Life goes on
恋は魔法ではない。
法律でもない。そう言った本人が、少しあとには、
恋のパワー背中に受けて 地球を飛び出せ!
と言う。さらに「恋せよ」は法律じゃないと言っておきながら、恋をしない人には、
損だろ 努力しろ!
である。全然一貫していない。でも最後には、その分からなさこそが、人生が続く理由になる。
作品情報
- 収録作品
- 2nd album『約束の場所』
- Track
- 3
- 制作
- 2006年10月
- 初出
- 2007年4月4日
- クレジット
- 作詞: みゅー/作曲: みゅー
歌詞
愛とか恋とか言うけれど それは魔法ではない
恋せよ乙女とか言うけれど そんなの法律でもない
知らなきゃ知らない方が身のためって言う
首を縦に振るざるを得ない YES
いつも偉そうなこと言うけれど 僕は天才じゃない
世界一でもないから 頭使わなくちゃな
丁とか半とか言うけれど どっちかはもう分からない
恋は盲目とか言うけれど それはBeautifulじゃない?
恋のパワー背中に受けて 地球を飛び出せ!
エンドレス自分探しの旅
いつも必需品は 恋だって信じてる YEAH
恋はしないとか言うけれど 損だろ 努力しろ!
ちょっとは背伸びしてみろよ まだまだそんなもんじゃない
知れば知る程 分からなくなる
首を横に振るざるを得ない NO!
無知の知とか言うけれど 知らないことばっかじゃない?
だから人生は続くのだ YES, my life is going on!
曲を読む
この歌には、何度も同じ言い方が出てくる。
愛とか恋とか言うけれど それは魔法ではない
恋せよ乙女とか言うけれど そんなの法律でもない
「とか言うけれど」。誰かがそう言っている。世間ではそう言う。
でも、本当にそうなのか。
一度借りた言葉から、少し距離を取る。最初に疑われるのは、愛。恋。「恋せよ乙女」。かなり大きな言葉である。
でも、
それは魔法ではない
し、
そんなの法律でもない
らしい。
恋は人を勝手に変えてしまう魔法ではない。
ましてや、しなければ罰せられる法律でもない。ここだけ読めば、かなり冷静である。恋愛を大げさに扱うな。恋をすることを人へ強制するな。そういう歌にも聞こえる。
ところが、その冷静さはあまり長くもたない。
次は、別の決まり文句だ。
知らなきゃ知らない方が身のためって言う
首を縦に振るざるを得ない YES
また、「って言う」。誰が言ったのかは分からない。でも今度は反論しない。
首を縦に振るざるを得ない
のである。面白いのは、そのあとに、YESと付いていることだ。見た目だけなら、力強い肯定である。でも文法は、「ざるを得ない」。仕方なく首を縦に振っている。
自由なYESではない。
恋は法律ではない、と言った直後なのに、こちらはもう何かへ従わされている。そのあと、自分自身にも少し矛先が向く。
いつも偉そうなこと言うけれど 僕は天才じゃない
世界一でもないから 頭使わなくちゃな
ここだけ「とか」がない。でも、「言うけれど」は残る。世間の言葉を疑っていた本人も、いつも偉そうなことを言う人である。自分だけは真理を知っている、という場所には立てない。天才でもない。
世界一でもない。だから、
頭使わなくちゃな
となる。ずいぶん地道だ。分からないなら考える。ただし、考えたからといって、分かるようになるとは限らない。次では、もう二択すら怪しくなる。
丁とか半とか言うけれど どっちかはもう分からない
恋は盲目とか言うけれど それはBeautifulじゃない?
また、「とか言うけれど」。丁か半か。どちらかしかないはずなのに、
どっちかはもう分からない
と言う。二択なのに分からない。この歌にはあとでYESとNOも出てくるけれど、どうも二つに分ければ分かりやすくなるタイプではないらしい。そして、
恋は盲目とか言うけれど
という、また有名な決まり文句を持ってくる。普通なら、だから気をつけろ、となりそうなところを、
それはBeautifulじゃない?
と返す。美しい。
ではない。
Beautifulじゃない?疑問形である。無分別な恋を肯定したい。
でも、その肯定にも少し同意を求めている。
本当にそう思わない?くらいの位置にいる。そしてとうとう、冒頭の冷静さが吹き飛ぶ。
恋のパワー背中に受けて 地球を飛び出せ!
エンドレス自分探しの旅
いつも必需品は 恋だって信じてる YEAH
恋は魔法ではなかった。
でも、地球は飛び出せるらしい。
それ、だいぶ魔法ではないか。しかも恋は、
必需品
になる。しなくてもいい自由なものだったはずなのに、人生の必需品になっている。かなり話が変わった。
ただ、恋の相手とどこかへ行くわけではない。
目的は、
エンドレス自分探しの旅
である。
恋をして相手を手に入れる話ではない。
恋の力で、自分を探しに行く。しかも「エンドレス」。見つかる気配がない。それでも、YEAHである。分からないことを、あまり困っていない。
その勢いで、とうとう他人にも口を出す。
恋はしないとか言うけれど 損だろ 努力しろ!
ちょっとは背伸びしてみろよ まだまだそんなもんじゃない
また、「とか言うけれど」。今度は、「恋はしない」。冒頭なら、恋は法律じゃないんだから、それも自由だよね、と言えそうなものだ。言わない。
損だろ 努力しろ!
