ソフトボール応援歌
サンキュー。
三球。オーライ。イッツオーライ。ドンマイ。転ぶ。
三振する。トンネルする。でも最後まで、勝った、とは歌わない。代わりに残るのは、
イッツオーライ!
である。
この歌が応援しているのは、失敗しない君ではない。
こぼした君。空振りした君。転んだ君。三振した君。トンネルした君。
そのたびに、まだこっちにいるよ、と皆で声を返す。ずいぶん短い歌だけれど、それで十分なのだと思う。
作品情報
- 作品区分
- アルバム未収録曲
- 制作
- 2010年10月
- クレジット
- 作詞: みゅー/作曲: みゅー
歌詞
「サンキュー!」フライで「オーライ!」 こぼしてもドンマイ
君の後ろに皆がついてる
空振りもオーライ 転んでもドンマイ
泣くこともない 恥じることない
頑張る君が好きだよ
三球三振 イッツオーライ ゲッツーでもドンマイ
君の分まで皆で頑張る
空回りもオーライ トンネルでもドンマイ
急ぐことない 焦ることない
いつだって応援してるよ
イッツオーライ! イッツオーライ! イッツオーライ!
イッツオーライ!
曲を読む
最初から、声が飛び交っている。
「サンキュー!」フライで「オーライ!」 こぼしてもドンマイ
君の後ろに皆がついてる
空振りもオーライ 転んでもドンマイ
泣くこともない 恥じることない
頑張る君が好きだよ
まず、
「サンキュー!」
である。そして少し後には、
三球三振
が出てくる。サンキュー。三球。文字にすると意味はまるで違う。でも音はかなり近い。
これを最初から狙った駄洒落だった、とまでは資料にない。ただ、完成した歌の中では、ありがとう、の音が、三球、になって戻ってくる。この歌はそういう軽さでできている。
そして、
「オーライ!」
も面白い。フライの場面なら、捕球する側の掛け声として聞こえる。でもこのあと、
空振りもオーライ
となり、二番では、
イッツオーライ
まで出る。競技の声だった「オーライ」が、all right、大丈夫、という意味へそのまま滑っていく。しかも、その「大丈夫」は成功した時には使われない。最初から、
こぼしてもドンマイ
である。フライは、こぼす。失敗する。そのあとで、ドンマイ。
つまりこの歌は、うまく捕れ。失敗するな。では始まらない。失敗はもう歌詞の中に入っている。
そして、
君の後ろに皆がついてる
である。君が失敗した瞬間に、一人だけ前へ放り出されるわけではない。後ろには、皆。がいる。
うまくできた時だけ仲間になる、とは書かない。さらに、
空振りもオーライ 転んでもドンマイ
空振り。転倒。どちらも、やってしまった、である。でも、
も
が付く。空振りも。転んでも。それも含めて、オーライ。ドンマイ。
この歌は、失敗を成功へ言い換えてはいない。空振りは空振り。転んだら転んだ。その事実はそのままで、大丈夫、とだけ言う。
次の、
泣くこともない 恥じることない
も同じである。泣くな。恥じるな。と強く叱るより、そこまで気にすることないよ、くらいの言い方になっている。
そして最後に、
頑張る君が好きだよ
勝つ君。上手な君。活躍する君。
ではない。
頑張る君
である。結果ではなく、やっている最中を見ている。ただ、この歌は二番へ行くと、その応援の仕方も少し変わる。
三球三振 イッツオーライ ゲッツーでもドンマイ
君の分まで皆で頑張る
空回りもオーライ トンネルでもドンマイ
急ぐことない 焦ることない
いつだって応援してるよ
いきなり、
三球三振
である。一番の、
「サンキュー!」
と並べると、やっぱり妙に耳に残る。サンキュー。三球。しかも三球の先は、
三振
ちゃんと失敗する。その直後が、
イッツオーライ
である。三球三振。イッツオーライ。結果だけ見れば全然オーライではない気もする。そこがいい。
さらに、
ゲッツーでもドンマイ
まで来る。また失敗する。でも、ドンマイ。失敗の種類だけがどんどん増えていく。ところが、そのたびに励ましの語彙も同じように戻る。
オーライ。ドンマイ。そして一番では、
君の後ろに皆がついてる
だった。二番では、
君の分まで皆で頑張る
になる。最初は、そばにいる。後ろにいる。という支えだった。
今度は、君の分まで、皆でやる。君がうまくできなかった一回を、君一人の負債として残さない。チームの方へ分散する。この歌で、「皆」はかなり大事らしい。君が失敗した。
だから君が取り返せ。
ではない。
君が失敗した。じゃあ皆で頑張ろう。である。そして、
空回りもオーライ トンネルでもドンマイ
ここでは、一番の、
空振り
が、
空回り
へ変わっている。空振りなら、かなり野球・ソフトボールの言葉だ。空回りになると、急に日常でも使える。頑張っている。動いている。
でもうまく噛み合わない。そんな状態まで入ってくる。タイトルどおりの競技の歌なのに、少しずつグラウンドの外でも使える言葉になる。とはいえ、
トンネル
ですぐ試合へ戻る。比喩だけにはならない。ちゃんとボールを後ろへ抜かしている。この具体性があるから、「人生の応援歌です」と大きく言いすぎても重くならないのだと思う。
そして、
急ぐことない 焦ることない
勝負の最中にしては、ずいぶん悠長だ。次の球。次の打席。次のプレー。試合ならすぐ来る。
それでも、急ぐことない。焦ることない。と声をかける。失敗した直後ほど、早く取り返したくなる。
だからこそ、急ぐな。ではなく、急ぐことない。焦ることない。くらいの温度で止める。
そして最後は、
いつだって応援してるよ
一番では、
頑張る君が好きだよ
だった。頑張っている君を見ていた。二番では、
いつだって
になる。次に打てたら。次に捕れたら。勝ったら。
ではない。
いつだって。少なくとも言葉の上では、成績に期限を付けない。そして結末。
イッツオーライ! イッツオーライ! イッツオーライ!
