インスタントライフ

イントロもなく始まる。

後奏もなく終わる。しかも、そのことを最初の一行で先に言ってしまう。ずいぶん構想のはっきりした歌である。なのに人生の方は、

構想もないまま

過ぎていく。歌はきれいに作れる。生活は、そうはいかない。その間で出会った人たちのことを、この曲は歌う。

作品情報

Track
8
制作
2008年3月
初出
2008年3月17日
クレジット
作詞: みゅー/作曲: みゅー

歌詞

今 イントロもなく 歌が始まって 後奏もなく 歌が終わっていく
始まりと終わりの間で 出逢った たくさんの人達

誰もが 自分の明日を 予感しながら生きている
宿命を知っていながらも 前向きに生きている
ちっぽけな自分ひとりでは 先にも進めなくて
支え合える人がいる喜びが 今日も人を支えている

ささいな言葉で傷つけ合った 自分の愚かさに 絶望する
それでも側にいてくれた人達が 暖かくて 涙こぼれた

ただ インスタントライフが始まって 構想もないまま過ぎていく
始まりと終わりの間で 僕が見つけた たったひとつの答え

誰よりも 自分の価値を 知っている人がいる
寂しさを 分かち合いながらも 寄り添って歩いていく

ふるさと 遠く離れて 憧れの街にやってきた
誰よりもかけがえのない人を この街で見つけた

Ah 摩天楼の夜に胸は高鳴って 高層ビルにただ立ち尽くして
希望を胸に抱き 大きな夢を 追い求めて 歩いていく

この命 続く限り 大切にしたい人がいる
大好きな笑顔が待っている 帰るべき場所がある

さよなら 寂しくなるけど 僕らはここを出て行く
変わってしまうことは 悲しいけど また来る春に 胸躍る

生まれた意味もよくわからないまま 競争の中に埋もれていく
新しい暮らしの中でも 僕が 帰る場所は まだあるかな?

また インスタントライフが始まって 構想もないまま 終わっていく
繰り返す日々の中で 小さな幸せを 積み重ねていく

今 イントロもなく 歌が始まって 後奏もなく 歌が終わっていく

曲を読む

最初の一行で、曲の始まりと終わりを全部言ってしまう。

今 イントロもなく 歌が始まって 後奏もなく 歌が終わっていく
始まりと終わりの間で 出逢った たくさんの人達

と言った瞬間には、もう歌が始まっている。その歌が、自分にはイントロがないと言う。さらに、

後奏もなく 歌が終わっていく

と、終わり方まで予告する。そして、いちばん大事なのは、始まりでも、終わりでもなく、

らしい。

始まりと終わりの間で

何があったのか。その答えとして最初に出てくるのは、成功。夢。仕事。

ではない。

たくさんの人達

である。「間」を、人との出会いで数えている。そこから急に主語が大きくなる。

誰もが 自分の明日を 予感しながら生きている
宿命を知っていながらも 前向きに生きている
ちっぽけな自分ひとりでは 先にも進めなくて
支え合える人がいる喜びが 今日も人を支えている

