
<blockquote><p>片道の旅路の上に そっと<br>
取り残されてしまった 忘れ物<br>
ああ 深い闇 手探り<br>
まだ探し続けている 愚か者</p></blockquote>
<p>まず、</p>
<blockquote><p>片道</p></blockquote>
<p>である。</p>
<p>往復ではない。</p>
<p>戻る道は含まれていない。その旅路の上に、</p>
<blockquote><p>そっと</p></blockquote>
<p>何かが取り残される。</p>
<blockquote><p>忘れ物</p></blockquote>
<p>である。誰が何を忘れたのか。歌詞は明示しない。ただ、ここまでの流れでは、語り手自身まで、置き去りにされた物のように見えてくる。</p>
<p>人ではなく、忘れ物。取りに戻ってもらえる保証もない。それでも、</p>
<blockquote><p>手探り</p></blockquote>
<p>する。そして、</p>
<blockquote><p>まだ探し続けている</p></blockquote>
<p>何を？書かれていない。あなたなのか。別れた理由なのか。続くはずだった道なのか。</p>
<p>自分自身なのか。分からない。むしろ、何を探しているのかさえ分からない感じがある。それでも探す。</p>
<p>だから最後に、</p>
<blockquote><p>愚か者</p></blockquote>
<p>と自分を呼ぶ。見つかる保証がない。存在する保証すらない。それでも闇の中で手を動かしている。</p>
<p>少し滑稽で、かなり寂しい。次の四行にも、</p>
<blockquote><p>そっと</p></blockquote>
<p>が戻る。</p>
<blockquote><p>悲しみで枯れ果てた花に そっと</p></blockquote>
<blockquote><p>やさしく降り注ぐ 冷たい雨も</p></blockquote>
<blockquote><p>ああ 心潤せない</p></blockquote>
<blockquote><p>どうして降り止まない？</p></blockquote>
<p>さっきは、片道の旅路の上に、</p>
<blockquote><p>そっと</p></blockquote>
<p>だった。今度は、枯れ果てた花に、</p>
<blockquote><p>そっと</p></blockquote>
<p>雨が降る。しかも、</p>
<blockquote><p>やさしく</p></blockquote>
<p>降る。かなり穏やかな言葉が重なる。</p>
<p>でも、その雨は、</p>
<blockquote><p>冷たい</p></blockquote>
<p>のである。やさしい。でも冷たい。花は枯れている。雨は降る。</p>
<p>普通なら、水があれば少し潤いそうなものだ。でも、</p>
<blockquote><p>心潤せない</p></blockquote>
<p>花へは雨が届いている。心には届かない。水が足りないから乾いている、という単純な話ではなくなる。そして問い。</p>
<blockquote><p>どうして降り止まない？</p></blockquote>
<p>なぜ雨が止まらないのか。答えは出ない。そのまま最後へ行く。</p>
<blockquote><p>どうしても分からない<br>
あの日あの時さよなら</p></blockquote>
<p>ここは音が少し面白い。一つ前は、</p>
<blockquote><p>どうして降り止まない？</p></blockquote>
<p>だった。次は、</p>
<blockquote><p>どうしても分からない</p></blockquote>
<p>になる。「どうして？」という問いが、「どうしても分からない」へつながる。どれだけ考えても。手探りしても。</p>
<p>探し続けても。分からない。そしてその分からないものに、</p>
<blockquote><p>あの日あの時さよなら</p></blockquote>
<p>という名前を付ける。あの日。あの時。さよなら。間に説明の言葉がない。</p>
<p>いつの日なのか。何があった時なのか。なぜさよならだったのか。具体的なはずの、「あの日」「あの時」</p>
<p>なのに、いちばん肝心なところは空白のままだ。</p>
<p>題名まで来ても、理由は分からない。</p>
<p>この曲は別れを振り返って理解した歌ではない。</p>
<p>振り返っても、まだ分からない。その状態そのものを保存した歌なのだと思う。この歌には、以前の曲への応答、目の前で感じた誰かの孤独、昔から抱いていた人生像、報われない恋、個人的な記憶と、いくつもの入口がある。それを全部、一人の「あなた」の伝記へまとめなくていい。材料の多さを回収しきらないまま歌が終わること自体が、この曲にはよく似合っている。</p>
<h2 id="production-background">制作背景</h2>
<p>サビの旋律には以前から原型があり、曲として形になった時には、バンド仲間と公園で作曲していた。みゅーはキャッチーなPOPを作りたく、当時聴いていたくるり「赤い電車」の影響もあってA・Bメロを作り、すでにあったサビへ「強引にCメロを即興でひとり作り」接続したという。A・Bメロでは「これでもかってくらいのVo多重録音」を行い、最後にもう一度サビを置く構成にもこだわった。みゅー本人による詳しい制作記録は、<a href="/notes/production-stories/#story-ano-hi-ano-toki-sayonara">NOTES「制作秘話」</a>で読めます。</p>
<h2 id="history">Mutant Music史から見ると</h2>
<p>この曲について、制作側から明確な接続が示されているのは、<a href="/songs/egao-nochi-natsu/">「笑顔のち夏」</a>である。イントロで、あの曲のAメロをパロディにした。</p>
<p>現在のみゅーは、アンサーソング、あるいは、その後を描くような気持ちもあった、と振り返っている。「笑顔のち夏」では、離れた相手を待つ時間があった。戻ってくるかどうか。季節がまた巡るかどうか。まだ未来が残っていた。</p>
<p>「あの日あの時さよなら」では、もう、</p>
<blockquote><p>さよなら</p></blockquote>
<p>がある。しかも、</p>
<blockquote><p>あなたとふたり</p></blockquote>
<p>だった空間が、</p>
<blockquote><p>あなたはひとり</p></blockquote>
<p>へ変わる。ただし、「笑顔のち夏」の物語が、そのままこの曲でこうなった、と一つの続編へ固定する必要はない。作者自身も、「その後だったのかもしれない」という記憶の温度だからだ。</p>
<p>完成した二曲を並べると、待つ歌と、終わった後も理由を探す歌。そういう違いが見える。<a href="/songs/hanaretakunai/">「離れたくない」</a>も、さよならの近くにいる歌だった。あちらでは、</p>
<blockquote><p>笑っても 泣いても 君にサヨナラ言わなきゃ</p></blockquote>
<p>と言った。まだ言っていない。でも、言わなければならない。その直前にいる。</p>
<p>「あの日あの時さよなら」では、もう、</p>
<blockquote><p>あなたに<br>
さよなら</p></blockquote>
<p>まで来ている。それでも終わらない。むしろそのあとに、深い闇。手探り。探し続ける。</p>
<p>雨。分からない。が続く。別れの瞬間を越えれば整理できる、というわけではないらしい。言えない時間もある。</p>
<p>言った後に、意味だけが追いつかない時間もある。そして『茜空』の曲順では、直前が<a href="/songs/fletcher/">「フレッチャー」</a>。あちらは、</p>
<blockquote><p>さぁ！皆踊れ 音に溺れ</p></blockquote>
<p>だった。手を鳴らす。ステージへ上がる。皆で踊る。かなり人が多い。</p>
<p>その次の曲の第一声は、</p>
<blockquote><p>誰もいない部屋に</p></blockquote>
<p>である。急に誰もいなくなる。前の曲で、皆。Boys &amp; Girls。君。</p>
<p>メガネ。まで一人ずつステージへ引っ張り込もうとしていたのに、次の曲では、部屋にも。街にも。世界にも。誰もいない。</p>
<p>曲順としては、かなり急な遮断だ。ただし、踊って忘れようとしたから、その反動で孤独になった、という制作上の因果にはしない。「フレッチャー」は作詞が2008年8月。「あの日あの時さよなら」は2009年2月。</p>
<p>別々の時期に書かれた歌を並べたことで、アルバムの中に、群衆から無人へ、という落差ができた。それだけでも十分に強い。そして、この曲は最後まで、答えを得ない。別れの歌は何度も書かれてきた。</p>
<p>でも、別れた理由を理解できた歌ばかりではない。</p>
<p>「あの日あの時さよなら」が残したのは、二人だった。一人になった。さよならを言った。それでも分からない。という、ごく少ない事実だけだ。</p>
<p>その空白があるから、研究の場所で見た孤独も、以前の曲への応答も、自分自身の人生像も、個人的な記憶も、どれか一つに潰されずに同じ歌へ残る。</p>
<blockquote><p>どうしても分からない</p></blockquote>
<p>そこで止まったこと自体が、この曲の答えなのかもしれない。</p>
<h2 id="credits">クレジット</h2>
<dl class="song-facts">
  <div><dt>作詞</dt><dd>みゅー</dd></div>
  <div><dt>作曲</dt><dd>みゅー</dd></div>
</dl>
<nav class="song-sequence-nav" aria-label="作品順">
  <a rel="prev" href="/songs/fletcher/"><span class="song-sequence-nav__label">前の曲</span> <span class="song-sequence-nav__title">「フレッチャー」</span></a>
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  <a rel="next" href="/songs/onnagokoro/"><span class="song-sequence-nav__label">次の曲</span> <span class="song-sequence-nav__title">「女心」</span></a>
</nav></div>
            ]]>
        </content>
    </entry>
    <entry>
        <title>女心</title>
        <author>
            <name>Mutant Music</name>
        </author>
        <link href="https://mutant-music.com/songs/onnagokoro/"/>
        <id>https://mutant-music.com/songs/onnagokoro/</id>
        <media:content url="https://mutant-music.com/media/posts/50/onnagokoro-thumbnail.jpg" medium="image" />
            <category term="year-2008"/>
            <category term="type-song"/>
            <category term="release-akanezora"/>

        <updated>2011-09-04T09:00:00+09:00</updated>
            <summary type="html">
                <![CDATA[
                        <img src="https://mutant-music.com/media/posts/50/onnagokoro-thumbnail.jpg" alt="暖色と寒色の光の間を曲がる一本のリボン" />
                    忘れたい。 でも、忘れないで。 心は冷めていく。でも、燃える。生まれ変われる。たぶん。痛い。 でも、ほんの擦りむいただけ。 この歌は、何かを決めるたびに、その決定をすぐ反対側から揺らす。最後には自分で、 裏腹な願い と名づける。だから「女心」の中心にあるのは、気持ちが分からないことではない。反対向きの気持ちが、どちらも本当であることだ。 YouTubeで見る Ah 私のこの身体は Ah あなたのモノじゃないわ Ah 渇いたこの心は 虚しく 冷めていく 優しい言葉も 耳をすり抜ける 朝になれば 生まれ変われるわ たぶん… ただ 揺れる 踊る 騒ぐ 孤独 Lonely lonely my heart 攻める 守る 逃げる 遊ぶ 女心は 今 触れる身体 透ける 私の白い肌 あなたがまたくれる痛み ほんの擦りむいただけ Ah 子供の頃のように Ah 無邪気に生きられたら&hellip;
                ]]>
            </summary>
        <content type="html">
            <![CDATA[
                    <p><img src="https://mutant-music.com/media/posts/50/onnagokoro-thumbnail.jpg" class="type:primaryImage" alt="暖色と寒色の光の間を曲がる一本のリボン" /></p>
                <div><div class="song-intro" data-content-type="song"><p>忘れたい。</p>
<p>でも、忘れないで。</p>
<p>心は冷めていく。でも、燃える。生まれ変われる。たぶん。痛い。</p>
<p>でも、ほんの擦りむいただけ。</p>
<p>この歌は、何かを決めるたびに、その決定をすぐ反対側から揺らす。最後には自分で、</p>
<blockquote><p>裏腹な願い</p></blockquote>
<p>と名づける。だから「女心」の中心にあるのは、気持ちが分からないことではない。反対向きの気持ちが、どちらも本当であることだ。</p></div>
<div class="song-video">
  <div class="post__iframe"><iframe width="560" height="315" src="https://www.youtube-nocookie.com/embed/UAdZqdPgA_M" title="Mutant Music「女心」" loading="lazy" allow="accelerometer; autoplay; clipboard-write; encrypted-media; gyroscope; picture-in-picture; web-share" allowfullscreen></iframe></div>
</div>
<p class="text-link song-video-link"><a href="https://www.youtube.com/watch?v=UAdZqdPgA_M" rel="noopener">YouTubeで見る</a></p>
<h2 id="work-info">作品情報</h2>
<dl class="song-facts">
  <div><dt>収録作品</dt><dd><a href="/discography/akanezora/">4th album『茜空』</a></dd></div>
  <div><dt>Track</dt><dd>4</dd></div>
  <div><dt>制作</dt><dd>作詞・作曲2008年3月</dd></div>
  <div><dt>初出</dt><dd>2011年9月4日</dd></div>
  <div><dt>クレジット</dt><dd>作詞: みゅー／作曲: みゅー</dd></div>
</dl>
<h2 id="lyrics">歌詞</h2>
<pre class="lyrics" lang="ja">Ah 私のこの身体は
Ah あなたのモノじゃないわ
Ah 渇いたこの心は
虚しく 冷めていく

優しい言葉も 耳をすり抜ける
朝になれば
生まれ変われるわ
たぶん…

ただ 揺れる 踊る 騒ぐ
孤独
Lonely lonely my heart
攻める 守る 逃げる
遊ぶ 女心は

今 触れる身体
透ける 私の白い肌
あなたがまたくれる痛み
ほんの擦りむいただけ

Ah 子供の頃のように
Ah 無邪気に生きられたら
Ah 時間は過ぎていくわ
優しく 残酷に

「悲しい恋だね」さらりと言うのね
掴みかけた幸せは 遠く離れ

まだ濡れる身体
燃える心
Burning burning my heart
揺れる 揺れる 揺れる
揺れる 恋心は

あぁ 拾い 救い 裏切り 捨てる
最低だわ
あなたを今 忘れたいの ただ忘れさせて…

I love you...I love you...
I love you...I love you..."
Lonely lonely my heart
怒り 狂い 叫び 涙 女心は
ただ 枯れる 褪せる 醒める
消える 恋心が

