明日も君に会える

「明日も君に会える」。

それだけである。告白が成功したわけでもない。恋人になったわけでもない。ただ、明日も会う約束ができた。それだけで服の色を悩み、予定表に書き、身体が勝手に踊り、最後には早く明日になれと念じながら眠る。

ずいぶん忙しい「それだけ」である。

作品情報

Track
9
制作
2006年5月
初出
2006年9月4日
クレジット
作詞: みゅー/作曲: みゅー

歌詞

「明日も君に会える」って口に出して言ってみたら
それだけで なんか とてもたまらなく 嬉しくなるよ

明日も君に会えるって とっても素敵なことだなぁ
明日も「明日君に会える」って言えたらいいな

昨日までは 毎日 雨模様 体の機能まで 異常を観測した
だけど 思いがけない 君との約束 それが 今日 君と ランデヴー

「明日も君に会える?」って さり気なく 聞いてみたら
「もちろんだよ」って 君が笑顔で 答えてくれたから

明日も君に会えるって 希望に満ちた言葉だなぁ
週末じゃない 休日でもない 特別な 明日

今日は 結局 言えなかったけど 器用で 気の利いた事は言えないけど
だけど明日こそは 君に伝えたいんだ 僕の気持ち 愛 アイラビュー

明日も君に会えるって とっても素敵なことだなぁ
明日着ていく服は何色にしようかな?

「明日も君に会える」って 一人つぶやいてみたら
体が 勝手に ひとりでに踊りだすんだ

明日も君に会えるって スケジュール帳に書き込んだら
明日も君に会える夢を見て眠りにつくよ

早く 明日にならないかな
早く 明日が来ないかな
早く 明日ニナレバイイノニナァ
zzz

曲を読む

最初にするのは、君へ話しかけることですらない。自分で言ってみる。

「明日も君に会える」って口に出して言ってみたら
それだけで なんか とてもたまらなく 嬉しくなるよ

「なんか」。「とても」。「たまらなく」。嬉しさを説明する代わりに、程度を表す言葉だけがどんどん増える。何がそんなに嬉しいのか、自分でもうまく説明できていない。

ただ、「明日も君に会える」。一度声にして、自分の耳で聞いただけで嬉しくなる。

この歌では、言葉は出来事の報告ではない。

言ったことで、気分の方が変わる。そして、題名にも入っている「も」が効いてくる。

明日も君に会えるって とっても素敵なことだなぁ
明日も「明日君に会える」って言えたらいいな

「明日君に会える」なら、一回の予定である。でも「明日君に会える」には、今日も会っていた感じが残る。さらに妙なのは、その次だ。明日になったら、また、「明日君に会える」と言いたい。

つまり欲しいのは、一度会うことだけではない。

明日になっても、その次の明日を楽しみにできることなのだ。今日。明日。その次の明日。「また明日」と言える時間を、ずっと切らしたくない。

かなり欲張りである。その浮かれ方の前に、昨日までの状態が置かれる。

昨日までは 毎日 雨模様 体の機能まで 異常を観測した
だけど 思いがけない 君との約束 それが 今日 君と ランデヴー

「雨模様」までは普通の比喩なのに、

体の機能まで 異常を観測した

になると、急に検査結果みたいだ。

落ち込んでいました、ではない。

異常を観測した。自分の身体をどこか外から測っているような言い方である。それほど具合の悪かった昨日から、

今日 君と ランデヴー

へ行く。「会った」でも「練習した」でもなく、「ランデヴー」。少し大げさだ。

でも、いまの気分にはそれくらいがちょうどいい。

そして今日会えたから、次の明日を確保しにいく。

「明日も君に会える?」って さり気なく 聞いてみたら
「もちろんだよ」って 君が笑顔で 答えてくれたから

「さり気なく」。かなり重要である。これだけ明日のことで頭がいっぱいなのに、質問だけはさり気なくしたらしい。内心と外見の温度差がものすごい。こちらにとっては、この返事ひとつで服の色まで変わりかねない。

でも相手から返ってきたのは、「もちろんだよ」。なんでもない返事である。そのなんでもなさが、むしろいい。

大げさな約束ではない。

ただ明日も会う。それだけで、想像だった明日が本当に予定になる。

明日も君に会えるって 希望に満ちた言葉だなぁ
週末じゃない 休日でもない 特別な 明日

「週末じゃない」。「休日でもない」。

なのに、「特別な 明日」。

暦の側は何もしてくれない。赤い日でもない。特別なイベントがあるわけでもない。君に会えるという理由だけで、その一日だけ色がつく。これはこの歌全体に通じている。

特別なことが起こるから嬉しいのではない。

何でもないことが、嬉しいから特別になる。ただ、一つだけ今日のうちにできなかったことがある。

今日は 結局 言えなかったけど 器用で 気の利いた事は言えないけど
だけど明日こそは 君に伝えたいんだ 僕の気持ち 愛 アイラビュー

「けど」が続く。言えなかったけど。器用なことは言えないけど。気の利いたことも言えないけど。

そこまで言い訳してから、

愛 アイラビュー

である。急にものすごく直接的だ。「愛」と書いて、さらに「アイラビュー」。器用でも気が利いてもいない。そのままである。

本人には言えないのに、歌の中ではここまで言える。だから「明日こそ」。今日言えなかったことを、明日へ送る。この歌にとって明日は、約束の日であると同時に、今日の失敗をやり直せる場所でもある。

そして、そんな大事な明日を前にして次に考えるのが、

明日も君に会えるって とっても素敵なことだなぁ
明日着ていく服は何色にしようかな?

