Promised Land
大きな題名なのに、歌は、
おはようって 言って 今日も 僕の一日が 始まっていく
から始まる。約束の場所は「あの日」にもう見つけている。最後には、
約束の場所は今でも 心の中に
とまで言う。もうある。もう見つけた。それなのに、
今すぐ飛んで行く
と言う。場所の歌なのに、ずっと移動している。そこが Promised Land の少し不思議なところだ。
作品情報
- 収録作品
- 2nd album『約束の場所』
- Track
- 10
- 制作
- 2007年3月
- 初出
- 2007年4月4日
- クレジット
- 作詞: みゅー/作曲: みゅー
歌詞
おはようって 言って 今日も 僕の一日が 始まっていく
おはようって 笑って その笑顔見せて
あの日 僕らが見つけた 始まりの場所は 今も 褪せない 約束の場所
ただ 素直さに向き合って わけもなく涙溢れて 愛しさで心が満たされていく
もう何もかも捨て去って この体一つで 迷い晴らして 思いを届けに行く
優しい風 巻き起これ! 今すぐ飛んで行く 約束の場所へと 運んで行く
会いたい 会いたい さっきまで 手を繋いでいたのに
会えない 会えない そっと目を閉じてみる
ただ 優しさに触れ合って 心は暖くて 昨日までの僕にさよならって 手を振って
どんな遠く離れてたって この空は一つで 繋がっている 真直ぐに飛んで行ける
坂道を昇り下って たまには躓いて これまでなんとか生きてきた 独りで
今 君が隣に立って 心は一つで 手を繋いで 二人で歩いて行く
あぁ 僕らが見つけた あの場所も 季節は巡りゆく 今日も君で溢れてる
さぁ 風 舞い戻れ! いつでもこの胸に 約束の場所は今でも 心の中に
優しい風 舞い踊れ! 今すぐ飛んで行く 約束の場所へと 運んで行け!
曲を読む
最初は、ごく普通の朝だ。
おはようって 言って 今日も 僕の一日が 始まっていく
おはようって 笑って その笑顔見せて
あの日 僕らが見つけた 始まりの場所は 今も 褪せない 約束の場所
一行目は、
おはようって 言って
二行目は、
おはようって 笑って
になる。「おはよう」を言う。次には、「おはよう」と笑う。笑顔まで挨拶になっている。
そして、
今日も
である。
一度きりの劇的な始まりではない。
今日も始まる。昨日もたぶん始まった。明日もまた始まる。ところが三行目では、時間が急に過去へ飛ぶ。
あの日
そしてすぐ、
今も
へ戻る。今日。あの日。今。場所の歌なのに、時間の言葉がずいぶん多い。
しかも、その「あの日」に見つけた場所には二つの名前がある。
始まりの場所
そして、
約束の場所
である。何が始まったのか。どんな約束だったのか。歌詞には書かれない。地名もない。
だから、こちらには具体的な場所が見えない。でも二人には、「あの場所」で通じる。その私的な記憶だけが、
今も 褪せない
と言われる。場所そのものが変わらないのではなく、記憶の色が褪せないように聞こえる。その記憶へ触れると、いきなり涙が出る。
ただ 素直さに向き合って わけもなく涙溢れて 愛しさで心が満たされていく
もう何もかも捨て去って この体一つで 迷い晴らして 思いを届けに行く
素直さに向き合って
という言い方は少し変わっている。人と向き合う。自分と向き合う。なら分かる。
ここで向き合う相手は、「素直さ」。誰の素直さなのかも、はっきりしない。自分かもしれない。君かもしれない。二人の間にあるものかもしれない。
そこへ向き合うと、
わけもなく涙溢れて
となる。理由はない。と言いながら、その直後には、
愛しさで心が満たされていく
とある。涙は溢れる。心は満たされる。どちらも、器から水が動くような言葉だ。感情がいっぱいになりすぎて、内側と外側の境目が少し怪しくなる。
そして、
何もかも捨て去って
と言う。かなり大げさだ。全部捨てる。でも一つ残る。
この体一つで
である。
思いだけを飛ばすのではない。
身体を持っていく。そして、
思いを届けに行く
だから、これはかなり移動の歌でもある。一日が、
始まっていく
心が、
満たされていく
思いを、
届けに行く
「行く」が何度も出る。約束の場所へ着くことより、そこへ向かう動きの方がずっと多く書かれている。そこで突然、風へ命令する。
優しい風 巻き起これ! 今すぐ飛んで行く 約束の場所へと 運んで行く
巻き起これ!