私のこと 忘れないで…
今 忘れさせて…

裏腹な願い
ありがと さよなら
</pre>
<h2 id="reading">曲を読む</h2>
<p>第一声から、身体の話である。</p>
<blockquote><p>Ah 私のこの身体は<br>
Ah あなたのモノじゃないわ<br>
Ah 渇いたこの心は<br>
虚しく 冷めていく</p></blockquote>
<p>まず、</p>
<blockquote><p>私のこの身体</p></blockquote>
<p>と言う。そのすぐ後に、</p>
<blockquote><p>あなたのモノじゃないわ</p></blockquote>
<p>「私の」と、「あなたのモノ」。所有を表す言葉が正面からぶつかる。しかも、</p>
<blockquote><p>モノ</p></blockquote>
<p>だけ片仮名である。身体が所有物のように扱われることへの拒絶が、かなりはっきりしている。私の身体。</p>
<p>あなたのものではない。</p>
<p>ここだけなら、ずいぶん強い。ところが心の方は、</p>
<blockquote><p>冷めていく</p></blockquote>
<p>である。冷めた、ではない。</p>
<p>まだ途中だ。温度を失い続けている。つまり、完全に終わったところから歌っているわけではない。だから次の言葉も、きれいには効かない。</p>
<blockquote><p>優しい言葉も 耳をすり抜ける<br>
朝になれば<br>
生まれ変われるわ<br>
たぶん…</p></blockquote>
<p>優しい言葉。それ自体が嘘だとは書かれていない。でも、</p>
<blockquote><p>耳をすり抜ける</p></blockquote>
<p>入ってこない。そして、</p>
<blockquote><p>朝になれば<br>
生まれ変われるわ</p></blockquote>
<p>かなり強く言う。夜さえ越えれば。明日になれば。新しくなれる。</p>
<p>ところが、その直後に、</p>
<blockquote><p>たぶん…</p></blockquote>
<p>一行だけ落ちる。自分で言った再生の宣言を、自分で弱めてしまう。生まれ変われるわ。たぶん。この二行だけでも、この歌のかなりの部分が見える。</p>
<p>言い切りたい。でも言い切れない。そのあと、感情は説明ではなく動詞になる。</p>
<blockquote><p>ただ 揺れる 踊る 騒ぐ<br>
孤独<br>
Lonely lonely my heart<br>
攻める 守る 逃げる<br>
遊ぶ 女心は</p></blockquote>
<p>まず、</p>
<blockquote><p>揺れる 踊る 騒ぐ</p></blockquote>
<p>動いている。かなり賑やかだ。でもその次に、</p>
<blockquote><p>孤独</p></blockquote>
<p>一語だけ置かれる。踊っている。騒いでいる。でも孤独。外側の動きと、内側の状態が一致しない。</p>
<p>さらに、</p>
<blockquote><p>攻める 守る 逃げる<br>
遊ぶ 女心は</p></blockquote>
<p>も忙しい。攻めるなら前へ行く。守るなら留まる。逃げるなら離れる。遊ぶなら、そもそも真剣に決めない。</p>
<p>方向が全部違う。どれが正しい女心なのか。そんな答えは出ない。全部ある。</p>
<p>そして、</p>
<blockquote><p>女心は</p></blockquote>
<p>で行が終わる。何かをきれいに定義して閉じるのではなく、女心は、と宙に浮いたまま次へ行く。そこで身体がまた現れる。</p>
<blockquote><p>今 触れる身体<br>
透ける 私の白い肌<br>
あなたがまたくれる痛み<br>
ほんの擦りむいただけ</p></blockquote>
<p>冒頭では、</p>
<blockquote><p>あなたのモノじゃないわ</p></blockquote>
<p>と言っていた身体が、今度は、</p>
<blockquote><p>触れる身体</p></blockquote>
<p>として出てくる。ここで何が起きているのかを、歌詞以上に具体化する必要はない。ただ、身体の境界を強く主張した直後にも、相手との接触と、</p>
<blockquote><p>痛み</p></blockquote>
<p>が残っている。しかも、</p>
<blockquote><p>また</p></blockquote>
<p>である。</p>
<p>初めてではない。</p>
<p>それなのに、</p>
<blockquote><p>ほんの擦りむいただけ</p></blockquote>
<p>と小さくする。「擦りむいた」。だけでも小さな傷に聞こえる。さらに、</p>
<blockquote><p>ほんの</p></blockquote>
<p>そして、</p>
<blockquote><p>だけ</p></blockquote>
<p>まで付ける。痛い。でも大したことじゃない。そう言い聞かせているようにも聞こえる。本当に小さな痛みなのか。</p>
<p>小さく扱いたいのか。そこは決めない。ただ、痛みを口にした直後、自分でその大きさを縮めていることは確かだ。二番では、時間そのものが二つの顔を持つ。</p>
<blockquote><p>Ah 子供の頃のように<br>
Ah 無邪気に生きられたら<br>
Ah 時間は過ぎていくわ<br>
優しく 残酷に</p></blockquote>
<p>戻りたいのは、</p>
<blockquote><p>子供の頃</p></blockquote>
<p>である。そして、</p>
<blockquote><p>無邪気</p></blockquote>
<p>今の自分には、もうそのままでは戻れない場所らしい。時間は、</p>
<blockquote><p>過ぎていくわ</p></blockquote>
<p>止まってくれない。その過ぎ方が、</p>
<blockquote><p>優しく 残酷に</p></blockquote>
<p>である。優しい。残酷。反対の形容が、同じ時間に付く。時間が過ぎれば、痛みは遠ざかるかもしれない。</p>
<p>でも、時間が過ぎるということ自体が、戻れないということでもある。どちらなんだ。やっぱり、どちらもなのだ。そのあと、相手との温度差が短い言葉で出る。</p>
<blockquote><p>「悲しい恋だね」さらりと言うのね<br>
掴みかけた幸せは 遠く離れ</p></blockquote>
<p>こちらにとっては、</p>
<blockquote><p>悲しい恋</p></blockquote>
<p>である。でも相手は、</p>
<blockquote><p>さらり</p></blockquote>
<p>と言う。重い内容を、軽い様子で口にする。その一語だけで、二人の温度がずれる。そして、</p>
<blockquote><p>掴みかけた幸せ</p></blockquote>
<p>なのである。掴んだ、ではない。</p>
<p>掴みかけた。もう少しだった。その幸せが、</p>
<blockquote><p>遠く離れ</p></blockquote>
<p>と離れていく。ここも完全な文として落ち着かず、離れていく動作の途中に置かれたような感じが残る。そして、身体と心の温度がひっくり返る。</p>
<blockquote><p>まだ濡れる身体<br>
燃える心<br>
Burning burning my heart<br>
揺れる 揺れる 揺れる<br>
揺れる 恋心は</p></blockquote>
<p>冒頭では、</p>
<blockquote><p>冷めていく</p></blockquote>
<p>心だった。今度は、</p>
<blockquote><p>燃える心</p></blockquote>
<p>である。冷めているのか。燃えているのか。一方向には進まない。</p>
<p>しかも、</p>
<blockquote><p>まだ</p></blockquote>
<p>が付く。身体の状態は続いている。心も燃えている。そして、</p>
<blockquote><p>揺れる</p></blockquote>
<p>を四回。一回でも揺れていることは分かる。でも四回言う。決められない、という説明をする代わりに、実際に言葉を揺らし続ける。その恋心は、次の一節でさらに方向を失う。</p>
<blockquote><p>あぁ 拾い 救い 裏切り 捨てる<br>
最低だわ<br>
あなたを今 忘れたいの ただ忘れさせて…</p></blockquote>
<p>拾う。救う。裏切る。捨てる。</p>
<p>前半二つと、後半二つで、ほとんど反対方向だ。しかも主語がない。誰が拾ったのか。誰が救ったのか。誰が裏切ったのか。</p>
<p>誰が捨てたのか。相手かもしれない。私かもしれない。二人の間で入れ替わっていたのかもしれない。歌詞は決めない。</p>
<p>その直後が、</p>
<blockquote><p>最低だわ</p></blockquote>
<p>である。誰が最低なのかも、文法上は固定されていない。そして、</p>
<blockquote><p>忘れたいの</p></blockquote>
<p>今度こそ方向が決まったように見える。忘れたい。だから、</p>
<blockquote><p>ただ忘れさせて…</p></blockquote>
<p>かなりはっきりしている。</p>
<p>ところが、この歌はまだ終わらない。</p>
<p>むしろここから、</p>
<blockquote><p>I love you...I love you...<br>
I love you...I love you..."</p></blockquote>
<p>となる。忘れさせて。と言った直後に、<code>I love you</code>を四回。言葉の行動だけを見ると、全然忘れる気配がない。</p>
<p>そして、そのあとに戻るのが、</p>
<blockquote><p>Lonely lonely my heart</p></blockquote>
<p>である。この言葉は前半にもあった。踊る。騒ぐ。その中に孤独があった。</p>
<p>後半では、愛している、と四度言った直後にも、孤独が戻る。愛していることと、孤独であることは、反対にならないらしい。そこから「女心」と「恋心」は、さらに激しくなる。</p>
<blockquote><p>怒り 狂い 叫び 涙 女心は<br>
ただ 枯れる 褪せる 醒める<br>
消える 恋心が</p></blockquote>
<p>前の「女心」は、</p>
<blockquote><p>攻める 守る 逃げる<br>
遊ぶ 女心は</p></blockquote>
<p>だった。今度は、怒り。狂い。叫び。涙。</p>
<p>温度がかなり上がる。その一方で、恋心の方は、</p>
<blockquote><p>枯れる</p></blockquote>
<blockquote><p>褪せる</p></blockquote>
<blockquote><p>醒める</p></blockquote>
<blockquote><p>消える</p></blockquote>
<p>と、どんどん失われる方向へ行く。ここで、</p>
<blockquote><p>醒める</p></blockquote>
<p>なのも少し面白い。冒頭には、</p>
<blockquote><p>冷めていく</p></blockquote>
<p>があった。同じ「さめる」という音が、最初と終盤で別の字になって戻る。温度が冷める。夢や酔いから醒める。</p>
<p>そして最後は、消える。恋心はなくなる。そういう着地に見える。ところが。</p>
<blockquote><p>私のこと 忘れないで…<br>
今 忘れさせて…</p></blockquote>
<p>消える恋心の直後に、</p>
<blockquote><p>忘れないで</p></blockquote>
<p>である。忘れたいのは私。でも、あなたには私を忘れてほしくない。そしてすぐ、</p>
<blockquote><p>忘れさせて</p></blockquote>
<p>自分の中からは消したい。相手の中には残りたい。記憶について、完全に逆向きの願いである。そして歌詞自身が、そのことを知っている。</p>
<blockquote><p>裏腹な願い<br>
ありがと さよなら</p></blockquote>
<p>ここが重要だと思う。この矛盾を、聞き手だけが発見したわけではない。歌詞自身が、</p>
<blockquote><p>裏腹な願い</p></blockquote>
<p>と名前を付けている。つまり、忘れたいのか。忘れられたくないのか。どっちなんだ。</p>
<p>という問いに、どちらかを選ぶ必要はない。裏腹なのだ、と最初から認めている。そして最後は、</p>
<blockquote><p>ありがと さよなら</p></blockquote>
<p>になる。怒っていた。最低だとも言った。忘れたいとも言った。</p>
<p>それでも、ありがとう。と言う。全部ひどかったことにすれば、別れはもっと簡単なのかもしれない。でも、感謝できるものまで残っている。だからきれいに嫌いにもなれない。</p>
<p>身体は私のもの。痛みはある。心は冷める。心は燃える。愛している。</p>
<p>恋心は消える。忘れたい。忘れないで。ありがとう。さよなら。</p>
<p>全部ある。題名は「女心」だけれど、歌詞が描いているのは、女性一般の謎めいた本性、ではない。少なくともこの「私」の中に、同時に存在してしまった反対向きの感情である。</p>
<p>女性の一人称で書かれているが、本人は「女視点のものにした。けど、自分の気持ちまんま」と説明している。女性一般の心を論じた歌ではない。さらに「忘れたいのか 忘れたくないのか どっちかはっきりしろ」と実際にツッコまれ、本人の答えは「それも女心」。かなり雑だが、矛盾そのものを消さない曲にはよく似合う。</p>
<h2 id="production-background">制作背景</h2>
<p>『Tokyo Walker』の録音を終え、いったん音楽活動をやめようと思っていた時期に生まれた。曲だけ作って終わるつもりが、その日のうちに歌詞まで書き、現在の回想では短期間でアレンジと録音まで進んだという。当時は短調の歌謡曲をやりたく、キーボード中心の作り方へ戻るきっかけにもなった。後には女性ボーカルで演奏するバンド版も作られた。みゅー本人による詳しい制作記録は、<a href="/notes/production-stories/#story-onnagokoro">NOTES「制作秘話」</a>で読めます。</p>
<h2 id="history">Mutant Music史から見ると</h2>
<p>この曲が生まれたのは、3rd album『Tokyo Walker』の録音直後だった。そのアルバムの最後には、<a href="/songs/shiawase/">「しあわせ」</a>が置かれている。あの曲では、</p>
<blockquote><p>君の 笑顔も 涙も そのすべてが 僕の宝物だよ</p></blockquote>
<p>と歌い、最後には、</p>
<blockquote><p>それが しあわせ</p></blockquote>
<p>と置いた。</p>
<p>現在のみゅーは、その頃、そこで音楽活動を終えるつもりでもいた、と振り返っている。その直後に「女心」ができた。だから作品史だけを見れば、幸福の定義で閉じようとしたあとに、まだ閉じられない感情が、もう一曲出てきたことになる。</p>
<p>ただし、「しあわせ」が間違いだった。本当は不幸だった。という話にはしない。人は、誰かが側にいることを幸せだと思う時もある。</p>
<p>別れの中で、忘れたい。でも忘れないで。と思う時もある。同じ人の中に、別々の時間として両方あっていい。</p>
<p>別れの矛盾という点では、<a href="/songs/hanaretakunai/">「離れたくない」</a>とも並ぶ。あの曲では、</p>
<blockquote><p>君と離れたくない もっと側にいたい それも叶わぬ夢</p></blockquote>
<p>と、もう叶わないことを知りながら、側にいたい、と言い続けた。「女心」では、相手から離れたい方向がもっと強く出る。身体は自分のものだと言う。忘れたいと言う。さよならも言う。</p>
<p>でも、</p>
<blockquote><p>私のこと 忘れないで…</p></blockquote>
<p>が残る。「離れたくない」は、一緒にいたいのに離れていく、という距離の矛盾だった。「女心」は、離れたいのに、相手の記憶からは消えたくない。という記憶の矛盾になる。</p>
<p>同じ別れでも、引っかかる場所が違う。そして『茜空』では、この曲の前に、<a href="/songs/ano-hi-ano-toki-sayonara/">「あの日あの時さよなら」</a>が置かれている。アルバムだけを順番に聴けば、</p>
<blockquote><p>どうしても分からない<br>
あの日あの時さよなら</p></blockquote>
<p>の次に、忘れたい。忘れないで。ありがとう。さよなら。という「女心」が来る。</p>
<p>別れの理由が分からない歌から、別れた後の感情が一方向に決まらない歌へ進む。かなり自然な曲順にも聞こえる。でも制作順は逆である。「女心」は2008年3月。「あの日あの時さよなら」の作詞は2009年2月。</p>
<p>だから、「あの日あの時さよなら」で分からなかった別れを、次の「女心」で別の角度から語った、という制作因果にはできない。後からアルバムへ並べたことで、そういう流れが生まれた。ここは分けておきたい。</p>
<p>「女心」で興味深いのは、矛盾を克服しようとしていないところだと思う。冷める。燃える。攻める。守る。</p>
<p>逃げる。遊ぶ。愛している。消える。忘れたい。</p>
<p>忘れないで。これらを一本の気持ちへ整理しない。そして最後には、自分で、</p>
<blockquote><p>裏腹な願い</p></blockquote>
<p>と認める。だから、この曲を後から、まだ気持ちを整理できていない段階、と呼ぶ必要もない。整理できないことそのものが、この時に書きたかった内容だった。しかもそれを、自分自身の「僕」ではなく、</p>
<blockquote><p>私</p></blockquote>
<p>という声へ移して歌った。距離を取ったから冷静になれた、というより、少し離れた声を借りたことで、むしろ感情を大きく動かせたのかもしれない。題名は「女心」。でも残っているのは、女性とは何か、という答えではない。</p>
<p>別れた時、人は一つの方向だけを向いているとは限らない。そのかなり個人的な記録である。</p>
<h2 id="credits">クレジット</h2>
<dl class="song-facts">
  <div><dt>作詞</dt><dd>みゅー</dd></div>
  <div><dt>作曲</dt><dd>みゅー</dd></div>
</dl>
<nav class="song-sequence-nav" aria-label="作品順">
  <a rel="prev" href="/songs/ano-hi-ano-toki-sayonara/"><span class="song-sequence-nav__label">前の曲</span> <span class="song-sequence-nav__title">「あの日あの時さよなら」</span></a>
  <a class="song-sequence-nav__back" href="/discography/akanezora/">4th album『茜空』へ戻る</a>
  <a rel="next" href="/songs/disturb/"><span class="song-sequence-nav__label">次の曲</span> <span class="song-sequence-nav__title">「disturb」</span></a>
</nav></div>
            ]]>
        </content>
    </entry>
    <entry>
        <title>disturb</title>
        <author>
            <name>Mutant Music</name>
        </author>
        <link href="https://mutant-music.com/songs/disturb/"/>
        <id>https://mutant-music.com/songs/disturb/</id>
        <media:content url="https://mutant-music.com/media/posts/51/disturb-thumbnail.jpg" medium="image" />
            <category term="year-2008"/>
            <category term="type-song"/>
            <category term="release-akanezora"/>

        <updated>2011-09-04T09:00:00+09:00</updated>
            <summary type="html">
                <![CDATA[
                        <img src="https://mutant-music.com/media/posts/51/disturb-thumbnail.jpg" alt="茜色と青色の空を映す透明なガラスのしずく" />
                    息もできない。 やっと一つの愛を終わらせる。すると、息もつかないうちに、次の愛を誓う。これで決まったのかと思えば、また、息もできない。「disturb」は、二つの愛のどちらを選ぶかという歌というより、選んでも、待っても、誓っても、心の乱れが止まらない歌なのだと思う。誰にも邪魔されたくない。 でも、誰にも安らかにはしてもらえない。 かなり困った場所にいる。 YouTubeで見る 今だけは 果てぬ想いに 身を委ねて 綴る私の物語 愛し合い 時を忘れて 身を重ねて 眠る夜を 夢に見てたの そっと 髪を撫でて 口付けて 紅 黄昏 蒼い星空 二つの愛に挟まれて 息もできない程に 鼓動揺らす あなたの愛に絆されて 止めどないこの想い あなたを愛してるわ Please don’t disturb me. Nobody can give me a ‘rest in peace’. いつまでも 燃える想いに 冷めて散った 遠いあなたの横顔 いつの日か 帰るあなたを 待っているわ&hellip;
                ]]>
            </summary>
        <content type="html">
            <![CDATA[
                    <p><img src="https://mutant-music.com/media/posts/51/disturb-thumbnail.jpg" class="type:primaryImage" alt="茜色と青色の空を映す透明なガラスのしずく" /></p>
                <div><div class="song-intro" data-content-type="song"><p>息もできない。</p>
<p>やっと一つの愛を終わらせる。すると、息もつかないうちに、次の愛を誓う。これで決まったのかと思えば、また、息もできない。「disturb」は、二つの愛のどちらを選ぶかという歌というより、選んでも、待っても、誓っても、心の乱れが止まらない歌なのだと思う。誰にも邪魔されたくない。</p>
<p>でも、誰にも安らかにはしてもらえない。</p>
<p>かなり困った場所にいる。</p></div>
<div class="song-video">
  <div class="post__iframe"><iframe width="560" height="315" src="https://www.youtube-nocookie.com/embed/mCCvhbK4HCM" title="Mutant Music「disturb」" loading="lazy" allow="accelerometer; autoplay; clipboard-write; encrypted-media; gyroscope; picture-in-picture; web-share" allowfullscreen></iframe></div>
</div>
<p class="text-link song-video-link"><a href="https://www.youtube.com/watch?v=mCCvhbK4HCM" rel="noopener">YouTubeで見る</a></p>
<h2 id="work-info">作品情報</h2>
<dl class="song-facts">
  <div><dt>収録作品</dt><dd><a href="/discography/akanezora/">4th album『茜空』</a></dd></div>
  <div><dt>Track</dt><dd>5</dd></div>
  <div><dt>制作</dt><dd>作詞・作曲2008年6月</dd></div>
  <div><dt>初出</dt><dd>2011年9月4日</dd></div>
  <div><dt>クレジット</dt><dd>作詞: みゅー／作曲: みゅー</dd></div>
</dl>
<h2 id="lyrics">歌詞</h2>
<pre class="lyrics" lang="ja">今だけは 果てぬ想いに 身を委ねて 綴る私の物語
愛し合い 時を忘れて 身を重ねて 眠る夜を 夢に見てたの

そっと 髪を撫でて 口付けて 紅 黄昏 蒼い星空

二つの愛に挟まれて 息もできない程に 鼓動揺らす
あなたの愛に絆されて 止めどないこの想い
あなたを愛してるわ

Please don’t disturb me. Nobody can give me a ‘rest in peace’.