誰もが

である。いきなり全人類くらいの話になる。でも「明日」について使う言葉は、

予感

だ。

分かっているわけではない。

なんとなく感じる。

一方、

宿命

については、

知っていながらも

と言う。明日は「予感」。宿命は「知っている」。未来についての確かさが少しねじれている。

それでも、

前向きに生きている

と言う。ただし、その前向きさを個人の根性だけにはしない。

ちっぽけな自分ひとりでは 先にも進めなくて

である。一人では進めない。だから、

支え合える人

が必要になる。しかも面白いのは、

支え合える人がいる喜びが 今日も人を支えている

という言い方だ。人が直接、人を支える。

だけではない。

支え合える人がいるという喜びが、また人を支える。人。喜び。人。一段挟まる。

誰かが実際に何かをしてくれなくても、あの人がいる、と思えること自体が支えになる。

ただ、その人間関係は、きれいなものだけではない。

ささいな言葉で傷つけ合った 自分の愚かさに 絶望する
それでも側にいてくれた人達が 暖かくて 涙こぼれた

傷つけ合った

なので、傷は一方向ではない。

お互いに傷つけた。

でも、絶望する対象は、

自分の愚かさ

である。相手が悪かった、とはしない。傷つけ合ったのに、自分の側を引き受けて絶望する。そのあとに、

それでも

が来る。愚かだった。傷つけた。それでも側にいてくれた。だから暖かい。

傷つかなかった関係だから大切なのではない。

傷つけても残った人がいるから、涙が出る。そして題名が出てくる。

ただ インスタントライフが始まって 構想もないまま過ぎていく
始まりと終わりの間で 僕が見つけた たったひとつの答え

最初の一行は、

だった。今度は、

ただ

で始まる。そして、

構想もないまま

である。少し可笑しい。この歌自体は、イントロをなくす。後奏もなくす。最初と最後を同じ言葉にする。

と、かなり構想されている。でも歌っている生活の方には、構想がない。始まってしまう。そして過ぎていく。

そんな生活の中で見つけたのが、

たったひとつの答え

だと言う。ここで最初の、

たくさんの人達

と向かい合う。たくさん。たったひとつ。出会ったものは多い。答えは一つ。

では、その答えは何なのか。ところが次の一行で、「答えとは○○である」とは言わない。代わりに、

誰よりも 自分の価値を 知っている人がいる
寂しさを 分かち合いながらも 寄り添って歩いていく

と続く。また、

人がいる

である。答えを抽象語にせず、人の姿で出してくる。しかも、

寂しさを 分かち合いながらも

なのがいい。

寂しさをなくしてから寄り添うのではない。

寂しさそのものを分け合いながら歩く。

「支え合える人」が、完全に幸せな人とは限らない。

寂しい人同士でもいい。そこから、場所が変わる。

ふるさと 遠く離れて 憧れの街にやってきた
誰よりもかけがえのない人を この街で見つけた

さっきは、

誰よりも 自分の価値を 知っている人

だった。今度は、

誰よりもかけがえのない人

になる。同じ、

誰よりも

が、別の形で出てくる。自分の価値を知ってくれる人。自分にとってかけがえのない人。どちら向きの価値もある。

そして、その人を見つけた場所は、

憧れの街

だった。でも都会へ来た本人は、ずっと颯爽と歩いているわけでもない。

Ah 摩天楼の夜に胸は高鳴って 高層ビルにただ立ち尽くして
希望を胸に抱き 大きな夢を 追い求めて 歩いていく

胸は、

高鳴って

いる。場所は、

高層ビル

である。なのに本人は、

ただ立ち尽くして

いる。胸は動いている。身体は止まっている。大きな街へ来た高揚と、その大きさに立ち尽くす感じが同時にある。

そのあとでようやく、

歩いていく

になる。夢があるから迷わず進める、という一行ではない。一度立ち尽くしてから歩く。その先で、また「人がいる」が出る。

この命 続く限り 大切にしたい人がいる
大好きな笑顔が待っている 帰るべき場所がある

題名は、インスタントライフ。お手軽で、短く、始まっては終わる生活。でもここでは、

この命 続く限り

と言う。急に長い。インスタントなのか。一生なのか。どちらなんだ。

たぶん、どちらもなのだ。生活の一単位は短い。

でも、その短い生活の中で、命が続く限り大切にしたい人、まで見つかることがある。そして、

帰るべき場所がある

と断言する。かなり強い。帰れる。

ではない。

帰るべき。そこが自分の場所だ、とかなりはっきり言っている。ところが、この歌はその安心を最後まで守ってくれない。まず別れが来る。

さよなら 寂しくなるけど 僕らはここを出て行く
変わってしまうことは 悲しいけど また来る春に 胸躍る

二行とも、

けど

が入る。寂しい。けど、出ていく。悲しい。けど、春には胸が躍る。

どちらかの感情で片方を打ち消さない。別れるのは寂しい。新しい季節は楽しみ。同時にある。

しかも、

僕らはここを出て行く

なので、一人だけの旅立ちではない。

人が集まった場所そのものが、入れ替わっていく。だから現在のみゅーのセルフライナーに、「また一人消え、また一人去っていく」という記憶が残っているのも、この歌にはよく合う。そして、さらに大きな問いへ行く。

生まれた意味もよくわからないまま 競争の中に埋もれていく
新しい暮らしの中でも 僕が 帰る場所は まだあるかな?

さっきは、

帰るべき場所がある

と言い切っていた。今度は、

帰る場所は まだあるかな?

である。断言が疑問へ戻る。しかも、

まだ

が入る。今はあるかもしれない。

でも、これからもあるのか。

新しい生活へ進み、自分も周囲も変わったあとで、同じ場所へ帰れるのか。分からない。「帰る場所を見つけたので安心した」では終わらない。帰る場所を持ったからこそ、それを失う可能性まで見えてくる。そして最後の インスタントライフ

また インスタントライフが始まって 構想もないまま 終わっていく
繰り返す日々の中で 小さな幸せを 積み重ねていく

最初は、

ただ インスタントライフが始まって

だった。ここでは、

また

になる。

一回ではない。

また始まる。そして最初は、

過ぎていく

だったものが、

終わっていく

になる。始まって、同じ一行の中でもう終わる。ずいぶん速い。題名どおり、インスタントである。

でも、その直後に、

積み重ねていく

が来る。インスタントなのに、積み重ねる。短い生活を一回ずつ終える。その中で、

小さな幸せ

だけは重ねていく。一回分は短い。でも繰り返せば、何かが残る。そして最後は、最初の一行へ戻る。

今 イントロもなく 歌が始まって 後奏もなく 歌が終わっていく

同じ文である。歌の最初にもあった。

でも、その間に、たくさんの人に会った。

傷つけた。側にいてもらった。街へ来た。大切な人を見つけた。旅立った。

帰る場所が残っているか不安になった。同じ始まりと終わりでも、間に入ったものは同じではない。この歌は、始まり方や終わり方より、その「間」に何があったか、をずっと見ている。だからインスタントだから薄い、とはならない。