イッツオーライ!
四回。一回で意味は分かる。でも四回言う。最後の一回だけ、独立する。説明は増えない。
試合がどうなったのかも分からない。三振した人が次に打ったのか。トンネルした人がファインプレーをしたのか。チームが勝ったのか。負けたのか。
何も書かない。ただ、イッツオーライ。もう一回、イッツオーライ。この歌にとって応援とは、失敗を成功談に書き換えることではないらしい。
失敗した直後の君を、そのまま皆の中へ置いておく。そのための短い声が、オーライ。ドンマイ。なのである。
人生を野球にたとえた、ではなく「野球に擬態した人生」と本人は言う。最後まで競技の失敗を歌っているのに、空回りや焦りまで入るとグラウンドの外でも通用してしまう。題名はソフトボール、説明は野球。そのずれも無理に統一しなくていい。
制作背景
現在のみゅーのセルフノートでは「野球は人生だと思う。」「野球に擬態した人生の応援ソング。」とだけ、かなり短く説明されている。録音場所は、引っ越し前の「段ボールの山の中」。大きな人生論を立派な場所で録るのではなく、荷造り中の部屋で短い応援歌を録っていた。みゅー本人による詳しい制作記録は、NOTES「制作秘話」で読めます。
Mutant Music史から見ると
急ぐな。焦るな。という言葉は、以前から何度か出てきた。2nd album『約束の場所』の最後、「一歩ずつ」では、一歩ずつ進むこと。焦らなくてもいいこと。
を歌った。進む。でも急がない。そんな歌だった。
「ソフトボール応援歌」では、
急ぐことない 焦ることない
になる。かなり短い。しかも今度は、自分たちの歩みについて長く考えるのではなく、失敗した誰かへ、その場で声を飛ばす。言っている内容は少し近くても、使われる場所が違う。
一方は、一歩ずつ進む人のための歌。こちらは、今さっきエラーした人へ投げる言葉。どちらが深い、という話ではない。必要な長さが違う。
「明日を待ってる」には、
余裕かましてコケろ
という一行があった。こちらはもっと露骨に、
転んでもドンマイ
である。転ばない人になれ、ではない。
転ぶことを先に認めている。ただし「明日を待ってる」では、立ち上がることを怖がる自分へ、無理しなくてもいい。明日を待ってもいい。と自分で言った。
「ソフトボール応援歌」では、その言葉が外から来る。ドンマイ。オーライ。皆がついてる。君の分まで頑張る。
自分一人で気持ちを立て直さなくてもいい。チームが先に声を出してくれる。「元気日和」にも、
僕が背中を押してあげる
そして、
君は独りじゃない
という応援があった。あの歌では、僕が君を励ます。太陽も君を見ている。という形だった。
ここでは、
君の後ろに皆がついてる
である。僕と君の二人ではなく、皆。さらに、
君の分まで皆で頑張る
まで言う。応援する側が複数になる。でも、一対一の支えが集団へ発展した、といった成長史にはしない。歌の用途が違う。
「元気日和」には、朝から一日を過ごす時間があった。この曲は、失敗の直後、次のプレーまでの数秒に使えるくらい短い。だから説明しない。君はなぜ失敗したのか。どうすれば次は成功できるのか。
失敗から何を学ぶべきなのか。そんな話は全部飛ばす。先に、ドンマイ。である。これはかなり大事だと思う。
失敗した人は、分析される前に、一度チームへ戻してもらった方がいい時がある。ただ、この曲を全部人生訓にしてしまうのも少し違う。三球三振。ゲッツー。トンネル。
ちゃんと可笑しい。ちゃんと試合である。そして最後まで、試合結果は分からない。勝利の歌ですらない。
残るのは、
イッツオーライ!
だけ。Mutant Musicには、長く考えてからようやく歩き出す歌もある。明日まで待つ歌もある。悲しみを受け容れようとする歌もある。
この曲は、そんなことを考える時間すらない時のために、たった一言だけ残す。大丈夫。次、いこう。それくらいの応援歌である。
クレジット
- 作詞
- みゅー
- 作曲
- みゅー