いつまでも 燃える想いに 冷めて散った 遠いあなたの横顔
いつの日か 帰るあなたを 待っているわ わたしだけはここにいるから

明かりを消して 目を閉じて 消せない想い出 頬を濡らした

巡る季節に 急かされて もう後戻りできない 逃れられない
二つの愛に挟まれて 罪深き この想い
あなたを愛してるわ

悲しい愛を終わらせて 息もつかないうちに 愛を誓う
あなたの愛に絆されて もう戻れない二人
あなたを愛してるわ

揺れる想いに試されて 息もできない程に 苦しみ狂う
あなたの愛に絆されて 罪深き この想い
あなたを愛してるわ
あなたを愛してるわ
あなたを愛してるわ
</pre>
<h2 id="reading">曲を読む</h2>
<p>最初の一行から、時間の長さが合っていない。</p>
<blockquote><p>今だけは 果てぬ想いに 身を委ねて 綴る私の物語<br>
愛し合い 時を忘れて 身を重ねて 眠る夜を 夢に見てたの</p></blockquote>
<blockquote><p>今だけは</p></blockquote>
<p>と言う。今だけ。かなり短い。</p>
<p>ところが、その直後にあるのは、</p>
<blockquote><p>果てぬ想い</p></blockquote>
<p>である。時間は限定する。想いは終わらない。最初から少し無理がある。</p>
<p>しかも、</p>
<blockquote><p>身を委ねて</p></blockquote>
<p>と、</p>
<blockquote><p>身を重ねて</p></blockquote>
<p>「身」が二度出る。考える私より先に、身体が親密さの中へ入っている。でも二行目の最後は、</p>
<blockquote><p>夢に見てたの</p></blockquote>
<p>である。愛し合った。眠った。と言い切ってはいない。そういう夜を夢に見ていた。</p>
<p>現実だった記憶なのか。願っていた光景なのか。その境目は歌詞だけでは決められない。最初から、現実と願望が少し重なっている。</p>
<p>そして、</p>
<blockquote><p>そっと 髪を撫でて 口付けて 紅 黄昏 蒼い星空</p></blockquote>
<p>急に文法まで薄くなる。誰が誰の髪を撫でるのか。主語はない。紅。黄昏。</p>
<p>蒼い星空。色と時間だけが並ぶ。紅から蒼へ。夕方から夜へ。触れる身体も、その中へ一緒に流れていくように見える。</p>
<p>そこへ、サビが入る。</p>
<blockquote><p>二つの愛に挟まれて 息もできない程に 鼓動揺らす<br>
あなたの愛に絆されて 止めどないこの想い<br>
あなたを愛してるわ</p></blockquote>
<p>ここで初めて、</p>
<blockquote><p>二つの愛</p></blockquote>
<p>と出る。二つの選択肢が目の前に並んでいる、ではない。</p>
<blockquote><p>挟まれて</p></blockquote>
<p>である。左右から圧力を受けている。しかも、</p>
<blockquote><p>息もできない程に</p></blockquote>
<p>身体へ来る。呼吸できない。その状態で、</p>
<blockquote><p>鼓動揺らす</p></blockquote>
<p>心臓は動いている。息は詰まる。鼓動は揺れる。身体の中が忙しい。</p>
<p>ところが、二つの愛と言った直後には、</p>
<blockquote><p>あなたの愛</p></blockquote>
<p>と、一人称ならぬ一人の「あなた」へ絞られる。二つある。でも今、呼びかける相手は「あなた」。そして、</p>
<blockquote><p>絆されて</p></blockquote>
<p>である。自分の意志だけでまっすぐ愛している、という語感ではない。相手から向けられた愛や情によって、自分の心まで動かされている。だから、</p>
<blockquote><p>止めどないこの想い</p></blockquote>
<p>になる。自分から出したのか。相手から引き出されたのか。もう分けにくい。</p>
<p>それでも最後には、</p>
<blockquote><p>あなたを愛してるわ</p></blockquote>
<p>と言い切る。かなりまっすぐだ。</p>
<p>でも、その直後がこれである。</p>
<blockquote><p>Please don’t disturb me. Nobody can give me a ‘rest in peace’.</p></blockquote>
<p>邪魔しないで。でも、誰も私に安らぎを与えられない。少し変わった英語のまま置かれている。ここでは校正しない。</p>
<p>むしろ、外から邪魔されなければ静かになれる、とも言っていないところが気になる。<code>Please don’t disturb me.</code>と言いながら、すでに自分の中では、二つの愛。息のできなさ。揺れる鼓動。止めどない想い。</p>
<p>が動いている。誰かに静かにしてもらうだけでは足りない。その状態そのものが、<code>disturb</code>なのかもしれない。二番では、時間がもっとずれる。</p>
<blockquote><p>いつまでも 燃える想いに 冷めて散った 遠いあなたの横顔<br>
いつの日か 帰るあなたを 待っているわ わたしだけはここにいるから</p></blockquote>
<p>こちらには、</p>
<blockquote><p>いつまでも 燃える想い</p></blockquote>
<p>がある。燃えている。でも同じ一行には、</p>
<blockquote><p>冷めて散った</p></blockquote>
<p>がある。燃える。冷める。一行の中で温度が反対になる。</p>
<p>しかも、</p>
<blockquote><p>遠いあなたの横顔</p></blockquote>
<p>である。想いはこちらに残る。あなたは遠い。二人の時間が同じ速度では進んでいない。</p>
<p>それでも、</p>
<blockquote><p>いつの日か 帰るあなたを</p></blockquote>
<blockquote><p>待っているわ</p></blockquote>
<p>と待つ。ここは未来をかなり長く取る。いつの日か。いつか帰る。</p>
<p>そして、</p>
<blockquote><p>わたしだけはここにいるから</p></blockquote>
<p>「私が」ではなく、</p>
<blockquote><p>わたしだけは</p></blockquote>
<p>である。他のものが変わっても。誰かがいなくなっても。少なくとも私だけは、ここにいる。献身にも聞こえる。</p>
<p>同時に、動けない一人にも見える。</p>
<p>ところが、待っている間にも記憶は消えない。</p>
<blockquote><p>明かりを消して 目を閉じて 消せない想い出 頬を濡らした</p></blockquote>
<p>まず、</p>
<blockquote><p>明かりを消して</p></blockquote>
<p>物理的な光なら消せる。</p>
<blockquote><p>目を閉じて</p></blockquote>
<p>見えるものも遮れる。それでも、</p>
<blockquote><p>消せない想い出</p></blockquote>
<p>が残る。同じ「消す」が、できるものと、できないものへ分かれる。明かりは消せる。思い出は消せない。</p>
<p>だから、</p>
<blockquote><p>頬を濡らした</p></blockquote>
<p>まで行く。そして、待っている人を、時間の方が待ってくれない。</p>
<blockquote><p>巡る季節に 急かされて もう後戻りできない 逃れられない<br>
二つの愛に挟まれて 罪深き この想い<br>
あなたを愛してるわ</p></blockquote>
<p>季節は、</p>
<blockquote><p>巡る</p></blockquote>
<p>同じところへ戻る言葉だ。春の次に夏。秋。冬。そしてまた。</p>
<p>でも、その季節に急かされる本人は、</p>
<blockquote><p>後戻りできない</p></blockquote>
<p>のである。季節は戻る。自分は戻れない。さらに、</p>
<blockquote><p>逃れられない</p></blockquote>
<p>前にも行きにくい。後ろにも戻れない。横へ逃げることもできない。かなり狭い。</p>
<p>しかも、ここで再び、</p>
<blockquote><p>二つの愛</p></blockquote>
<p>が出る。最初は、息もできない。今度は、</p>
<blockquote><p>罪深き この想い</p></blockquote>
<p>と、自分で倫理的な重さまで付ける。それでも最後の文は変わらない。</p>
<blockquote><p>あなたを愛してるわ</p></blockquote>
<p>である。罪深い。でも愛している。だからやめる。にはならない。</p>
<p>そして、いったん大きな決断が起きる。</p>
<blockquote><p>悲しい愛を終わらせて 息もつかないうちに 愛を誓う<br>
あなたの愛に絆されて もう戻れない二人<br>
あなたを愛してるわ</p></blockquote>
<p>ここは、かなり重要だと思う。</p>
<blockquote><p>悲しい愛を終わらせて</p></blockquote>
<p>一つ、終わったように見える。では休むのか。悲しむのか。考えるのか。違う。</p>
<blockquote><p>息もつかないうちに</p></blockquote>
<p>である。最初のサビでは、</p>
<blockquote><p>息もできない程に</p></blockquote>
<p>だった。今度は、息をつく暇さえない。呼吸の問題が、別の形で戻る。そして、</p>
<blockquote><p>愛を誓う</p></blockquote>
<p>終わらせた。すぐ誓った。間がない。だから、新しい愛が安らぎの場所になった、ともまだ言えない。</p>
<p>しかも、</p>
<blockquote><p>もう戻れない二人</p></blockquote>
<p>である。少し前には、</p>
<blockquote><p>いつの日か 帰るあなた</p></blockquote>
<p>を待っていた。あなたには帰ってきてほしい。でも二人は、</p>
<blockquote><p>もう戻れない</p></blockquote>
<p>「帰る」と「戻る」は同じではない。</p>
<p>それでも、戻ってきてほしい願いと、もう戻れない関係が、同じ歌にある。そしてここまで来ると、選択が終わったように見える。悲しい愛を終えた。新しい愛を誓った。二人はもう戻れない。</p>
<p>これで決着。になりそうだ。</p>
<p>ところが、歌はもう一度揺れる。</p>
<blockquote><p>揺れる想いに試されて 息もできない程に 苦しみ狂う<br>
あなたの愛に絆されて 罪深き この想い<br>
あなたを愛してるわ<br>
あなたを愛してるわ<br>
あなたを愛してるわ</p></blockquote>
<p>また、</p>
<blockquote><p>揺れる想い</p></blockquote>
<p>である。決まっていない。さらに、</p>
<blockquote><p>息もできない程に</p></blockquote>
<p>最初のサビまで戻る。息ができない。愛を終える。息もつかず愛を誓う。</p>
<p>そしてまた、息ができない。ぐるっと戻ってしまう。しかも今度は、</p>
<blockquote><p>鼓動揺らす</p></blockquote>
<p>より激しい。</p>
<blockquote><p>苦しみ狂う</p></blockquote>
<p>である。愛を誓ったら静かになった、ではない。</p>
<p>新しい不可逆性を作ったあとにも、苦しさが残る。そして、</p>
<blockquote><p>あなたの愛に絆されて</p></blockquote>
<p>も、</p>
<blockquote><p>罪深き この想い</p></blockquote>
<p>も、また戻る。その最後に、</p>
<blockquote><p>あなたを愛してるわ</p></blockquote>
<p>一度。もう一度。もう一度。三度繰り返す。一回では足りない。</p>
<p>強い告白だから三回なのかもしれない。自分の答えを固定するために、何度も言い直しているようにも聞こえる。どちらか一方へ決める必要はない。重要なのは、三度「愛してる」と言っても、歌詞が、二つの愛はこう解決しました、とは説明しないことだ。誰を選んだのか。</p>
<p>何が終わったのか。何がまだ残っているのか。人物関係を埋めれば、もっと分かりやすい物語にはできる。でも歌詞はそこを書かない。</p>
<p>残っているのは、待つ。戻れない。逃れられない。誓う。また揺れる。</p>
<p>そして、愛している。という動きだけだ。タイトルは <code>disturb</code>。乱れを止める答えではなく、乱れたまま「愛してる」と言い続けるところで終わる。</p>
<p>かなり考えて作り、何度も録り直したのに、最後に残ったのは作り込みすぎていないデモだった。完成歌詞の前には「サーンタークロースにあーこがーれてー」という本人曰く「意味不明」な仮歌まであった。構想と偶然が同じ曲の中で並んでいるところが面白い。</p>
<h2 id="production-background">制作背景</h2>
<p>現在のみゅーは「典型的なデモテープが良かった曲」と振り返っている。何度も録り直した末、採用したのは自宅で何気なく録ったデモだったという。当時のメモでは、6/8拍子と歌謡曲的な世界を試し、ピアノを弾いていて偶然できたコード進行から曲が始まった。あるメロディについて本人が「酷似ってかパクり」とまで書いているのも、妙に潔い。みゅー本人による詳しい制作記録は、<a href="/notes/production-stories/#story-disturb">NOTES「制作秘話」</a>で読めます。</p>
<h2 id="history">Mutant Music史から見ると</h2>
<p>この曲より少し前に作られた<a href="/songs/onnagokoro/">「女心」</a>も、</p>
<blockquote><p>私</p></blockquote>
<p>という声で歌った。そして、あの曲もかなり揺れていた。冷める。燃える。忘れたい。</p>
<p>忘れないで。最後には、</p>
<blockquote><p>裏腹な願い</p></blockquote>
<p>と、自分でその矛盾を認める。<code>disturb</code> も女性の一人称を使う。ただ、揺れ方が少し違う。「女心」では、一人の相手を、忘れたい。でも忘れられたくない。</p>
<p>という、同じ関係の中で逆向きの願いが動いた。<code>disturb</code> では、</p>
<blockquote><p>二つの愛に挟まれて</p></blockquote>
<p>と、圧力そのものが複数になる。さらに、一つの愛を終える。すぐ別の愛を誓う。それでもまた揺れる。</p>
<p>関係を選べば感情が一つになる、という筋にならない。どちらが複雑で、どちらが成熟している、という話ではない。「女心」は記憶が逆方向へ引く歌。<code>disturb</code> は、愛。待つこと。</p>
<p>別れ。誓い。戻れなさ。が同じ時間の中へ押し込まれている歌だ。</p>
<p>もっと前の<a href="/songs/hanaretakunai/">「離れたくない」</a>には、</p>
<blockquote><p>戻ってきてくれないか</p></blockquote>
<p>という呼びかけがあった。離れていく相手へ、戻ってきてほしい。<code>disturb</code> にも、</p>
<blockquote><p>いつの日か 帰るあなたを 待っているわ</p></blockquote>
<p>がある。ただ、こちらでは同じ歌の中に、</p>
<blockquote><p>もう後戻りできない</p></blockquote>
<p>そして、</p>
<blockquote><p>もう戻れない二人</p></blockquote>
<p>まで出てくる。帰ってきてほしい。でも戻れない。この二つも両立してしまう。</p>
<p>「女心」の、忘れたい。忘れないで。と少し似ている。Mutant Musicの別れの歌では、片方の願いを捨てれば解決する、という形にならないことが何度もある。</p>
<p>そして『茜空』の曲順では、この前に<a href="/songs/ano-hi-ano-toki-sayonara/">「あの日あの時さよなら」</a>が置かれている。あちらでは、</p>
<blockquote><p>どうしても分からない</p></blockquote>
<p>で終わった。その次に <code>disturb</code> を聴くと、分からなかった別れの後に、二つの愛へ挟まれた人が現れるようにも聞こえる。でも制作順は逆である。<code>disturb</code> は2008年6月。「あの日あの時さよなら」の作詞は2009年2月。</p>
<p>だから、別れの意味が分からなかったあと、新しい二つの愛で揺れた、という伝記にはできない。アルバムへ並べたことで、結果としてそういう不穏な連続が生まれた。そのくらいでいい。</p>
<p><code>disturb</code> が最後に残すのは、選択の正解ではない。一度は、</p>
<blockquote><p>悲しい愛を終わらせて</p></blockquote>
<p>と言う。次には、</p>
<blockquote><p>愛を誓う</p></blockquote>
<p>と言う。それでもまた、</p>
<blockquote><p>揺れる想い</p></blockquote>
<p>に試される。つまり、決めたことと、心が静まることは、別である。そして最後には、</p>
<blockquote><p>あなたを愛してるわ</p></blockquote>
<p>を三回。説明より、同じ言葉を重ねる。それで乱れが収まったかどうかは書かない。むしろ、三回必要だったことの方が気になる。</p>
<p>この曲にとって、愛している、は答えというより、揺れている最中にも手放せなかった一文だったのだと思う。</p>
<h2 id="credits">クレジット</h2>
<dl class="song-facts">
  <div><dt>作詞</dt><dd>みゅー</dd></div>
  <div><dt>作曲</dt><dd>みゅー</dd></div>
</dl>
<nav class="song-sequence-nav" aria-label="作品順">
  <a rel="prev" href="/songs/onnagokoro/"><span class="song-sequence-nav__label">前の曲</span> <span class="song-sequence-nav__title">「女心」</span></a>
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</nav></div>
            ]]>
        </content>
    </entry>
    <entry>
        <title>明日を待ってる</title>
        <author>
            <name>Mutant Music</name>
        </author>
        <link href="https://mutant-music.com/songs/ashita-o-matteru/"/>
        <id>https://mutant-music.com/songs/ashita-o-matteru/</id>
        <media:content url="https://mutant-music.com/media/posts/52/ashita-o-matteru-thumbnail.jpg" medium="image" />
            <category term="type-song"/>
            <category term="release-akanezora"/>