である。ものすごく押しつける。「恋せよ乙女」は法律ではない、と自分で言ったのに、気づけば本人が法律みたいなことを言っている。しかも、
ちょっとは背伸びしてみろよ
まだまだそんなもんじゃない
相手が現在どうありたいかより、もっといける。もっとやれ。と勝手に可能性を見積もる。かなり余計なお世話だ。でも、この矛盾を消してしまうと、この歌はつまらなくなる。
恋を押しつけるな。でも恋はしろ。恋は魔法じゃない。でも地球を飛び出せる。理屈より、その時その時の勢いが勝つ。
そして、知識についても同じようにひっくり返る。
知れば知る程 分からなくなる
首を横に振るざるを得ない NO!
最初は、
知らなきゃ知らない方が身のためって言う
首を縦に振るざるを得ない YES
だった。知らない方がいい。YES。今度は、知れば知るほど分からない。NO!
縦。横。YES。NO。きれいに対になっている。
ただし、どちらにも、
ざるを得ない
が付いている。YESも強制。NOも強制。自分で自由に選んだ答えというより、考えた末にそう首を動かさざるを得なくなった。しかも、何に対するNOなのかははっきり書かれない。
知らない方がいい、へのNOなのか。恋はしない、へのNOなのか。知れば分かる、という期待へのNOなのか。勢いよく叫ぶわりに、対象は曖昧である。そして最後に、また誰かの言葉を持ってくる。
無知の知とか言うけれど 知らないことばっかじゃない?
だから人生は続くのだ YES, my life is going on!
最後まで、「とか言うけれど」。無知の知。ずいぶん哲学的な言葉を持ってきた。
でも、やることは難しくない。
知らないことばっかじゃない?
知らないこと、いっぱいあるじゃん。そのくらいにしてしまう。そして、ここで初めて、
だから
が前向きにつながる。知らない。分からない。二択にしても決まらない。知れば知るほど分からない。
だから、人生は続く。普通なら、分からないことは問題である。答えを出してから先へ進みたい。この歌は逆だ。分からないものが残っている。
だから、まだ続きがある。そして最後のYESだけは、
YES, my life is going on!
になる。最初のYESには、「首を縦に振るざるを得ない」が付いていた。途中のNOにも、「首を横に振るざるを得ない」が付いていた。最後には、それがない。誰かの格言に従ってYESと言うのでもない。
何かを否定するためにNOと叫ぶのでもない。知らないことばかりだ。でも、自分の人生はいま続いている。そこへYESと言う。題名は Life goes on。
人生は続く。最後になると、my life is going on!僕の人生が、いま続いている。一般論だった Life が、最後だけ自分のものになる。
立派な答えを得たからではない。
むしろ逆である。何も決着していない。恋は魔法なのか。自由なのか。必需品なのか。
するべきなのか。知らない方がいいのか。知るべきなのか。全部、よく分からない。でも人生は続いている。
だったら、とりあえずYES。そのくらいの歌なのだと思う。
作者本人は「特に文学性とかメッセージはない」と言う。それでも完成した言葉にはYESとNO、縦と横、現実と飛躍が妙に呼応している。作者が設計図を引いていなかったことと、出来上がった歌を読めることは別の話だ。仮題が飲み物の名前だったくらいの偶然も、この曲には似合っている。
制作背景
現在のみゅー自身、「なんでこの曲が誕生したのか、まったく忘れちゃった」としている。ただ、歌詞より先に曲があり、アレンジや音質、パンを含むミックスをいろいろ試していた時期だったことは覚えている。歌詞は本人曰く「モニョモニョ歌っているのに当てはめた感じ」で、最初から文学的な主題を設計して書いた曲ではなかったという。みゅー本人による詳しい制作記録は、NOTES「制作秘話」で読めます。
Mutant Music史から見ると
1st album『真実の口』の最後では、
僕が唄うことは 全て真実だから
と言い切った。かなり大きな宣言だった。その少しあとに書かれた「Life goes on」は、
知らないことばっかじゃない?
と言う。並べると、ずいぶん違う。でも、真実なんてなかった、と前作を撤回したわけではない。「真実の口」で信じようとしたのは、自分が歌へ込める気持ちだった。「Life goes on」で分からないと言っているのは、恋や人生や世界についての答えである。
自分の気持ちは真実だと言えても、人生のことを全部知っているわけではない。むしろ知らない。考える。もっと分からなくなる。それでも続く。
二曲を並べると、真実を言えることと、答えを知っていることは別なのだと見えてくる。もちろん、この対比を最初から計画していたという資料はない。後から並べると、そう聞こえるだけである。
そして現在のみゅーは、『約束の場所』を振り返って、「このアルバムのもう一つのテーマは『生命(ライフ)』なんだと思う」とも書いている。ここで重要なのは、「今思うと」である。制作時に「生命」という裏テーマを設計していた、とは書いていない。作品がそろった後で振り返ると、そう見える。「Life goes on」という題名も、その中へあとから置き直される。
この曲での life は、まだかなり個人的だ。
YES, my life is going on!
僕の人生。
しかも、何か偉業を成し遂げる人生ではない。
自分探しはエンドレス。知れば知るほど分からない。そのまま続いている人生である。同じアルバムに後から並んだ曲を見ると、「生命」という言葉は別の形でも現れてくる。けれど、それを「Life goes on」で提示された思想が順番に発展した、とする必要はない。
この曲を書いた本人自身、文学性もメッセージも特に考えていなかった、と言っている。そこがむしろ面白い。本人が大きな思想を書こうとしたわけではないのに、最後には、知らないから人生は続く、という妙に大きな一行が残った。しかも、その直前まで恋をしろだの、地球を飛び出せだの、かなり勝手なことを言っている。立派な人生論として保存するには、ノイズが多すぎる。
でもそのノイズごと、my life is going on!なのである。
人生が整ったから続くのではない。
分からないし、矛盾しているし、言っていることも途中で変わる。それでも続く。この曲には、その雑な強さがある。
クレジット
- 作詞
- みゅー
- 作曲
- みゅー