ずいぶん強い。でも求めているのは、
優しい風
である。勢いよく起これ。でも優しくしてくれ。なかなか注文が多い。
さらに、さっきは、
この体一つで
自分から届けに行くと言った。その直後には、風に運ばれようとしているようにも聞こえる。自分で行くのか。運んでもらうのか。たぶん、どちらもなのだ。
決意だけでは足りない。今すぐ飛んでいけるくらいの追い風もほしい。そして、この大きな飛行願望の直後に、ものすごく小さな別れが来る。
会いたい 会いたい さっきまで 手を繋いでいたのに
会えない 会えない そっと目を閉じてみる
会いたい 会いたい
二回。
会えない 会えない
二回。願いと現実を、同じようなリズムでぶつける。しかも、
さっきまで
である。昨日でもない。一週間前でもない。さっきまで手を繋いでいた。
それなのにもう、会いたい。会えない。になる。ずいぶん早い。でも離れた直後というのは、さっきまで触れていた分だけ、不在が急に大きくなることもある。
そして、
そっと目を閉じてみる
最初は、
その笑顔見せて
と、目の前の君を見ていた。今度は目を閉じる。見えなくなった君を、内側へ探しに行くようにも聞こえる。次の連は、最初の「素直さ」とよく似た形で始まる。
ただ 優しさに触れ合って 心は暖くて 昨日までの僕にさよならって 手を振って
どんな遠く離れてたって この空は一つで 繋がっている 真直ぐに飛んで行ける
最初は、
ただ 素直さに向き合って
だった。今度は、
ただ 優しさに触れ合って
になる。向き合う。触れ合う。少しずつ距離が近くなっている。
しかも「触れ合う」のは、身体そのものではなく、
優しさ
である。形のないもの同士が触る。その結果、
昨日までの僕にさよならって 手を振って
となる。
君へさよならするのではない。
昨日までの自分へ手を振る。ここでも時間が動く。昨日まで。そして次には、
この空は一つで
である。さっきは、
この体一つで
だった。一つ目は、自分の身体。二つ目は、二人の上にある空。尺度が急に大きくなる。体は一つ。
空も一つ。遠く離れても、その一つの空でつながっている。かなり直球だ。そしてまた、
真直ぐに飛んで行ける
飛ぶ。道を歩くより速い。距離を一気に消したい。
ところが、次の場面では飛ぶのをやめる。
坂道を昇り下って たまには躓いて これまでなんとか生きてきた 独りで
今 君が隣に立って 心は一つで 手を繋いで 二人で歩いて行く
急に地面へ戻る。坂道。昇る。下る。躓く。
飛行ではなく歩行だ。しかも人生を、ずっと昇ってきた、とは言わない。
昇り下って
である。上がることもある。下がることもある。そして、
なんとか生きてきた
ずいぶん控えめだ。立派に乗り越えてきた。
ではない。
なんとか。その最後に、
独りで
と置く。ここまでの一人分の時間が、最後の二文字で急に見える。でも次の行は、
今
で始まる。昨日まで。独りで。今。君がいる。
そして三つ目の、
一つ
が出る。最初は、
この体一つで
次は、
この空は一つで
今度は、
心は一つで
である。身体。空。心。どんどん「一つ」の意味が変わる。
でも、おもしろいのは、その直後だ。
手を繋いで 二人で歩いて行く
心は一つ。でも人間は、
二人
である。
一人になってしまうわけではない。
身体まで融合するわけでもない。二人のまま手を繋ぐ。だから「心は一つ」も、完全に同じ人間になることではなく、別々の二人が同じ方向へ歩いている、くらいに読む方がこの歌には合っている。そして、その約束の場所にも時間は流れている。
あぁ 僕らが見つけた あの場所も 季節は巡りゆく 今日も君で溢れてる
最初は、
今も 褪せない 約束の場所
だった。でも今度は、
季節は巡りゆく
と言う。記憶は褪せない。季節は変わる。場所そのものが時間の外へ保存されているわけではない。あの場所にも春夏秋冬は来る。
何も変わらない場所ではない。
そして、
今日も君で溢れてる
何が君で溢れているのかは、少し曖昧だ。あの場所なのか。今日という一日なのか。自分の心なのか。全部にかかっているようにも聞こえる。
最初には、
愛しさで心が満たされていく
があった。今度は、
君で溢れてる
になる。満たされるどころか、とうとう溢れてしまった。そして最後、風が戻ってくる。
さぁ 風 舞い戻れ! いつでもこの胸に 約束の場所は今でも 心の中に
優しい風 舞い踊れ! 今すぐ飛んで行く 約束の場所へと 運んで行け!
最初の風は、
巻き起これ!
だった。今度は、
舞い戻れ!
さらに、
舞い踊れ!