        <updated>2011-09-04T09:00:00+09:00</updated>
            <summary type="html">
                <![CDATA[
                        <img src="https://mutant-music.com/media/posts/52/ashita-o-matteru-thumbnail.jpg" alt="細い月と朝焼けを映す建物の窓" />
                    人の目を気にせず生きられたら、いいのに。人の目を気にせず愛し合えたら、いいのに。転んでもすぐ起き上がれたら、いいのに。 でも、できない。 そこで最後に出てくるのが、 無理はするな いいさ 明日を待てばいいさ である。理想どおりにできない今日を、明日までに直せとは言わない。まあ、いいさ。明日で。この歌の力の抜け方は、そこにある。 YouTubeで見る 我が道を行くと決めたはずなのに 気がつけば評価を求めている 人の目など気にせず生きられたらいいのに それでも顔色伺っている それはそれでいいか？ 下らない夢と諦めたはずなのに 気がつけばまだ追い求めている 目をつぶって心を閉ざしてしまうのではなく それでも好きなモノは好きと 胸を張って言いたい 僕は君のことが好きで 君は僕のことが好きで 見上げれば空には月で いつもと変わらない月で 自分のペースでやれよ 気楽に構えていけよ 余裕かましてコケろ 気分上々 いつも心に音楽を 人の目など気にせず 愛し合えたらいいのに それでも噂を恐れている 何度転んだってすぐに起き上がれればいいのに 立ち上がることを恐れている 無理はするな いいさ 明日を待てばいいさ 曲を読む 最初から、自分で決めたことを守れていない。 我が道を行くと決めたはずなのに 気がつけば評価を求めている 人の目など気にせず生きられたらいいのに それでも顔色伺っている それはそれでいいか？ まず、 決めたはずなのに である。我が道を行く。もう決めた。それなら迷わなくてよさそうだ。&hellip;
                ]]>
            </summary>
        <content type="html">
            <![CDATA[
                    <p><img src="https://mutant-music.com/media/posts/52/ashita-o-matteru-thumbnail.jpg" class="type:primaryImage" alt="細い月と朝焼けを映す建物の窓" /></p>
                <div><div class="song-intro" data-content-type="song"><p>人の目を気にせず生きられたら、いいのに。人の目を気にせず愛し合えたら、いいのに。転んでもすぐ起き上がれたら、いいのに。</p>
<p>でも、できない。</p>
<p>そこで最後に出てくるのが、</p>
<blockquote><p>無理はするな いいさ 明日を待てばいいさ</p></blockquote>
<p>である。理想どおりにできない今日を、明日までに直せとは言わない。まあ、いいさ。明日で。この歌の力の抜け方は、そこにある。</p></div>
<div class="song-video">
  <div class="post__iframe"><iframe width="560" height="315" src="https://www.youtube-nocookie.com/embed/dwf4Hf67cdM" title="Mutant Music「明日を待ってる」" loading="lazy" allow="accelerometer; autoplay; clipboard-write; encrypted-media; gyroscope; picture-in-picture; web-share" allowfullscreen></iframe></div>
</div>
<p class="text-link song-video-link"><a href="https://www.youtube.com/watch?v=dwf4Hf67cdM" rel="noopener">YouTubeで見る</a></p>
<h2 id="work-info">作品情報</h2>
<dl class="song-facts">
  <div><dt>収録作品</dt><dd><a href="/discography/akanezora/">4th album『茜空』</a></dd></div>
  <div><dt>Track</dt><dd>6</dd></div>
  <div><dt>制作</dt><dd>作詞・作曲2007年2月〜2009年9月</dd></div>
  <div><dt>初出</dt><dd>2011年9月4日</dd></div>
  <div><dt>クレジット</dt><dd>作詞: みゅー／作曲: みゅー</dd></div>
</dl>
<h2 id="lyrics">歌詞</h2>
<pre class="lyrics" lang="ja">我が道を行くと決めたはずなのに 気がつけば評価を求めている
人の目など気にせず生きられたらいいのに それでも顔色伺っている
それはそれでいいか？

下らない夢と諦めたはずなのに 気がつけばまだ追い求めている
目をつぶって心を閉ざしてしまうのではなく それでも好きなモノは好きと
胸を張って言いたい

僕は君のことが好きで 君は僕のことが好きで
見上げれば空には月で いつもと変わらない月で

自分のペースでやれよ 気楽に構えていけよ 余裕かましてコケろ
気分上々 いつも心に音楽を

人の目など気にせず 愛し合えたらいいのに それでも噂を恐れている
何度転んだってすぐに起き上がれればいいのに 立ち上がることを恐れている
無理はするな いいさ 明日を待てばいいさ
</pre>
<h2 id="reading">曲を読む</h2>
<p>最初から、自分で決めたことを守れていない。</p>
<blockquote><p>我が道を行くと決めたはずなのに 気がつけば評価を求めている<br>
人の目など気にせず生きられたらいいのに それでも顔色伺っている<br>
それはそれでいいか？</p></blockquote>
<p>まず、</p>
<blockquote><p>決めたはずなのに</p></blockquote>
<p>である。我が道を行く。もう決めた。それなら迷わなくてよさそうだ。</p>
<p>でも、</p>
<blockquote><p>気がつけば</p></blockquote>
<p>評価を求めている。</p>
<p>意志が弱くなった瞬間を描くのではない。</p>
<p>気がついたら、もうそうしていた。そして、</p>
<blockquote><p>人の目など気にせず生きられたらいいのに</p></blockquote>
<p>理想は分かっている。人の目なんか気にしない。自分の道を行く。そう生きられたら、</p>
<blockquote><p>いいのに</p></blockquote>
<p>である。まだ、そう生きられてはいない。実際には、</p>
<blockquote><p>それでも顔色伺っている</p></blockquote>
<p>「それでも」が効く。理想を知っている。我が道を行くとも決めた。<strong>それでも</strong>、見る。相手の顔色を。</p>
<p>ここで歌が、もっと強くなれ。自分を貫け。と叱るなら、かなり普通の応援歌になる。でも出てくるのは、</p>
<blockquote><p>それはそれでいいか？</p></blockquote>
<p>疑問形である。いい。とはまだ言い切らない。駄目だ。とも言わない。</p>
<p>それはそれで、いいか？少しだけ自分を許してみようとしている。まだ自信はない。二つ目も、よく似た形だ。</p>
<blockquote><p>下らない夢と諦めたはずなのに 気がつけばまだ追い求めている<br>
目をつぶって心を閉ざしてしまうのではなく それでも好きなモノは好きと<br>
胸を張って言いたい</p></blockquote>
<p>また、</p>
<blockquote><p>諦めたはずなのに</p></blockquote>
<p>である。さっきは、決めたはず。今度は、諦めたはず。方向は反対なのに、どちらも守れていない。我が道を行くと決めたのに、評価を求める。</p>
<p>夢を諦めたのに、まだ追っている。そしてまた、</p>
<blockquote><p>気がつけば</p></blockquote>
<p>である。決意より、気がつけば、の方が強い。人間は自分で下した決定だけでは、きれいに動かないらしい。しかもその夢を、</p>
<blockquote><p>下らない夢</p></blockquote>
<p>と呼ぶ。本当に下らないと思っているのか。諦めるために、そう呼んだのか。歌詞だけでは分からない。</p>
<p>ただ、下らないと言った本人が、</p>
<blockquote><p>まだ追い求めている</p></blockquote>
<p>ことだけは確かだ。そして、</p>
<blockquote><p>好きなモノは好きと</p></blockquote>
<p>「モノ」は片仮名である。何が好きなのかは一つに決めない。人。音楽。仕事。</p>
<p>夢。生き方。いろいろ入れられる。でも重要なのは、その次だ。</p>
<blockquote><p>胸を張って言いたい</p></blockquote>
<p>「言う」。</p>
<p>ではない。</p>
<blockquote><p>言いたい</p></blockquote>
<p>である。まだ言えていない。いつか胸を張って、好きなものは好き、と言いたい。その願いの直後に、急に歌詞の言葉が単純になる。</p>
<blockquote><p>僕は君のことが好きで 君は僕のことが好きで<br>
見上げれば空には月で いつもと変わらない月で</p></blockquote>
<p>かなり妙な二行だ。全部、</p>
<blockquote><p>で</p></blockquote>
<p>で終わる。僕は君が好き<strong>で</strong>。君は僕が好き<strong>で</strong>。空には月<strong>で</strong>。いつもと変わらない月<strong>で</strong>。</p>
<p>文が終わらない。結論へ行かない。四つのことを、ただ横に置く。僕は君が好き。君も僕が好き。</p>
<p>空には月がある。その月はいつもと変わらない。それだけ。少し前まで、評価。人の目。</p>
<p>顔色。夢。と頭の中がかなり忙しかった。ここでは突然、説明がなくなる。</p>
<p>二人が互いを好きであることを、世間に正当化しようとしない。なぜ好きなのか。この関係は正しいのか。未来はどうなるのか。何も言わない。</p>
<p>好きで。好きで。月で。月で。かなり乱暴である。</p>
<p>でも、その乱暴さのおかげで、一度だけ世界が静かになる。人の評価は変わる。噂も変わる。自分の気持ちも揺れる。</p>
<p>でも、</p>
<blockquote><p>いつもと変わらない月</p></blockquote>
<p>がある。だから大丈夫だ、とまで歌詞は言わない。ただ、見上げたら今日も月だった。そのくらいで止めている。そして、いよいよこの曲らしい自分への声が出る。</p>
<blockquote><p>自分のペースでやれよ 気楽に構えていけよ 余裕かましてコケろ<br>
気分上々 いつも心に音楽を</p></blockquote>
<p>急に口調が変わる。</p>
<blockquote><p>やれよ</p></blockquote>
<blockquote><p>いけよ</p></blockquote>
<blockquote><p>コケろ</p></blockquote>
<p>命令形である。でも内容は、頑張れ。負けるな。</p>
<p>ではない。</p>
<blockquote><p>自分のペースで</p></blockquote>
<blockquote><p>気楽に</p></blockquote>
<p>である。命令しているのに、力を抜かせようとしている。そして白眉が、</p>
<blockquote><p>余裕かましてコケろ</p></blockquote>
<p>普通なら、転ぶな。あるいは、転んでも立ち上がれ。と言うところだ。でも、コケろ。である。</p>
<p>しかも、</p>
<blockquote><p>余裕かまして</p></blockquote>
<p>少しくらい格好をつけたまま転べ。転ぶことそのものを、重大事件にしない。失敗を防ぐのではなく、失敗の重さを減らそうとしている。これは後半の、立ち上がれない自分、とかなり関係してくる。</p>
<p>その前に、</p>
<blockquote><p>気分上々</p></blockquote>
<p>と言う。本当に気分が上々なのか。そういう構えで行こう、ということなのか。歌詞だけでは決めなくていい。</p>
<p>ただ、その隣には、</p>
<blockquote><p>いつも心に音楽を</p></blockquote>
<p>がある。勝つこと。評価されること。夢を叶えること。</p>
<p>ではなく、音楽を持っておく。それくらいなら、今の自分にもできる。最後の連では、冒頭の言葉が戻ってくる。</p>
<blockquote><p>人の目など気にせず 愛し合えたらいいのに それでも噂を恐れている<br>
何度転んだってすぐに起き上がれればいいのに 立ち上がることを恐れている<br>
無理はするな いいさ 明日を待てばいいさ</p></blockquote>
<p>最初は、</p>
<blockquote><p>人の目など気にせず生きられたらいいのに</p></blockquote>
<p>だった。今度は、</p>
<blockquote><p>人の目など気にせず 愛し合えたらいいのに</p></blockquote>
<p>になる。「生きる」から、「愛し合う」へ。人の目が気になる問題は、自分一人の生き方だけではなく、二人の関係にも入り込む。そして外から来るものも変わる。</p>
<p>最初は、</p>
<blockquote><p>評価</p></blockquote>
<p>次は、</p>
<blockquote><p>顔色</p></blockquote>
<p>最後は、</p>
<blockquote><p>噂</p></blockquote>
<p>である。評価される。目の前の相手の顔色を見る。その場にいない人たちの噂まで恐れる。「人の目」は、だんだん具体的な姿を持つ。</p>
<p>それでも歌詞は、周囲なんて無視しろ。とは言い切らない。また、</p>
<blockquote><p>いいのに</p></blockquote>
<p>である。気にせず愛し合えたらいい。<strong>でも</strong>、実際には怖い。そして次の一行がもっと不思議だ。</p>
<blockquote><p>何度転んだってすぐに起き上がれればいいのに 立ち上がることを恐れている</p></blockquote>
<p>転ぶのが怖い、ではない。</p>
<blockquote><p>立ち上がること</p></blockquote>
<p>が怖い。ここはかなり大事だと思う。転んでしまった。そのあと、起き上がればいい。理屈では分かっている。</p>
<p>でも立ち上がれない。なぜなら、立てばまた歩かなければならない。また人に見られる。また選ばなければならない。また転ぶかもしれない。</p>
<p>少なくとも、歌詞は「起き上がればいい」と知っている自分と、それでも起き上がるのが怖い自分を、同じ一行へ置く。また、理想と現実。しかもここでも、</p>
<blockquote><p>いいのに</p></blockquote>
<p>である。この曲には三つの「いいのに」がある。人の目を気にせず、生きられたら<strong>いいのに</strong>。人の目を気にせず、愛し合えたら<strong>いいのに</strong>。</p>
<p>転んでもすぐ、起き上がれたら<strong>いいのに</strong>。全部、そうできたら理想だ、という言葉である。</p>
<p>でも、できていない。</p>
<p>その最後に出てくるのが、</p>
<blockquote><p>無理はするな いいさ 明日を待てばいいさ</p></blockquote>
<p>初めて、</p>
<blockquote><p>いいさ</p></blockquote>
<p>になる。「いいのに」は、今とは違う状態を望む。「いいさ」は、今の状態へ一度許可を出す。かなり違う。まだ人の目が気になる。</p>
<p>いいさ。噂が怖い。いいさ。立ち上がれない。</p>
<p>それも今日は、いいさ。しかも、</p>
<blockquote><p>無理はするな</p></blockquote>
<p>と先に言う。頑張って今すぐ直せ、ではない。</p>
<p>そして、</p>
<blockquote><p>明日を待てばいいさ</p></blockquote>
<p>明日になれば必ず解決する、とも言わない。明日を、待てばいい。今日の課題を今日中に全部片づけなくていい。ここまでずっと、決めたのにできない。諦めたのに追ってしまう。</p>
<p>好きと言いたいのに言えない。人の目を気にしたくないのに気にする。起き上がりたいのに怖い。そんな自分だった。</p>
<p>最後に初めて、それを矛盾のまま明日へ持っていくことが許される。題名は、「明日を待て」。</p>
<p>ではない。</p>
<p>「明日を待ってる」。もう待っている最中の名前になっている。</p>
<p>何かを達成した後の曲ではない。</p>
<p>まだ立ち上がれない今日と、次の日の間にいる歌である。本人が「白眉」と呼ぶのは、余裕を見せたまま転ぶことを勧める一節だ。転ばないことを目指すより、転んだあとまで含めて構える。その一方で、歌の最後は大げさな勝利宣言ではなく、今日は無理ならまあ明日で、くらいの温度に落ち着く。その力の抜け方がこの曲らしい。</p>
<h2 id="production-background">制作背景</h2>
<p>もともとは「我が道」と「月の数」という二つの未完曲で、どちらも『Tokyo Walker』の候補から外れていた。後から本人曰く「無理やり一曲にした」ところ、「上手くいった」。特に二曲をつなぐ部分を気に入っており、現在は「気張らず気楽に気負わず行こう」を曲のモットーとして挙げている。みゅー本人による詳しい制作記録は、<a href="/notes/production-stories/#story-ashita-o-matteru">NOTES「制作秘話」</a>で読めます。</p>
<h2 id="history">Mutant Music史から見ると</h2>
<p><a href="/songs/ippo-zutsu/">「一歩ずつ」</a>にも、急がないための言葉があった。</p>
<blockquote><p>一歩ずつでいいから 進んで行こうよ 焦らなくたっていいんだから</p></blockquote>
<p>あの曲では、進む。ただし、一歩ずつ。急がなくていい。だった。「明日を待ってる」は、さらに止まる余地を作る。</p>
<blockquote><p>無理はするな いいさ 明日を待てばいいさ</p></blockquote>
<p>今日は進めなくてもいい。立ち上がれなくてもいい。明日を待つ。</p>
<p>どちらがより成熟した考えというわけではない。</p>
<p>歩ける日には、一歩ずつ。立てない日には、待つ。必要な速度が違う。<a href="/songs/life-goes-on/">「Life goes on」</a>も、自分の矛盾をきれいには直さなかった曲だった。</p>
<p>YESと言ったり、NOと言ったり、そうせざるを得ない自分を抱えながら、lifeは続いていく。「明日を待ってる」でも、</p>
<blockquote><p>決めたはずなのに</p></blockquote>
<p>できない。</p>
<blockquote><p>諦めたはずなのに</p></blockquote>
<p>追っている。人の目を気にしたくない。でも気にする。立ち上がりたい。でも怖い。</p>
<p>ただ、こちらでは最後に、正しい答えを出すことより、</p>
<blockquote><p>いいさ</p></blockquote>
<p>と自分へ言う。</p>
<p>矛盾がなくなったから許すのではない。</p>
<p>矛盾している今日に、そのまま一晩ぶんの猶予を与える。そして『茜空』の曲順では、直前が <a href="/songs/disturb/"><code>disturb</code></a> である。あの曲では、</p>
<blockquote><p>二つの愛に挟まれて 息もできない程に 鼓動揺らす</p></blockquote>
<p>と、かなり切迫していた。待っている。戻れない。逃れられない。愛を誓う。</p>
<p>それでもまた揺れる。その次に、</p>
<blockquote><p>僕は君のことが好きで 君は僕のことが好きで<br>
見上げれば空には月で いつもと変わらない月で</p></blockquote>
<p>という、ひどく単純な二行が来る。アルバムの流れとして聴けば、複雑な愛の配置から、好き。好き。月。月。</p>
<p>へ急に降りてくる。さらに最後は、今すぐ答えを出せ、ではなく、明日を待てばいい。になる。ただし「明日を待ってる」は、2007年から2009年までの未完曲を接合して成立した曲であり、<code>disturb</code> の問題に答えるために後から書いた、という一方向の制作史にはできない。</p>
<p>違う時期の言葉を一枚のアルバムへ並べたことで、結果として、息のできない夜の次に、気楽に待つ夜が置かれた。その対照として見る方がいい。この曲が面白いのは、「我が道」を歌っているのに、最後まで堂々と我が道を歩けてはいないところだと思う。評価が気になる。顔色を見る。</p>
<p>噂が怖い。転ぶ。立てない。それでも、好きなモノは好き、と言いたい。自分のペースで行きたい。</p>
<p>今日できなければ、明日を待ちたい。全部、中途半端である。でもこの歌は、その中途半端さを克服してから始めようとはしない。</p>
<blockquote><p>それはそれでいいか？</p></blockquote>
<p>と聞き、最後には、</p>
<blockquote><p>いいさ</p></blockquote>
<p>と言う。その二つの間にあるわずかな変化が、この曲にとっては十分なのだと思う。</p>
<h2 id="credits">クレジット</h2>
<dl class="song-facts">
  <div><dt>作詞</dt><dd>みゅー</dd></div>
  <div><dt>作曲</dt><dd>みゅー</dd></div>
</dl>
<nav class="song-sequence-nav" aria-label="作品順">
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</nav></div>
            ]]>
        </content>
    </entry>
    <entry>
        <title>元気日和</title>
        <author>
            <name>Mutant Music</name>
        </author>
        <link href="https://mutant-music.com/songs/genki-biyori/"/>
        <id>https://mutant-music.com/songs/genki-biyori/</id>
        <media:content url="https://mutant-music.com/media/posts/53/genki-biyori-thumbnail.jpg" medium="image" />
            <category term="year-2008"/>
            <category term="type-song"/>
            <category term="release-akanezora"/>