短いものほど、その間に誰がいたかが残る。そんな歌なのだと思う。人生は「構想もないまま」と歌いながら、曲そのものはイントロも後奏もなくすところまでかなり構想されている。その少し可笑しいねじれがある。録音に残ったメトロノームの音を、後から本人がインスタント食品の「チン」に聞こえると気づいたのも、意図した伏線ではなく偶然だからこそ面白い。

制作背景

「旅立つ人へ。卒業ソング。」として作られ、みゅー自身の造語 インスタントライフ には、インスタント食品のように短く区切られる生活と、その全部を通して続く生命の両方を重ねたという。歌詞の一節ができた段階で、本当にイントロも後奏もなく、歌で始まり歌で終わる曲にしようと構想した。ピアノは本人曰く「めっちゃ練習した」。みゅー本人による詳しい制作記録は、NOTES「制作秘話」で読めます。

Mutant Music史から見ると

この曲の背景にある深夜のアルバイトは、以前の vital と直接つながっている。

現在のみゅー自身が、「『意味のない繰り返し(vitalより)』ことバイト」と書いている。vital では、

意味の無い繰り返しに 絶望を感じる時
君の笑顔を思い出すんだ

だった。同じ仕事の記憶を、「インスタントライフ」では少し違う角度から振り返る。辛い。人は去っていく。

でも、

支え合える人がいる喜びが 今日も人を支えている

とも歌う。だから、vital の絶望を後から訂正した、という話ではない。同じ場所でも、その最中に見えていたものと、去る時に見えるものは違う。意味がないと思う日もあった。それでも、短い間に出会った人が残る。

両方あっていい。もっと前の「新しい命」と並べると、生まれることへの分からなさも別の位置から戻る。「新しい命」では、

生まれることが どういうことかは 僕にはまだよくわからないけど

と、これから生まれる人を迎える側から言った。「インスタントライフ」では、

生まれた意味もよくわからないまま 競争の中に埋もれていく

となる。今度は、生まれた側が、なんで生まれたのか、をまだ分からない。前の曲で問いが解けたわけでもないし、こちらで答えが出るわけでもない。ただ、同じ「分からない」が、誕生を迎える側と、すでに生きている側の両方にある。そして、それでも生活は始まる。

「一歩ずつ」とは、

積み重ね

の言葉が響き合う。あちらでは、

一つずつ僕らが 積み重ねてきた時間 それが答えでいいから

だった。「インスタントライフ」では、

繰り返す日々の中で 小さな幸せを 積み重ねていく

になる。一つの時間。一歩。小さな幸せ。

どれも大きな完成品ではない。

ただし、「一歩ずつ」は二人の関係の時間を主に見ていた。こちらでは、たくさんの人達。仕事。ふるさと。街。

旅立ち。帰る場所。と、生活の単位がもっと散らばっている。小さく積むという方法が、恋愛だけではなく生活全体へ使われているように見える。そして、現在のみゅー自身が明示的につないでいるのが、表題曲「Tokyo Walker」だ。

この曲には、

ふるさと 遠く離れて 憧れの街にやってきた
誰よりもかけがえのない人を この街で見つけた

がある。

現在のみゅーは、これが「Tokyo Walker」の、東京と君の存在が重なる一節へリンクする、と説明している。ただし両曲は同じ2008年1月から3月頃の制作圏にあり、どちらを先に書いたのかは今回の資料では分からない。

だから、「インスタントライフ」が表題曲への伏線だった、とも、表題曲を受けてこちらを書いた、とも決めない。完成した二曲を並べると、憧れの街で見つけた人と、東京そのものの意味が近づいて見える。そのくらいでいい。

しかも「インスタントライフ」は、

帰るべき場所がある

と言い切った直後に、

帰る場所は まだあるかな?

と聞き直す。人を見つけたから、街が永遠の居場所になったわけではない。暮らしはまた変わる。人も去る。自分も出ていく。

だから帰る場所は、見つけた瞬間に永久保存されるものではない。タイトルどおり、生活は何度も始まって終わる。それでも、その間に出会った人。傷つけても側にいてくれた人。自分の価値を知ってくれる人。

大切にしたい人。そういうものまでインスタントに消えるとは、この歌は言わない。短い生活の中で、小さな幸せを積み重ねる。次の生活へ持っていけるものがあるとすれば、たぶん、その「間」に残ったものなのだと思う。

クレジット

作詞
みゅー
作曲
みゅー