になる。起こす。戻す。踊らせる。風の動きがどんどん増える。
しかもここには、
いつでも
と、
今でも
が並ぶ。今日も。あの日。今も。昨日まで。
今。今日も。いつでも。今でも。今すぐ。
この曲は「場所」という言葉を中心にしているのに、実はずっと時間の話もしている。そしてとうとう、
約束の場所は今でも 心の中に
とはっきり言う。ここで少し困る。心の中にあるなら、もうそこにいるのではないか。なぜ、
今すぐ飛んで行く 約束の場所へと
なのか。もう持っている。
でも、もう一度行きたい。
記憶の中にあることと、実際に君とそこへ行くことは違う。あるいは「約束の場所」は、一度到着して終わる地点ではないのかもしれない。思い出せば胸の中へ戻ってくる。離れれば、また向かいたくなる。
だから風にも、
舞い戻れ!
と言う。最後には最初の、
運んで行く
よりさらに強く、
運んで行け!
と命令する。約束の場所は見つかっている。心にもある。それでも行く。
この歌では、到着より、君の方へ向かうこと自体が止まらない。入口は壮大な約束ではなく、ただの「おはよう」だった。実景としての丘がありながら、歌の中では約束の場所が心の内側へも置かれる。現在のみゅー自身も「もっと抽象的ななにかなのかもしれません」と読み直している。具体的な場所と内側の場所を、どちらか一方へ決めなくていい。
制作背景
アルバム録音の終盤、「なんかキャッチーな曲を」とギターを弾いていたところ、「おはよう」というフレーズが降ってきて一気に書いたという。制作時に「約束の場所」の実景として思い浮かべていたのは、クリスマスに花火を見た丘だった。録音では途中で感情があふれ、いったん歌えなくなった箇所もある。ギターソロ前では「空を飛んでいる浮遊感」を作りたかったという。みゅー本人による詳しい制作記録は、NOTES「制作秘話」で読めます。
Mutant Music史から見ると
この曲は、『約束の場所』というアルバムの終盤で、
約束の場所
という言葉そのものを何度も歌う。曲名だけは、Promised Land。アルバム名と同じ場所を、英語の題名で掲げる。ただ、そのわりに、「約束」が何だったのかは最後まで説明されない。約束の文言もない。
守られたという証明もない。あるのは、
あの日 僕らが見つけた
という記憶だけだ。だから、このアルバムで最後に手に入るのは、破られない契約書のようなものではない。二人だけが、あそこだ、と分かる場所である。同じアルバムの「vital」には、
長い旅路の果てに 安住の地を見つけるまで 僕を支えていて
という言葉があった。そこでは「安住の地」は未来にある。まだ見つかっていない。いつか見つけるまで、君に支えてほしい。
「Promised Land」では逆に、
あの日 僕らが見つけた 始まりの場所は 今も 褪せない 約束の場所
と言う。こちらでは、もう見つけている。未来の土地ではなく、過去に共有した場所だ。でも話はそこで終わらない。
すでに見つけた場所へ、
今すぐ飛んで行く
と言う。見つけることと、そこに居続けることは別らしい。「vital」では、安住の地をまだ知らない。「Promised Land」では、場所は知っているのに、そこへまた行きたい。
どちらが先へ進んだ、という話ではない。
「居場所」というものの困り方が違う。そして、もう一つ変わるのが移動の仕方だ。「vital」では、走る。独りでもやっていけるかと自分へ問い、それでも君が必要だと言う。
「Promised Land」では、
これまでなんとか生きてきた 独りで
と、過去をいったん「独りで」にまとめる。そのうえで、
手を繋いで 二人で歩いて行く
になる。走らない。飛ぶと叫んでいた人が、肝心な人生の場面では歩く。しかも二人で。だから、この曲を「独りから二人へ成長した」と読む必要はない。
ほんの少し前には、
会いたい 会いたい
会えない 会えない
と騒いでいる。二人になったから、不安がなくなるわけでもない。むしろ、誰かと歩くようになったからこそ、離れた瞬間に会いたくなる。約束の場所を持ったからこそ、そこへ戻りたくなる。この歌では、何かを手に入れることが、そのまま不安の終わりにはならない。
そこがいい。約束の場所は、過去に見つけた場所。今も心にある場所。そして今すぐ向かいたい場所。三つが同時にある。
到着済みなのに、まだ旅の途中。その妙な状態のまま、風へ最後の命令を出す。
運んで行け!
どこかへ着いて終わる歌ではない。
約束の場所を胸に持ったまま、またそこへ向かう。だからこの曲では、「場所」は一点というより、君の方へ向き直るための目印に近いのだと思う。
クレジット
- 作詞
- みゅー
- 作曲
- みゅー