        <updated>2011-09-04T09:00:00+09:00</updated>
            <summary type="html">
                <![CDATA[
                        <img src="https://mutant-music.com/media/posts/53/genki-biyori-thumbnail.jpg" alt="朝の光が差す開いた戸口で待つ一台の自転車" />
                    僕はこんなにも元気だよ 最初から、そう言う。 そして最後には、 僕はもうすっかり元気だよ と言う。なるほど。元気になったらしい。と思ったところで、もう一行。 僕は相変わらず元気だよ 相変わらず？では、最初から元気だったのか。元気になったのか。ずっと元気だったのか。どっちなんだ。 たぶん、この歌では、どちらかに決めなくていい。朝日の下で何度も「元気だよ」と言っているうちに、その言葉と身体の距離が少しずつ変わっていく。「元気日和」は、その一日の歌だ。 YouTubeで見る お日様太陽燦々 お日様見て 僕はこんなにも元気だよ お日様さん SUN 太陽 お日様来て 今日も一日を始めるよ 今は足りないものばかりが目に付くけれど それでもいいさ 僕は僕だ だから焦ることはないさ いつか辿り着けるその時まで 気楽に行くのさ お日様さん SUN 太陽 お日様聞いて！ 僕はこんなこと思ってるよ お日様さん燦々 態度を改めて またゼロから始めるよ 君はなりたいものになろうと頑張ってるから 僕が背中を押してあげる だから焦ることはないさ 君は独りじゃない お日様も 君を見てるよ 明日もハレルヤ！ お日様燦々燦々 お日様浴びて 今日も一日が始まるよ お日様 さんきゅー 太陽 お日様見て！&hellip;
                ]]>
            </summary>
        <content type="html">
            <![CDATA[
                    <p><img src="https://mutant-music.com/media/posts/53/genki-biyori-thumbnail.jpg" class="type:primaryImage" alt="朝の光が差す開いた戸口で待つ一台の自転車" /></p>
                <div><div class="song-intro" data-content-type="song"><blockquote><p>僕はこんなにも元気だよ</p></blockquote>
<p>最初から、そう言う。</p>
<p>そして最後には、</p>
<blockquote><p>僕はもうすっかり元気だよ</p></blockquote>
<p>と言う。なるほど。元気になったらしい。と思ったところで、もう一行。</p>
<blockquote><p>僕は相変わらず元気だよ</p></blockquote>
<p>相変わらず？では、最初から元気だったのか。元気になったのか。ずっと元気だったのか。どっちなんだ。</p>
<p>たぶん、この歌では、どちらかに決めなくていい。朝日の下で何度も「元気だよ」と言っているうちに、その言葉と身体の距離が少しずつ変わっていく。「元気日和」は、その一日の歌だ。</p></div>
<div class="song-video">
  <div class="post__iframe"><iframe width="560" height="315" src="https://www.youtube-nocookie.com/embed/_OLuBG6wZOU" title="Mutant Music「元気日和」" loading="lazy" allow="accelerometer; autoplay; clipboard-write; encrypted-media; gyroscope; picture-in-picture; web-share" allowfullscreen></iframe></div>
</div>
<p class="text-link song-video-link"><a href="https://www.youtube.com/watch?v=_OLuBG6wZOU" rel="noopener">YouTubeで見る</a></p>
<h2 id="work-info">作品情報</h2>
<dl class="song-facts">
  <div><dt>収録作品</dt><dd><a href="/discography/akanezora/">4th album『茜空』</a></dd></div>
  <div><dt>Track</dt><dd>7</dd></div>
  <div><dt>制作</dt><dd>作詞・作曲2008年4月</dd></div>
  <div><dt>初出</dt><dd>2011年9月4日</dd></div>
  <div><dt>クレジット</dt><dd>作詞: みゅー／作曲: みゅー</dd></div>
</dl>
<h2 id="lyrics">歌詞</h2>
<pre class="lyrics" lang="ja">お日様太陽燦々
お日様見て
僕はこんなにも元気だよ

お日様さん SUN 太陽
お日様来て
今日も一日を始めるよ

今は足りないものばかりが目に付くけれど
それでもいいさ 僕は僕だ
だから焦ることはないさ
いつか辿り着けるその時まで
気楽に行くのさ

お日様さん SUN 太陽
お日様聞いて！
僕はこんなこと思ってるよ

お日様さん燦々
態度を改めて
またゼロから始めるよ

君はなりたいものになろうと頑張ってるから
僕が背中を押してあげる
だから焦ることはないさ
君は独りじゃない
お日様も 君を見てるよ

明日もハレルヤ！

お日様燦々燦々
お日様浴びて
今日も一日が始まるよ

お日様 さんきゅー 太陽
お日様見て！
僕はもうすっかり元気だよ

僕は相変わらず元気だよ
</pre>
<h2 id="reading">曲を読む</h2>
<p>いきなり太陽の呼び方が多い。</p>
<blockquote><p>お日様太陽燦々<br>
お日様見て<br>
僕はこんなにも元気だよ</p></blockquote>
<p>お日様。太陽。燦々。同じ光を、言葉を変えながら重ねて呼ぶ。少しくどい。</p>
<p>でも、そのくどさがいい。</p>
<p>これは太陽について説明しているのではなく、お日様。太陽。燦々。と、明るい音を口の中で転がしている感じに近い。</p>
<p>そして、</p>
<blockquote><p>お日様見て</p></blockquote>
<p>である。僕がお日様を見る、ではない。</p>
<p>お日様に、見て、と言う。何を見てほしいのか。</p>
<blockquote><p>僕はこんなにも元気だよ</p></blockquote>
<p>元気な僕である。かなり積極的な元気報告だ。ただ元気なら、わざわざ太陽へ、見て。こんなにも元気だよ。と宣言しなくてもよさそうな気もする。</p>
<p>だから、この一行には少しだけ力が入っている。本当に元気だから言っているのか。元気であることを確かめるために言っているのか。歌詞だけではまだ決まらない。次は呼び方まで変わる。</p>
<blockquote><p>お日様さん SUN 太陽<br>
お日様来て<br>
今日も一日を始めるよ</p></blockquote>
<p>お日様。さん。<code>SUN</code>。太陽。「さん」という音が増殖していく。</p>
<p>お日様<strong>さん</strong>。<strong>SUN</strong>。その少し前には、燦々。同じ太陽を呼ぶだけなのに、どんどん遊び始める。</p>
<p>そして今度は、</p>
<blockquote><p>見て</p></blockquote>
<p>ではなく、</p>
<blockquote><p>来て</p></blockquote>
<p>である。太陽を自分の一日へ呼び込む。しかも、</p>
<blockquote><p>今日も一日を始めるよ</p></blockquote>
<p>「一日が始まる」ではない。</p>
<p>僕が、</p>
<blockquote><p>一日を始める</p></blockquote>
<p>のである。朝が来たから仕方なく今日になる、ではない。こちらから今日を起動しようとしている。元気も。一日も。</p>
<p>少し先回りして自分で始めようとしている感じがある。</p>
<p>ところが、その直後には、足りなさが出てくる。</p>
<blockquote><p>今は足りないものばかりが目に付くけれど<br>
それでもいいさ 僕は僕だ<br>
だから焦ることはないさ<br>
いつか辿り着けるその時まで<br>
気楽に行くのさ</p></blockquote>
<p>ここで、</p>
<blockquote><p>今は</p></blockquote>
<p>と、</p>
<blockquote><p>いつか</p></blockquote>
<p>が向かい合う。今は、足りないものばかり。でも、いつか、辿り着ける。何に辿り着くのかは書かれていない。足りないものが何なのかも書かれない。</p>
<p>だからこの歌は、目標達成の方法へは行かない。むしろ、</p>
<blockquote><p>それでもいいさ 僕は僕だ</p></blockquote>
<p>である。何かを手に入れたから僕になれる、ではない。足りない。それでも、僕は僕。かなり単純だ。</p>
<p>ほとんど同語反復である。僕は僕だ。当たり前である。でも、足りないものばかり数えている時には、その当たり前くらいしか残らないこともある。</p>
<p>だから、</p>
<blockquote><p>焦ることはないさ</p></blockquote>
<p>になる。いつか辿り着ける。だから走れ、ではない。</p>
<blockquote><p>気楽に行くのさ</p></blockquote>
<p>である。かなりのんびりしている。太陽へ向かって、こんなにも元気だよ、と言った人が、数行後には、足りないものばかり目につくけど、まあ気楽に行こう、と言っている。元気と不足感は、別に排他的ではないらしい。そしてまた太陽。</p>
<blockquote><p>お日様さん SUN 太陽<br>
お日様聞いて！<br>
僕はこんなこと思ってるよ</p></blockquote>
<p>今度は、</p>
<blockquote><p>聞いて！</p></blockquote>
<p>である。最初は、見て。次は、来て。今度は、聞いて。太陽との関係が少しずつ変わる。</p>
<p>最初は、自分の元気な姿を見せる相手だった。次は、一日を始めるために来てほしい相手。ここでは、自分の考えを聞いてほしい相手になる。かなり話し相手になっている。</p>
<p>しかも、</p>
<blockquote><p>僕はこんなこと思ってるよ</p></blockquote>
<p>と、内容へ行く前にわざわざ宣言する。太陽へ話しかけること自体が、この歌では大事らしい。そして次の三行は、少し妙だ。</p>
<blockquote><p>お日様さん燦々<br>
態度を改めて<br>
またゼロから始めるよ</p></blockquote>
<p>ここでも、お日様さん。燦々。「さん」が重なる。でも突然、</p>
<blockquote><p>態度を改めて</p></blockquote>
<p>となる。誰の態度か。主語は書かれていない。自然に読めば、自分の態度を改めるようにも聞こえる。ただ、歌詞は明示しない。</p>
<p>そのまま、</p>
<blockquote><p>またゼロから始めるよ</p></blockquote>
<p>へ行く。大事なのは、</p>
<blockquote><p>また</p></blockquote>
<p>である。</p>
<p>ゼロから始めるのは、初めてではない。</p>
<p>何度目かのゼロ。ゼロなら全部新品になりそうなのに、「また」が付いた瞬間、そこにも履歴ができる。また始める。またゼロになる。どうやらこの歌の「始める」は、一度きりの劇的な再出発ではない。</p>
<p>何度でもやるものらしい。そして、ここで初めて声が「君」へ向かう。</p>
<blockquote><p>君はなりたいものになろうと頑張ってるから<br>
僕が背中を押してあげる<br>
だから焦ることはないさ<br>
君は独りじゃない<br>
お日様も 君を見てるよ</p></blockquote>
<p>前半では、</p>
<blockquote><p>焦ることはないさ</p></blockquote>
<p>と自分に言っていた。今度は、それを君へ渡す。君は頑張っている。だから、もっと頑張れ、ではない。</p>
<blockquote><p>僕が背中を押してあげる</p></blockquote>
<p>そして、</p>
<blockquote><p>焦ることはないさ</p></blockquote>
<p>である。努力している人への応援なのに、さらに努力を要求しない。背中は押す。でも急かさない。その微妙な距離がいい。</p>
<p>そして、</p>
<blockquote><p>君は独りじゃない</p></blockquote>
<p>僕がいるから。だけでは終わらない。</p>
<blockquote><p>お日様も 君を見てるよ</p></blockquote>
<p>である。最初、お日様に、</p>
<blockquote><p>見て</p></blockquote>
<p>と言っていたのは僕だった。今度は、そのお日様が、君を見ている。自分を見守ってくれていた太陽を、君の方へ向ける。でも、僕が太陽そのものになる、とは歌詞には書いていない。僕は背中を押す。</p>
<p>お日様も君を見る。それぞれ別にいる。そのくらいの距離である。そして突然、</p>
<blockquote><p>明日もハレルヤ！</p></blockquote>
<p>一行だけ。かなり陽気だ。<code>ハレルヤ</code> には祝福の声があり、日本語の「晴れる」も耳に入り込んでくる。しかも、</p>
<blockquote><p>明日も</p></blockquote>
<p>である。</p>
<p>今日だけではない。</p>
<p>明日も。今日が元気日和なら、明日にも少し光を渡したい。</p>
<p>ただし、明日の天気を保証しているわけではない。</p>
<p>ほとんど勢いである。その勢いのまま、最後の太陽へ行く。</p>
<blockquote><p>お日様燦々燦々<br>
お日様浴びて<br>
今日も一日が始まるよ</p></blockquote>
<p>最初の方では、</p>
<blockquote><p>今日も一日を始めるよ</p></blockquote>
<p>だった。ここでは、</p>
<blockquote><p>今日も一日が始まるよ</p></blockquote>
<p>になる。一文字しか違わない。<code>を</code>から、<code>が</code>へ。でも主語と動きはかなり変わる。</p>
<p>最初は、僕が一日を始める。自分から起動する。最後は、一日が始まる。お日様を浴びているうちに、今日の方が動き出す。朝を自力で始めなければならない感じが、少しほどけたようにも読める。</p>
<p>そして「見る」も変わっている。最初は、</p>
<blockquote><p>お日様見て</p></blockquote>
<p>だった。途中では、来て。聞いて。ここでは、</p>
<blockquote><p>お日様浴びて</p></blockquote>
<p>である。</p>
<p>もう太陽を外から呼ぶだけではない。</p>
<p>光の中に身体が入っている。そのあと、また言葉遊び。</p>
<blockquote><p>お日様 さんきゅー 太陽<br>
お日様見て！<br>
僕はもうすっかり元気だよ</p></blockquote>
<p>お日様。<code>さんきゅー</code>。太陽。ずっと続いてきた「さん」の音が、最後には感謝の言葉になる。</p>
<p>そして、</p>
<blockquote><p>見て！</p></blockquote>
<p>が戻る。最初にも、</p>
<blockquote><p>お日様見て</p></blockquote>
<p>と言っていた。でも今度は感嘆符まで付く。見て！そして、</p>
<blockquote><p>もうすっかり元気だよ</p></blockquote>
<p>である。最初は、</p>
<blockquote><p>こんなにも元気だよ</p></blockquote>
<p>だった。最後は、</p>
<blockquote><p>もうすっかり元気だよ</p></blockquote>
<p>になる。<code>もう</code>がある。時間が経った。何かが変わった。元気になった。</p>
<p>そう読める。ここで終われば、とてもきれいだ。最初は無理して元気と言っていた。一日を過ごした。太陽に話した。</p>
<p>君を応援した。光を浴びた。そして本当に元気になった。めでたし。</p>
<p>ところが、最後にもう一行ある。</p>
<blockquote><p>僕は相変わらず元気だよ</p></blockquote>
<p><code>もうすっかり</code>と言った直後に、</p>
<blockquote><p>相変わらず</p></blockquote>
<p>である。相変わらずなら、変わっていない。さっきまでの回復物語を、一行で少し変にする。元気になったのか。ずっと元気だったのか。</p>
<p>最初の、</p>
<blockquote><p>僕はこんなにも元気だよ</p></blockquote>
<p>は空元気だったのか。それとも、あの時点でもどこかでは本当に元気だったのか。歌詞だけでは一つに決められない。むしろ最後の「相変わらず」があることで、最初の「元気だよ」を単なる嘘にしにくくなる。元気じゃない。</p>
<p>でも元気。足りない。でも僕は僕。焦る。でも気楽に行く。</p>
<p>ゼロからまた始める。そして、相変わらず元気。この歌は、元気でない自分を捨てて、新しい元気な人へ生まれ変わる歌ではないのかもしれない。同じ自分の中にあった「元気」という言葉へ、一日かけて少し近づいていく。</p>
<p>そして最後には、最初の自分までまとめて、相変わらず、と言ってしまう。それくらいの、少し図々しい元気である。</p>
<p>現在のみゅーは、同じ歌を見て「僕はきっと最初から最後までずっと元気だったんだよ」とも書いている。当時は「空元気から本当の元気へ」と設計した。今は「最初からどこかに元気が残っていた」と読む。どちらかを正解にせず、同じ曲を違う時間から見た二つの説明として残す方が面白い。</p>
<h2 id="production-background">制作背景</h2>
<p>保存された当時メモでは、引っ越し後最初に、詞からできた曲。当時のみゅーは「元気だよ」を、初めは空元気、最後には本当の元気になるように時間設計していたという。「気楽に行くのさ」も、自分へ言い聞かせるための言葉だった。間奏前にはコードを変え、「和音の響きを聞いてみてほしい」と記している。みゅー本人による詳しい制作記録は、<a href="/notes/production-stories/#story-genki-biyori">NOTES「制作秘話」</a>で読めます。</p>
<h2 id="history">Mutant Music史から見ると</h2>
<p>太陽へ話しかける歌は、これが初めてではない。</p>
<p>3rd album『Tokyo Walker』には、<a href="/songs/thank-you-sunshine/">「Thank you,Sunshine」</a>がある。あの曲の題名では、Sunshineへ、Thank you。感謝を向けた。</p>
<p>「元気日和」では、太陽への要求がずいぶん増える。</p>
<blockquote><p>お日様見て</p></blockquote>
<blockquote><p>お日様来て</p></blockquote>
<blockquote><p>お日様聞いて！</p></blockquote>
<p>見て。来て。聞いて。そして最後には、</p>
<blockquote><p>お日様 さんきゅー 太陽</p></blockquote>
<p>になる。最初から感謝するというより、一日じゅう太陽へ話しかけ、最後にようやく、さんきゅー。となる。もちろん「Thank you,Sunshine」を意識してこの構造を作った、とまで言う資料はない。</p>
<p>ただ、Mutant Musicの中で二つの歌を並べると、太陽との距離の違いは面白い。一方は感謝を題名にする。こちらは、太陽をほとんど話し相手にしてしまう。そして、この曲が作られたのは、『Tokyo Walker』の録音を終えた直後の2008年4月だった。</p>
<p>そのアルバムの最後には、<a href="/songs/shiawase/">「しあわせ」</a>がある。あの曲では、笑顔も。涙も。二人でいることも。</p>
<p>まとめて、しあわせ、と置いた。</p>
<p>現在のみゅーは、その頃には音楽活動をいったん終えるつもりでもいた、と振り返っている。</p>
<p>ところが、そのあとにできた「元気日和」は、幸福について大きく定義するところからは始まらない。朝が来る。太陽が眩しい。今日も一日が始まる。</p>
<p>そして、</p>
<blockquote><p>僕はこんなにも元気だよ</p></blockquote>
<p>と言ってみる。かなり小さい。</p>
<p>でも、その小ささがこの曲には合っている。</p>
<p>「しあわせ」が何を幸せと呼ぶかを考えた歌なら、「元気日和」は、今日をどう始めるか、という歌である。</p>
<p>どちらが先へ進んだ考えというわけではない。</p>
<p>そもそも問うている縮尺が違う。そしてアルバム『茜空』では、この曲の直前に、<a href="/songs/ashita-o-matteru/">「明日を待ってる」</a>が置かれている。あちらの最後は、</p>
<blockquote><p>無理はするな いいさ 明日を待てばいいさ</p></blockquote>
<p>だった。今日できないなら、明日を待つ。そして次の曲では、</p>
<blockquote><p>今日も一日が始まるよ</p></blockquote>
<p>と、本当に朝が来る。曲順だけを見れば、かなりきれいな受け渡しである。夜に明日を待つ。次の曲で太陽が来る。</p>
<p>ただし、これは制作順ではない。</p>
<p>「元気日和」は2008年4月。「明日を待ってる」は、2007年から存在した断片をもとにしながら、完成は2009年9月までかかっている。だから、「明日を待ってる」を書いた翌朝に「元気日和」を書いた、という物語にはできない。</p>
<p>後からアルバムへ並べたことで、待つ夜。始まる朝。という流れができた。そのくらいで十分だと思う。</p>
<p>そして「元気日和」そのものの中にも、すでに一日の始まり方が二つある。前半は、</p>
<blockquote><p>今日も一日を始めるよ</p></blockquote>
<p>自分が始める。後半は、</p>
<blockquote><p>今日も一日が始まるよ</p></blockquote>
<p>一日が始まる。最初は、自分で元気を作ろうとしていたのかもしれない。最後には、太陽を浴びていれば、一日は勝手に始まる。そう聞くこともできる。</p>
<p>でも、そこで、回復した。</p>
<p>克服した。もう大丈夫。とまで言う必要はない。なにしろ最後は、</p>
<blockquote><p>僕は相変わらず元気だよ</p></blockquote>
<p>なのだから。変わったようで、変わっていない。元気になったようで、元気は最初からあったのかもしれない。ゼロから始めたのに、また、である。</p>
<p>この歌の元気は、過去の弱った自分を消して作るものではない。少し妙なまま同じ自分で、朝になったらまた、元気だよ、と言ってみる。そのくらいの日和なのだと思う。</p>
<h2 id="credits">クレジット</h2>
<dl class="song-facts">
  <div><dt>作詞</dt><dd>みゅー</dd></div>
  <div><dt>作曲</dt><dd>みゅー</dd></div>
</dl>
<nav class="song-sequence-nav" aria-label="作品順">
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</nav></div>
            ]]>
        </content>
    </entry>
    <entry>
        <title>I love you, I need you</title>
        <author>
            <name>Mutant Music</name>
        </author>
        <link href="https://mutant-music.com/songs/i-love-you-i-need-you/"/>
        <id>https://mutant-music.com/songs/i-love-you-i-need-you/</id>
        <media:content url="https://mutant-music.com/media/posts/54/i-love-you-i-need-you-thumbnail.jpg" medium="image" />
            <category term="year-2008"/>
            <category term="type-song"/>
            <category term="release-akanezora"/>

        <updated>2011-09-04T09:00:00+09:00</updated>
            <summary type="html">
                <![CDATA[
                        <img src="https://mutant-music.com/media/posts/54/i-love-you-i-need-you-thumbnail.jpg" alt="薄明の街を望む窓辺に置かれた小さなスピーカー" />
                    君が歌う。 それを聞いて、希望が顔を出す。夜が明ける。そして、 今 僕も 歌い出すよ 僕も歌う。この歌では、自分一人の決意から何かが始まるのではない。誘われる。運ばれる。憧れる。 必要とする。そうやって誰かに動かされた人が、やがて自分でも、夢を描く。現実に変える。歩き出す。 でも最後まで、I need youは消えない。自分で歩けることと、誰かを必要とすること。どうやら、その二つは同時にあっていいらしい。 YouTubeで見る 君の歌声に 誘われて 希望が 顔出した 君の歌声に 運ばれて 夜が 明けてゆくよ 君の歌声は 優しくて 笑顔が あたたかくて 君の歌声に 憧れて 今 僕も 歌い出すよ ああ 僕の来た道を 振り返り 嘆くのは たやすいけど ああ 君とゆく道が もうすでに 目の前に あることは 誰も 知らないだろう I love you, I need&hellip;
                ]]>
            </summary>
        <content type="html">
            <![CDATA[
                    <p><img src="https://mutant-music.com/media/posts/54/i-love-you-i-need-you-thumbnail.jpg" class="type:primaryImage" alt="薄明の街を望む窓辺に置かれた小さなスピーカー" /></p>
                <div><div class="song-intro" data-content-type="song"><p>君が歌う。</p>
<p>それを聞いて、希望が顔を出す。夜が明ける。そして、</p>
<blockquote><p>今 僕も 歌い出すよ</p></blockquote>
<p>僕も歌う。この歌では、自分一人の決意から何かが始まるのではない。誘われる。運ばれる。憧れる。</p>
<p>必要とする。そうやって誰かに動かされた人が、やがて自分でも、夢を描く。現実に変える。歩き出す。</p>
<p>でも最後まで、<code>I need you</code>は消えない。自分で歩けることと、誰かを必要とすること。どうやら、その二つは同時にあっていいらしい。</p></div>
<div class="song-video">
  <div class="post__iframe"><iframe width="560" height="315" src="https://www.youtube-nocookie.com/embed/yZQ2sz-8h30" title="Mutant Music「I love you, I need you」" loading="lazy" allow="accelerometer; autoplay; clipboard-write; encrypted-media; gyroscope; picture-in-picture; web-share" allowfullscreen></iframe></div>
</div>
<p class="text-link song-video-link"><a href="https://www.youtube.com/watch?v=yZQ2sz-8h30" rel="noopener">YouTubeで見る</a></p>
<h2 id="work-info">作品情報</h2>
<dl class="song-facts">
  <div><dt>収録作品</dt><dd><a href="/discography/akanezora/">4th album『茜空』</a></dd></div>
  <div><dt>Track</dt><dd>8</dd></div>
  <div><dt>制作</dt><dd>作詞・作曲2008年6月</dd></div>
  <div><dt>初出</dt><dd>2011年9月4日</dd></div>
  <div><dt>クレジット</dt><dd>作詞: みゅー／作曲: みゅー</dd></div>
</dl>
<h2 id="lyrics">歌詞</h2>
<pre class="lyrics" lang="ja">君の歌声に 誘われて
希望が 顔出した
君の歌声に 運ばれて
夜が 明けてゆくよ

君の歌声は 優しくて
笑顔が あたたかくて
君の歌声に 憧れて
今 僕も 歌い出すよ

ああ 僕の来た道を 振り返り
嘆くのは たやすいけど
ああ 君とゆく道が もうすでに
目の前に あることは
誰も 知らないだろう

I love you, I need you
晴れの日も 雨の日も あるけれど
I love you, I need you
今 君と 歩き出すよ

君の生き方に 憧れて
もう一度 夢描いて
君の生き方に 誘われて
現実に 変えてゆくよ

ああ 道は不確かで
果てしなく どこまでも 続くけど
ああ 君と二人なら
わけもなく 恐れることなどない
不安にも 負けないんだよ

I love you, I need you
晴れの日も 雨の日も そばにいて
I love you, I need you
時を越え 今 二人 歩き出す

I love you, I need you
坂道も 悲しみも あるけれど
I love you, I need you
誰よりも 愛してるよ

また 夜が明けるから
今 僕も歌い出すよ
</pre>
<h2 id="reading">曲を読む</h2>
<p>最初に動いているのは、僕ではない。</p>
<blockquote><p>君の歌声に 誘われて<br>
希望が 顔出した<br>
君の歌声に 運ばれて<br>
夜が 明けてゆくよ</p></blockquote>
<p>まず、</p>
<blockquote><p>誘われて</p></blockquote>
<p>である。僕が希望を探しに行く、ではない。</p>
<p>君の歌声に誘われる。すると、</p>
<blockquote><p>希望が 顔出した</p></blockquote>
<p>希望を作った、でもない。顔を出した。どこかに隠れていたものが、ちょっと覗く。そんな動詞である。</p>
<p>いきなり全快する感じではない。</p>
<p>そしてもう一度、</p>
<blockquote><p>君の歌声に 運ばれて</p></blockquote>
<p>今度は「誘われる」よりさらに受け身だ。運ばれる。その結果、</p>
<blockquote><p>夜が 明けてゆくよ</p></blockquote>
<p>僕が夜を終わらせるのでもない。夜の方が、明けてゆく。かなり他力である。</p>
<p>でも、この歌ではそれを恥じない。</p>
<p>君の声に運ばれて朝になるなら、まずはそれでいい。二つ目の連でも、まだ君の声が先にある。</p>
<blockquote><p>君の歌声は 優しくて<br>
笑顔が あたたかくて<br>
君の歌声に 憧れて<br>
今 僕も 歌い出すよ</p></blockquote>
<p>優しい。あたたかい。そこまでは、君の側の話である。でも三行目に、</p>
<blockquote><p>憧れて</p></blockquote>
<p>が来る。「誘われて」や「運ばれて」と少し違う。憧れには、自分からそちらを向く感じがある。そして、</p>
<blockquote><p>僕も</p></blockquote>
<p>である。君が歌っている。だから、僕<strong>も</strong>歌う。一人で再起動するのではなく、別の声へ自分の声を重ねる。</p>
<p>ここで初めて、</p>
<blockquote><p>歌い出す</p></blockquote>
<p>という、自分の動作が出てくる。しかも、</p>
<blockquote><p>今</p></blockquote>
<p>だ。いつか歌えるようになったら。元気になったら。準備が整ったら。</p>
<p>ではない。</p>
<p>今。歌い出す。そのあと、視線は過去と未来へ分かれる。</p>
<blockquote><p>ああ 僕の来た道を 振り返り<br>
嘆くのは たやすいけど<br>
ああ 君とゆく道が もうすでに<br>
目の前に あることは<br>
誰も 知らないだろう</p></blockquote>
<p>過去については、</p>
<blockquote><p>僕の来た道</p></blockquote>
<p>である。もう来た道。振り返ることができる。そして、</p>
<blockquote><p>嘆くのは たやすい</p></blockquote>
<p>という。嘆いてはいけない、とは言わない。簡単だ、と言う。</p>
<p>一方、未来の方は少し変だ。</p>
<blockquote><p>君とゆく道が もうすでに</p></blockquote>
<blockquote><p>目の前に ある</p></blockquote>
<p>まだ歩いていない道なのに、</p>
<blockquote><p>もうすでに</p></blockquote>
<p>ある。未来なのに、すでに目の前。時間が少し重なっている。しかも、</p>
<blockquote><p>誰も 知らないだろう</p></blockquote>
<p>である。目の前にある。でも誰も知らない。見えているのに、まだ公には存在していないような道でもある。この歌は、未来を保証してもらってから歩くわけではない。</p>
<p>あると思っている。だから行く。そのくらいの確かさである。そこで題名が初めて出る。</p>
<blockquote><p>I love you, I need you<br>
晴れの日も 雨の日も あるけれど<br>
I love you, I need you<br>
今 君と 歩き出すよ</p></blockquote>
<p><code>I love you</code>だけではない。</p>
<p><code>I need you</code>まで言う。愛している。必要としている。</p>
<p>似ているようで、同じではない。</p>
<p><code>love</code> は君へ向かう言葉だが、<code>need</code> は、自分に足りないものまで見せる。自分は一人で平気です、という告白ではない。むしろ、君が必要だ、まで言ってしまう。しかも、</p>
<blockquote><p>晴れの日も 雨の日も あるけれど</p></blockquote>
<p>である。これからずっと晴れます、とは約束しない。雨もある。でも、</p>
<blockquote><p>今 君と 歩き出すよ</p></blockquote>
<p>また、</p>
<blockquote><p>今</p></blockquote>
<p>である。</p>
<p>未来を全部見通せたから出発するのではない。</p>
<p>天気は変わる。道も分からない。それでも今は、歩き出す。二番では、憧れの対象そのものが変わる。</p>
<blockquote><p>君の生き方に 憧れて<br>
もう一度 夢描いて<br>
君の生き方に 誘われて<br>
現実に 変えてゆくよ</p></blockquote>
<p>最初は、</p>
<blockquote><p>君の歌声</p></blockquote>
<p>だった。今度は、</p>
<blockquote><p>君の生き方</p></blockquote>
<p>である。声から、その人がどう生きているかへ。憧れの範囲が広がる。そして、</p>
<blockquote><p>もう一度</p></blockquote>
<p>夢を描く。</p>
<p>初めて夢を見るのではない。</p>
<p>一度あった。何かの理由で失った。あるいは描くのをやめた。それを、もう一度。ここにも再開がある。</p>
<p>さらに、</p>
<blockquote><p>誘われて</p></blockquote>
<p>が最初の連から戻る。</p>
<p>でも、結末が違う。</p>
<p>最初は、</p>
<blockquote><p>運ばれて</p></blockquote>
<p>夜が明けた。ここでは、</p>
<blockquote><p>現実に 変えてゆくよ</p></blockquote>
<p>である。誰かに誘われたことをきっかけに、最後は自分で、変えてゆく。受け身から自立した、とまできれいに言う必要はない。なにしろ、今も君に誘われている。</p>
<p>ただ、他者から受け取った力が、自分の動詞へ変わり始めている。</p>
<p>その道は、別に楽ではない。</p>
<blockquote><p>ああ 道は不確かで<br>
果てしなく どこまでも 続くけど<br>
ああ 君と二人なら<br>
わけもなく 恐れることなどない<br>
不安にも 負けないんだよ</p></blockquote>
<p>道は、</p>
<blockquote><p>不確か</p></blockquote>
<p>である。しかも、</p>
<blockquote><p>果てしなく どこまでも</p></blockquote>
<p>続く。かなり長い。目的地の名前もない。どこまで続くかも分からない。</p>
<p>それでも、</p>
<blockquote><p>君と二人なら</p></blockquote>
<p>と言う。この歌は、道が安全だから行ける、とは言わない。道は不確か。不安もある。</p>
<p>それでも二人なら、</p>
<blockquote><p>負けないんだよ</p></blockquote>
<p>とする。</p>
<p>不安がなくなるのではない。</p>
<p>不安はいる。ただ、それに負けない、と言う。そしてサビが少し変わる。</p>
<blockquote><p>I love you, I need you<br>
晴れの日も 雨の日も そばにいて<br>
I love you, I need you<br>
時を越え 今 二人 歩き出す</p></blockquote>
<p>最初は、</p>
<blockquote><p>晴れの日も 雨の日も あるけれど</p></blockquote>
<p>だった。天候についての説明だった。今度は、</p>
<blockquote><p>そばにいて</p></blockquote>
<p>になる。ここで <code>I need you</code> の中身が、少し日本語になったようにも聞こえる。必要だ、を、必要だ、とは訳さない。代わりに、そばにいて。と頼む。</p>
<p>そして最初のサビでは、</p>
<blockquote><p>今 君と 歩き出すよ</p></blockquote>
<p>だった。僕が、君と歩く。今度は、</p>
<blockquote><p>今 二人 歩き出す</p></blockquote>
<p>になる。「僕」が文から消える。主語は、二人。一緒に歩くことが、文法の上でも共同作業になる。</p>
<p>しかもその前に、</p>
<blockquote><p>時を越え</p></blockquote>
<p>と大きな言葉がある。時を越える。でも、</p>
<blockquote><p>今</p></blockquote>
<p>歩き出す。かなり遠い時間を見ながら、実際の出発点はやっぱり今である。そして最後のサビでは、天気まで変わる。</p>
<blockquote><p>I love you, I need you<br>
坂道も 悲しみも あるけれど<br>
I love you, I need you<br>
誰よりも 愛してるよ</p></blockquote>
<p>最初は、晴れ。雨。だった。次は、そばにいて。</p>
<p>最後は、</p>
<blockquote><p>坂道</p></blockquote>
<p>と、</p>
<blockquote><p>悲しみ</p></blockquote>
<p>になる。天候から、地形。そして感情へ。これから起きる難しさが、少しずつ身体へ近づいてくる。</p>
<p>それでも英語の部分は、ずっと同じである。</p>
<blockquote><p>I love you, I need you</p></blockquote>
<p>何度も変わる日本語の間に、この二つだけが固定されている。そして最後になって初めて、<code>love</code>の方は、</p>
<blockquote><p>誰よりも 愛してるよ</p></blockquote>
<p>と日本語で言い直される。でも、<code>I need you</code>は最後まで日本語へ訳されない。消えもしない。ただ何度も、<code>I love you</code>の隣にいる。</p>
<p>この曲にとって、必要としている、ということは、愛しているより少し言いにくい言葉だったのかもしれない。少なくとも歌詞では、愛の方だけが最後に堂々と日本語になる。そして結末。</p>
<blockquote><p>また 夜が明けるから<br>
今 僕も歌い出すよ</p></blockquote>
<p>冒頭では、</p>
<blockquote><p>君の歌声に 運ばれて<br>
夜が 明けてゆくよ</p></blockquote>
<p>だった。君の歌声に運ばれて、朝になった。最後は、</p>
<blockquote><p>また 夜が明けるから</p></blockquote>
<p>である。今度は、夜明けそのものが理由になる。朝が来る。だから、</p>
<blockquote><p>僕も歌い出すよ</p></blockquote>
<p>歌う。しかも、</p>
<blockquote><p>また</p></blockquote>
<p>だ。</p>
<p>一度だけ救われて終わる歌ではない。</p>
<p>夜は来る。また明ける。そのたびに、また歌うのかもしれない。最初の、</p>
<blockquote><p>今 僕も 歌い出すよ</p></blockquote>
<p>と、最後の、</p>
<blockquote><p>今 僕も歌い出すよ</p></blockquote>
<p>では、正本上、「僕も」と「歌い出す」の間の空白も違う。そこへ意味を無理に与える必要はない。ただ、歌が同じ場所へ完全にそのまま戻っているわけではないことは面白い。</p>
<p>君の声に誘われて歌い始めた人が、道を見て。歩き出して。夢を現実に変えようとして。それでも君を必要として。</p>
<p>最後に、また朝が来るから歌う。<code>I need you</code> を卒業することが、この歌のゴールではない。誰かを必要としたまま、自分でも歩く。自分でも歌う。その両方が最後まで残っている。</p>
<p>I love you は使い古された言葉だと分かっていた。それでも、その時はそれしか出てこなかった。現在のみゅーは「どっちかと言うと当時の僕にはI need youだったんだと思う」と読み直している。愛を差し出す言葉と、相手を必要としている切実さが同じ題名に並んでいる。</p>
<h2 id="production-background">制作背景</h2>
<p>音楽をやめようと思うほど落ち込んでいた時期、ある人の歌声がもう一度歌い始めるきっかけになった。みゅーはこの曲をその人へ向けた「最初で最後のラブソング」と振り返る一方、「手癖でできたようなベタなラブソング」とも書く。ピアノを入れず、代わりにコーラスワークを重ねたことも本人が意識していた制作上の選択だった。みゅー本人による詳しい制作記録は、<a href="/notes/production-stories/#story-i-love-you-i-need-you">NOTES「制作秘話」</a>で読めます。</p>
<h2 id="history">Mutant Music史から見ると</h2>
<p>1st album『真実の口』の表題曲には、歌うことそのものを、自分の真実と結びつける強い宣言があった。歌えば、それは自分の本当の気持ちだ。そんなところから始まっていた。</p>
<p><code>I love you, I need you</code> では、歌う自分の始まり方が少し違う。</p>
<blockquote><p>君の歌声に 誘われて</p></blockquote>
<p>そして、</p>
<blockquote><p>今 僕も 歌い出すよ</p></blockquote>
<p>である。自分の真実を一人で歌い出す、というより、誰かの声へ応答することで、自分の声も出てくる。歌うことが、自分だけで閉じなくなる。ただ、それを、昔は一人でしか歌えなかった。今は他人とつながれるようになった。</p>
<p>という成長物語にする必要はない。</p>
<p>『真実の口』では、あの時に必要だった歌い方があった。この曲では、誰かの声が必要だった。それだけでもかなり違う。<a href="/songs/promised-land/">「Promised Land」</a>には、二人で向かう場所と、坂を上るイメージがあった。</p>
<p><code>I love you, I need you</code> にも、道。坂道。二人。が出てくる。ただし、ここでは約束された場所の名前がない。</p>
<blockquote><p>道は不確かで</p></blockquote>
<p>しかも、</p>
<blockquote><p>果てしなく どこまでも 続く</p></blockquote>
<p>どこへ着くのかより、今、歩き出すことの方が前に出る。</p>
<blockquote><p>今 君と 歩き出すよ</p></blockquote>
<p>そして、</p>
<blockquote><p>今 二人 歩き出す</p></blockquote>
<p>目的地ではなく、出発の瞬間を何度も言う。同じ「二人で歩く」でも、焦点が違う。そして、この曲の二か月ほど前には、<a href="/songs/genki-biyori/">「元気日和」</a>がある。あの曲では、太陽へ、見て。来て。</p>
<p>聞いて。と話しかけながら、</p>
<blockquote><p>僕はこんなにも元気だよ</p></blockquote>
<p>と言った。朝そのものがつらかった時期に、元気だよ、という言葉を先に置いた歌だった。<code>I love you, I need you</code> でも、夜明けが出てくる。ただ、今度は、</p>
<blockquote><p>君の歌声に 運ばれて<br>
夜が 明けてゆくよ</p></blockquote>
<p>である。太陽ではなく、人の声が朝を連れてくる。そしてその声に、僕の声が返る。</p>
<blockquote><p>今 僕も 歌い出すよ</p></blockquote>
<p>二曲を並べると、一人で太陽へ話しかける朝と、誰かの歌へ歌で返す朝。そんな違いが見える。どちらがより完全な回復か、という話ではない。「元気日和」には、自分へ言葉をかける必要があった。</p>
<p>この曲には、誰かの声を必要とする時間があった。そして <code>I love you, I need you</code> は、その「必要」を隠さない。ここが、この曲のかなり大事なところだと思う。自分で夢を現実に変えてゆく。自分で歩き出す。</p>
<p>自分で歌い出す。でも、君はいらなくなった、とはならない。むしろその間ずっと、</p>
<blockquote><p>I love you, I need you</p></blockquote>
<p>を繰り返す。自分で動くことと、誰かを必要とすること。その二つを片方へ整理しなかった。そして最後も、到着ではない。</p>
<blockquote><p>また 夜が明けるから<br>
今 僕も歌い出すよ</p></blockquote>
<p>また朝が来る。また歌う。まだ歩いている途中である。その途中で言えたのが、愛している。</p>
<p>そして、必要としている。だった。</p>
<h2 id="credits">クレジット</h2>
<dl class="song-facts">
  <div><dt>作詞</dt><dd>みゅー</dd></div>
  <div><dt>作曲</dt><dd>みゅー</dd></div>
</dl>
<nav class="song-sequence-nav" aria-label="作品順">
  <a rel="prev" href="/songs/genki-biyori/"><span class="song-sequence-nav__label">前の曲</span> <span class="song-sequence-nav__title">「元気日和」</span></a>
  <a class="song-sequence-nav__back" href="/discography/akanezora/">4th album『茜空』へ戻る</a>
  <a rel="next" href="/songs/akanezora/"><span class="song-sequence-nav__label">次の曲</span> <span class="song-sequence-nav__title">「茜空」</span></a>
</nav></div>
            ]]>
        </content>
    </entry>
    <entry>
        <title>茜空</title>
        <author>
            <name>Mutant Music</name>
        </author>
        <link href="https://mutant-music.com/songs/akanezora/"/>
        <id>https://mutant-music.com/songs/akanezora/</id>
        <media:content url="https://mutant-music.com/media/posts/55/akanezora-thumbnail.jpg" medium="image" />
            <category term="year-2008"/>
            <category term="type-song"/>
            <category term="release-akanezora"/>

        <updated>2011-09-04T09:00:00+09:00</updated>
            <summary type="html">
                <![CDATA[
                        <img src="https://mutant-music.com/media/posts/55/akanezora-thumbnail.jpg" alt="茜色の空へ続く雨上がりの坂道" />
                    ガラクタだった。 宝物だった。どっちなんだ。たぶん、どっちもなのだ。悲しみは、いつか癒える。本当にそう言えるのか。 いつか、すべてを許せる。それも本当に言えるのか。それでも、さよなら言わなきゃ。会いにいかなきゃ。自分を愛さなきゃ。 もっと強くならなきゃ。 「茜空」は、何かを受け容れ終えた人の歌ではない。 まだ自分を急かしている。まだ迷っている。それでも、空の色が消える前に、どちらかへ身体を向けようとしている。 YouTubeで見る 生まれたてのような朝に 寝ぼけたままの目をこすり 夢の続きのような心地 君と出会った 昼下がり 始まりと終わりの不思議 日々が奏でる物語 狂い咲いた夏の終わり 波音がさらうよ いつかは悲しみも癒えると 言い得るの？ 今何も望まない… ガラクタだった 宝物だった 日々にさよなら言わなきゃ 吹き荒れた土砂降り すべてを洗い流した 雨のち晴れて 愛を誓って 君に会いにいかなきゃ 燃えるような茜空 消える前に 生まれた時はゆりかごに 死んでしまえば みな墓に 命を巡る物語 君を愛してるよ いつかはすべてを許せると 言い得るの？ 何もかも受け容れて… 日々の静寂に大人になった 自分をもっと愛さなきゃ 滅入りそうな坂道 上り下り生きてきた 弱虫だった 羨ましかった もっと強くならなきゃ 背を向けた逃げ道&hellip;
                ]]>
            </summary>
        <content type="html">
            <![CDATA[
                    <p><img src="https://mutant-music.com/media/posts/55/akanezora-thumbnail.jpg" class="type:primaryImage" alt="茜色の空へ続く雨上がりの坂道" /></p>
                <div><div class="song-intro" data-content-type="song"><p>ガラクタだった。</p>
<p>宝物だった。どっちなんだ。たぶん、どっちもなのだ。悲しみは、いつか癒える。本当にそう言えるのか。</p>
<p>いつか、すべてを許せる。それも本当に言えるのか。それでも、さよなら言わなきゃ。会いにいかなきゃ。自分を愛さなきゃ。</p>
<p>もっと強くならなきゃ。</p>
<p>「茜空」は、何かを受け容れ終えた人の歌ではない。</p>
<p>まだ自分を急かしている。まだ迷っている。それでも、空の色が消える前に、どちらかへ身体を向けようとしている。</p></div>
<div class="song-video">
  <div class="post__iframe"><iframe width="560" height="315" src="https://www.youtube-nocookie.com/embed/8cml8p7lGSI" title="Mutant Music「茜空」" loading="lazy" allow="accelerometer; autoplay; clipboard-write; encrypted-media; gyroscope; picture-in-picture; web-share" allowfullscreen></iframe></div>
</div>
<p class="text-link song-video-link"><a href="https://www.youtube.com/watch?v=8cml8p7lGSI" rel="noopener">YouTubeで見る</a></p>
<h2 id="work-info">作品情報</h2>
<dl class="song-facts">
  <div><dt>収録作品</dt><dd><a href="/discography/akanezora/">4th album『茜空』</a></dd></div>
  <div><dt>Track</dt><dd>9</dd></div>
  <div><dt>制作</dt><dd>作曲2008年7月・作詞2008年8月</dd></div>
  <div><dt>初出</dt><dd>2011年9月4日</dd></div>
  <div><dt>クレジット</dt><dd>作詞: みゅー／作曲: みゅー</dd></div>
</dl>
<h2 id="lyrics">歌詞</h2>
<pre class="lyrics" lang="ja">生まれたてのような朝に
寝ぼけたままの目をこすり
夢の続きのような心地
君と出会った 昼下がり

始まりと終わりの不思議
日々が奏でる物語
狂い咲いた夏の終わり
波音がさらうよ

いつかは悲しみも癒えると
言い得るの？
今何も望まない…

ガラクタだった 宝物だった
日々にさよなら言わなきゃ
吹き荒れた土砂降り
すべてを洗い流した

雨のち晴れて 愛を誓って
君に会いにいかなきゃ
燃えるような茜空
消える前に

生まれた時はゆりかごに
死んでしまえば みな墓に
命を巡る物語
君を愛してるよ

いつかはすべてを許せると
言い得るの？
何もかも受け容れて…

日々の静寂に大人になった
自分をもっと愛さなきゃ
滅入りそうな坂道
上り下り生きてきた

弱虫だった 羨ましかった
もっと強くならなきゃ
背を向けた逃げ道
もう戻れないから

夕立晴れて 愛を誓った
君に会いにいかなきゃ
燃えるような茜空
消える前が美しいね

背を向けた帰り道
君の元へ…</pre>
<h2 id="reading">曲を読む</h2>
<p>最初は朝である。</p>
<blockquote><p>生まれたてのような朝に<br>
寝ぼけたままの目をこすり<br>
夢の続きのような心地<br>
君と出会った 昼下がり</p></blockquote>
<blockquote><p>生まれたてのような朝</p></blockquote>
<p>生まれた、ではない。</p>
<blockquote><p>ような</p></blockquote>
<p>である。そして、</p>
<blockquote><p>夢の続きのような心地</p></blockquote>
<p>ここにも、</p>
<blockquote><p>ような</p></blockquote>
<p>がある。朝なのに、まだ夢が完全には終わっていない。新しく始まったようでいて、前の時間も少し残っている。そんな曖昧なところから始まる。</p>
<p>そのまま、</p>
<blockquote><p>昼下がり</p></blockquote>
<p>に君と出会う。朝。昼。一日の時間が動き始める。</p>
<p>でも、その動きはすぐ、もっと大きな「始まり」と「終わり」の話になる。</p>
<blockquote><p>始まりと終わりの不思議<br>
日々が奏でる物語<br>
狂い咲いた夏の終わり<br>
波音がさらうよ</p></blockquote>
<p>始まり。終わり。そしてまた、</p>
<blockquote><p>夏の終わり</p></blockquote>
<p>終わりが二度出る。でも、夏が終わった、だけではない。</p>
<blockquote><p>狂い咲いた</p></blockquote>
<p>のである。季節どおりに静かに終わるのではなく、終わり際に何かが咲く。しかも、狂い咲く。終わる時に始まるものがある。</p>
<p>最初から、始まりと終わりはきれいに分かれていない。そして、</p>
<blockquote><p>波音がさらうよ</p></blockquote>
<p>何をさらうのかは書かれない。狂い咲いたものなのか。夏なのか。日々なのか。感情なのか。</p>
<p>目的語がない。波音だけが来て、何かを持っていく。ここで歌は、最初の問いへ入る。</p>
<blockquote><p>いつかは悲しみも癒えると<br>
言い得るの？<br>
今何も望まない…</p></blockquote>
<p>面白いのは、「悲しみも癒えるの？」ではないところだ。</p>
<blockquote><p>いつかは悲しみも癒えると<br>
言い得るの？</p></blockquote>
<p>癒えるかどうかだけではない。</p>
<p>そう言い切ることができるのか。言葉の方まで疑っている。「いつかは大丈夫になるよ」。よくある言葉である。</p>
<p>でも、本当にそんなことを言えるのか。</p>
<p>そして、</p>
<blockquote><p>いつか</p></blockquote>
<p>の直後に、</p>
<blockquote><p>今</p></blockquote>
<p>が来る。いつかは癒える。でも今は、</p>
<blockquote><p>何も望まない…</p></blockquote>
<p>何も要らない。そう言う。ただ、最後の三点リーダーが、完全な無欲の宣言にはしてくれない。本当にもう何も欲しくないのか。望んでまた失うのが嫌なのか。</p>
<p>そこまでは分からない。そして、その直後に出てくる過去が、一色ではない。</p>
<blockquote><p>ガラクタだった 宝物だった</p></blockquote>
<blockquote><p>日々にさよなら言わなきゃ</p></blockquote>
<p>ガラクタだった。宝物だった。間に、でも。けれど。本当は。</p>
<p>がない。同じ日々に、二つの過去形がそのまま付く。ガラクタ。宝物。どちらかが間違いだったとは言わない。</p>
<p>両方だったらしい。そして初めて、「〜なきゃ」が出る。</p>
<blockquote><p>さよなら言わなきゃ</p></blockquote>
<p>さよならしたい、ではない。</p>
<p>言わなきゃ。必要。義務。自分を急かしている。</p>
<p>この歌には、ここから何度も、</p>
<blockquote><p>なきゃ</p></blockquote>
<p>が出てくる。受け容れようとしている人が、ずっと自分へ命令している。そこが少し面白い。そして雨。</p>
<blockquote><p>吹き荒れた土砂降り<br>
すべてを洗い流した</p></blockquote>
<p>かなり強い。</p>
<blockquote><p>すべて</p></blockquote>
<p>である。全部洗い流した。言葉だけなら、ここで過去はきれいになる。</p>
<p>ところが、このあとも、過去の日々。</p>
<p>弱かった自分。羨んだ自分。上り下りしてきた坂道。いろいろ戻ってくる。</p>
<p>だから、</p>
<blockquote><p>すべてを洗い流した</p></blockquote>
<p>を、記憶が完全に消えました、と読む必要はなさそうだ。何かは流れた。</p>
<p>でも、何も残らなかったわけではない。</p>
<p>その雨のあとに、一度目の茜空が出る。</p>
<blockquote><p>雨のち晴れて 愛を誓って<br>
君に会いにいかなきゃ<br>
燃えるような茜空<br>
消える前に</p></blockquote>
<p>雨のち晴れ。分かりやすい。でも、晴れた。だから全部解決した。</p>
<p>ではない。</p>
<p>なにしろ、</p>
<blockquote><p>愛を誓って</p></blockquote>
<p>である。</p>
<blockquote><p>誓った</p></blockquote>
<p>ではない。</p>
<p>まだ途中の形だ。そして、</p>
<blockquote><p>君に会いにいかなきゃ</p></blockquote>
<p>また、</p>
<blockquote><p>なきゃ</p></blockquote>
<p>である。何も望まない、と言った人が、少し後には、愛を誓って、君に会いに行こうとしている。やっぱり何も望んでいないわけではなさそうだ。いや、望みというより、行かなければならない、と思っているのかもしれない。そこも少し違う。</p>
<p>会いたい、ではなく、会いにいかなきゃ。身体を動かすために、自分へ命令している。しかも期限がある。</p>
<blockquote><p>消える前に</p></blockquote>
<p>茜空は待ってくれない。燃えるように見えても、すぐ消える。だから、今。行かなきゃ。二番では、最初の「生まれたて」が本物の生と死へ広がる。</p>
<blockquote><p>生まれた時はゆりかごに<br>
死んでしまえば みな墓に<br>
命を巡る物語<br>
君を愛してるよ</p></blockquote>
<p>最初は、</p>
<blockquote><p>生まれたてのような朝</p></blockquote>
<p>だった。今度は、</p>
<blockquote><p>生まれた時</p></blockquote>
<p>になる。比喩だった朝が、実際の誕生へ広がる。その次は、死。ゆりかご。墓。</p>
<p>ずいぶん遠くまで来た。</p>
<blockquote><p>命を巡る物語</p></blockquote>
<p>の「巡る」は、命が循環する、とも響く。ただ、日本語の「〜を巡る」には、命について。命をめぐって。という意味もある。</p>
<p>だからここだけで、生命は必ず循環する、と決めなくていい。確かなのは、生まれる。死ぬ。その間に物語がある。</p>
<p>という大きな時間のすぐ後に、</p>
<blockquote><p>君を愛してるよ</p></blockquote>
<p>という、とても個人的な一行が来ることだ。人生とは何か。生と死とは何か。そこまで広げておいて、結論は哲学ではない。君を愛してる。</p>
<p>それだけ。そして、もう一度問いが来る。</p>
<blockquote><p>いつかはすべてを許せると<br>
言い得るの？<br>
何もかも受け容れて…</p></blockquote>
<p>最初は、</p>
<blockquote><p>いつかは悲しみも癒えると</p></blockquote>
<p>だった。今度は、</p>
<blockquote><p>すべてを許せると</p></blockquote>
<p>になる。癒える。から、許す。へ。</p>
<p>自分の傷の問題だけでなく、何かを許すことまで入ってくる。でも、また、</p>
<blockquote><p>言い得るの？</p></blockquote>
<p>である。許せるようになった、とは言わない。いつか許せる。と断言することすら疑っている。</p>
<p>そして最初は、</p>
<blockquote><p>今何も望まない…</p></blockquote>
<p>だった。今度は、</p>
<blockquote><p>何もかも受け容れて…</p></blockquote>
<p>である。この二つはかなり違う。何も、望まない。何もかも、受け容れる。一方はゼロにする方向。</p>
<p>もう一方は全部入れる方向。同じ「何も」が、正反対へ動いている。しかも、「受け容れた」</p>
<p>ではない。</p>
<blockquote><p>受け容れて…</p></blockquote>
<p>三点リーダー。やっぱり途中である。この歌が「受容」を扱っているとしても、受容は完了形では出てこない。そして、その直後に、</p>
<blockquote><p>日々の静寂に大人になった<br>
自分をもっと愛さなきゃ<br>
滅入りそうな坂道<br>
上り下り生きてきた</p></blockquote>
<blockquote><p>日々の静寂に大人になった</p></blockquote>
<p>少し不思議な日本語だ。静寂の中で、とも読める。静寂によって、とも響く。説明しすぎない方がいいと思う。</p>
<p>ただ、にぎやかな成功の中で大人になった、とは言っていない。日々の、静寂。そこで、</p>
<blockquote><p>大人になった</p></blockquote>
<p>と、ここだけは完了形で言う。でも次の行は、</p>
<blockquote><p>自分をもっと愛さなきゃ</p></blockquote>
<p>大人にはなった。でも、まだ自分を十分愛せてはいないらしい。また、</p>
<blockquote><p>なきゃ</p></blockquote>
<p>である。受け容れて。自分を愛さなきゃ。受容したから自己愛が完成した、ではない。</p>
<p>むしろ、自分を愛する必要がある、とようやく言葉にしている。そして坂道。</p>
<blockquote><p>滅入りそうな坂道<br>
上り下り生きてきた</p></blockquote>
<p>坂道は、上る、だけではない。</p>
<blockquote><p>上り下り</p></blockquote>
<p>である。人生を上昇だけにはしない。上った。下った。それで生きてきた。</p>
<p>その次も、過去形が二つ並ぶ。</p>
<blockquote><p>弱虫だった 羨ましかった<br>
もっと強くならなきゃ<br>
背を向けた逃げ道<br>
もう戻れないから</p></blockquote>
<p>少し前には、</p>
<blockquote><p>ガラクタだった 宝物だった</p></blockquote>
<p>だった。ここでは、</p>
<blockquote><p>弱虫だった 羨ましかった</p></blockquote>
<p>である。過去を一語でまとめない。弱かった。羨んだ。そういう自分もいた。</p>
<p>そしてまた、</p>
<blockquote><p>もっと強くならなきゃ</p></blockquote>
<p>また自分へ命令する。自分を愛さなきゃ。もっと強くならなきゃ。この歌の「受け容れる」は、何もしなくていい、という意味ではなさそうだ。受け容れたい。</p>
<p>でも変わりたい。その二つも同時にある。そして、</p>
<blockquote><p>背を向けた逃げ道<br>
もう戻れないから</p></blockquote>
<p>逃げ道に背を向けたのか。逃げるために何かへ背を向けた道だったのか。文脈を完全に固定する必要はない。大事なのは、</p>
<blockquote><p>もう戻れない</p></blockquote>
<p>がここにあることだ。戻れない。だから次へ進む。と言い切れそうで、この歌は最後にもう一度、道をひっくり返す。その前に、二度目の茜空。</p>
<blockquote><p>夕立晴れて 愛を誓った<br>
君に会いにいかなきゃ<br>
燃えるような茜空<br>
消える前が美しいね</p></blockquote>
<p>一度目は、</p>
<blockquote><p>雨のち晴れて 愛を誓って</p></blockquote>
<p>だった。二度目は、</p>
<blockquote><p>夕立晴れて 愛を誓った</p></blockquote>
<p>になる。</p>
<blockquote><p>誓って</p></blockquote>
<p>から、</p>
<blockquote><p>誓った</p></blockquote>
<p>へ。ここでは、本当に一つの行為が終わる。愛を誓った。決めた。では、そのまま何もかも完了するのか。</p>
<p>そうでもない。次の行は変わらない。</p>
<blockquote><p>君に会いにいかなきゃ</p></blockquote>
<p>まだ、</p>
<blockquote><p>なきゃ</p></blockquote>
<p>なのである。誓いは完了した。でも身体はまだ到着していない。</p>
<p>決心と行動は同時ではない。</p>
<p>そして茜空の見方も変わる。最初は、</p>
<blockquote><p>消える前に</p></blockquote>
<p>だった。急いでいる。期限である。今度は、</p>
<blockquote><p>消える前が美しいね</p></blockquote>
<p>になる。消えてしまう。だから急げ。から、消える前が、美しい。へ。</p>
<p>失われることそのものが、美しさの一部になる。しかも最後が、</p>
<blockquote><p>ね</p></blockquote>
<p>である。</p>
<p>一人で断言するのではない。</p>
<p>美しいね。と、誰かへ同意を求めるような語尾になる。空は同じように消えていく。</p>
<p>でも、最初と最後では、その消え方の見え方が少し変わっている。そして、本当の最後。</p>
<blockquote><p>背を向けた帰り道<br>
君の元へ…</p></blockquote>
<p>少し前には、</p>
<blockquote><p>背を向けた逃げ道</p></blockquote>
<p>だった。最後は、</p>
<blockquote><p>背を向けた帰り道</p></blockquote>
<p>になる。逃げ道。帰り道。同じ、</p>
<blockquote><p>背を向けた</p></blockquote>
<p>が付く。逃げる道と、帰る道。どちらも後ろに置くようにも読める。</p>
<p>でも、作者自身の当時メモには、この歌が、過去へ決別する歌なのか。やっぱり過去を忘れられず、未来を捨ててしまう歌なのか。自分でも曖昧だった、と残っている。だからここを、未来へ進む決意です、と一色にはしない方がいい。</p>
<p>そもそも最後も、</p>
<blockquote><p>君の元へ…</p></blockquote>
<p>で終わる。着いた、ではない。</p>
<p>君の元へ向かった。でもなく、</p>
<blockquote><p>君の元へ…</p></blockquote>
<p>方向だけ。三点リーダー。出発の途中で終わる。ガラクタだった。宝物だった。</p>
<p>何も望まない。何もかも受け容れる。戻れない。帰り道。さよなら言わなきゃ。</p>
<p>君に会いにいかなきゃ。自分を愛さなきゃ。強くならなきゃ。いろいろな言葉が、最後まで一つには整理されない。</p>
<p>でも、君の元へ。</p>
<p>という方向だけは残る。茜空が消える直前の色は、その矛盾が解ける時間ではなく、矛盾したまま身体の向きを変える時間なのだと思う。最後の行き先を、未来へ進む決意か、過去へ戻る決意かのどちらかへ決めなくていい。曖昧なのは後から解釈が不足したからではなく、作っていた本人がすでに「曖昧な歌」と捉えていた。現在のみゅーの自信満々な評価と、制作時の手探りは、そのまま両方残しておきたい。</p>
<h2 id="production-background">制作背景</h2>
<p>夏合宿で訪れた場所を思い浮かべながら、爽やかな夏の曲を作ろうとして生まれた。サビのメロディーは夜中に、本人の言葉では「夢遊病のごとく」できた一方、詞にはかなり苦労したという。当時のメモには「受容」「誓い」「決心」という言葉があるが、過去へ背を向けるのか、戻るのかまで一方向には固めず、自ら「曖昧な歌」と記していた。現在のみゅーは「イ段の韻をこれでもかって踏んでる」「Mutant Musicの傑作」「死ぬ時もこれを流してほしい」と、かなり気に入っている。みゅー本人による詳しい制作記録は、<a href="/notes/production-stories/#story-akanezora">NOTES「制作秘話」</a>で読めます。</p>
<h2 id="history">Mutant Music史から見ると</h2>
<p><a href="/songs/promised-land/">「Promised Land」</a>には、誰かと坂を上り、約束の場所へ向かう歌があった。そこで大事だったのは、向かう先だった。約束の場所。たどり着きたい場所。</p>
<p><a href="/songs/i-love-you-i-need-you/"><code>I love you, I need you</code></a> にも、道と坂道が出てくる。</p>
<blockquote><p>ああ 道は不確かで</p></blockquote>
<p>それでも、</p>
<blockquote><p>今 二人 歩き出す</p></blockquote>
<p>そして、</p>
<blockquote><p>坂道も 悲しみも あるけれど</p></blockquote>
<p>と歌った。「茜空」では、その坂道が少し違って見える。</p>
<blockquote><p>滅入りそうな坂道<br>
上り下り生きてきた</p></blockquote>
<p>今度は、これから上る坂、だけではない。</p>
<p>すでに、上って。下って。生きてきた。坂道が、未来の試練から過去の履歴にもなる。</p>
<p>現在のみゅー自身も、「Promised Land」から続く坂道の言葉を、<code>I love you, I need you</code>、そしてこの曲へつながるものとして後から見ている。ただ、それを最初から設計された連作にはしない。</p>
<p>似た言葉が、別々の時期に、別の意味を帯びて戻ってきた。そのくらいがいい。<code>I love you, I need you</code> は、この曲の少し前、2008年6月に作られている。あの曲では、</p>
<blockquote><p>誰よりも 愛してるよ</p></blockquote>
<p>と、君への愛をかなりまっすぐ言った。そして、君の歌声に誘われ、僕も歌い出す。君を必要としながら、二人で歩き出す。そんな歌だった。</p>
<p>「茜空」にも、</p>
<blockquote><p>君を愛してるよ</p></blockquote>
<p>がある。</p>
<p>でも、それだけでは終わらない。</p>
<p>今度は、</p>
<blockquote><p>自分をもっと愛さなきゃ</p></blockquote>
<p>まで入る。君を愛することと、自分を愛すること。両方が必要になる。ただし、ここでも、自分を愛せるようになった、とは言わない。愛さなきゃ。</p>
<p>まだ課題である。他人への愛から自己愛へ進歩した、という一本道にはしない。この時の歌には、君を必要とする言葉と、自分を愛する必要があるという言葉が、どちらもあった。</p>
<p>さらに、その直前の2008年6月には、<a href="/songs/disturb/"><code>disturb</code></a>も作られている。あの曲には、</p>
<blockquote><p>悲しい愛を終わらせて 息もつかないうちに 愛を誓う</p></blockquote>
<p>という一行があった。</p>
<p>現在のみゅーは後になって、この、「愛を誓う」という言葉を、「茜空」へ続く伏線のように見ている。制作順だけを見れば、<code>disturb</code>が先。「茜空」が後。だから言葉の連続そのものはあり得る。</p>
<p>でも、<code>disturb</code> を書いた時点で、次に「茜空」を書いてこの言葉を回収しよう、と計画していた資料はない。後から並べて見た時に、同じ「誓う」が別の場所で鳴っていた。それくらいにしておく。</p>
<p>そして「茜空」では、その誓い自体も一回で終わらない。最初は、</p>
<blockquote><p>愛を誓って</p></blockquote>
<p>後では、</p>
<blockquote><p>愛を誓った</p></blockquote>
<p>になる。確かに何かは決まる。でも、そのあとにも、</p>
<blockquote><p>君に会いにいかなきゃ</p></blockquote>
<p>が残る。決めること。動けること。受け容れること。自分を愛せること。</p>
<p>それぞれ別である。この曲を、Mutant Musicがついに過去を克服した作品、という場所へ置く必要はないと思う。なにしろ作者自身が制作時から、過去との決別なのか。過去へ戻るのか。</p>
<p>曖昧だ、と書いている。しかも歌詞は、ガラクタだった。宝物だった。と両方言う。過去を捨てない。</p>
<p>美化もしない。きれいに一色へ塗り直さない。そのうえで、最後に残るのは、</p>
<blockquote><p>君の元へ…</p></blockquote>
<p>である。正しい未来、とは書かない。新しい自分、とも書かない。まして、到着した、とも書かない。ただ方向だけを置く。</p>
<p>そしてその上にあるのが、消えていく茜空。最初は、消える前に、と急いだ。最後には、消える前が美しいね、と言った。空は結局、消える。止められない。</p>
<p>でも、消えることと美しいことは、反対ではなかった。ガラクタと宝物が同じ日々だったように。その二つを同時に置いたまま、君の元へ向かう。この曲にある「受容」は、何もかも片づいた静かな境地というより、そんな妙に矛盾した向き直り方なのだと思う。</p>
<h2 id="credits">クレジット</h2>
<dl class="song-facts">
  <div><dt>作詞</dt><dd>みゅー</dd></div>
  <div><dt>作曲</dt><dd>みゅー</dd></div>
</dl>
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