なのである。ここが好きだ。昨日までは、「体の機能まで 異常を観測した」。今日は、「服は何色にしようかな」。

人生の問題が解決したわけではない。

ただ、悩みの大きさが急に小さくなった。明日の服を考える余裕ができた。その変化だけで十分だと思う。君と別れて一人になっても、浮かれ方は止まらない。

「明日も君に会える」って 一人つぶやいてみたら
体が 勝手に ひとりでに踊りだすんだ

「一人」で、「ひとりでに」。部屋には一人しかいない。なのに身体だけは勝手に動く。

意識して踊るのではない。

「勝手に」。「ひとりでに」。明日の約束を口にした身体が、こちらより先に喜んでいる。そして同じ言葉を、次は紙へ移す。

明日も君に会えるって スケジュール帳に書き込んだら
明日も君に会える夢を見て眠りにつくよ

最初は口に出した。次は君へ尋ねた。一人でもう一度つぶやいた。今度はスケジュール帳へ書く。「明日も君に会える」という同じ一文を、何回確認するのだろう。

でも、書き込むと少しだけ現実になる。

予定になった。これで安心して眠れそうなものなのに、眠ったら今度は夢の中でも会う。予定が確定しても、まだ足りないらしい。そして最後。

早く 明日にならないかな
早く 明日が来ないかな
早く 明日ニナレバイイノニナァ
zzz

一回目は、明日にならないかな。二回目は、明日が来ないかな。意味はほとんど同じだ。待ちきれないので言い換える。

三回目になると、

明日ニナレバイイノニナァ

片仮名になる。もう文章というより、眠る直前の念仏みたいだ。そして、zzz寝た。明日を早く来させる方法はない。だから寝るしかない。

この歌には、大きな出来事が最後まで起きない。告白もまだしていない。関係が変わったわけでもない。ただ、「もちろんだよ」という返事をもらった。その一言を、口に出し、つぶやき、予定表に書き、夢にまで持っていく。

何でもない明日を、これだけ何度も嬉しがれる。それがこの曲の全部であり、それで十分なのだと思う。歌の中では大胆な言葉まで行けるのに、本人の前では言えない。その数センチの距離が、全部「明日こそ」へ送られている。大事件ではなく、「明日も会える」というだけで一日が特別になることを、その小ささのまま残した歌だと思う。

制作背景

同級生と楽器やコーラスの練習をした帰り、「明日もやる?」「もちろんだよ」という短いやり取りから生まれたという。翌日が待ち遠しく、本人の記憶では「秒で曲と歌詞が出来上がっていく」。みゅーはこの曲を「フルオーケストラの壮大なラブソングもいいが、僕はAメロがサビみたいなこういう小曲が好きだ」と振り返り、「本当に取るに足らない日常」を歌いたかったとしている。みゅー本人による詳しい制作記録は、NOTES「制作秘話」で読めます。

Mutant Music史から見ると

「明日も君に会える」を同じアルバムの「真実の口」と並べると、やはり気になるのは、「言えない」というところだ。この曲では、

今日は 結局 言えなかったけど 器用で 気の利いた事は言えないけど
だけど明日こそは 君に伝えたいんだ 僕の気持ち 愛 アイラビュー

と歌う。まだ言えない。だから明日にする。「真実の口」では、その「伝えたい」がもっと前へ出る。言葉にすることそのものが、歌の中心へ来る。

だからといって、「明日も君に会える」が告白の準備編で、「真実の口」が完成編だった、とする必要はない。この曲には、この曲でしか持てない時間がある。まだ言えていない。でも明日も会える。だったら、今日はそれでいい。

告白前の時間を失敗として急いで終わらせず、むしろ思い切り楽しんでいる。そこがいい。さらに後の vital では、この曲の一行がかなり直接的に戻ってくる。

「明日も君に会える?」って もう問いかける必要も無いんだ

ほとんど引用である。「明日も君に会える」では、聞かなければ分からない。だから、「明日も君に会える?」と尋ねる。

そして、「もちろんだよ」と答えてもらう。その返事ひとつで身体が踊る。vital では、もう問いかける必要がない、と言う。ただし、これを恋愛関係が順調に進んだから、と読むと話が狭くなる。vital の「君」は、特定の誰かであると同時に、自分自身にも重なる存在として歌われている。

だから同じ問いが、違う場所へ置き直された、と考える方が面白い。外にいる誰かへ、明日も会える?と確かめる言葉。自分を支えるものへ、もう確かめなくてもいい、と言う言葉。同じ一文が、別の曲ではまったく違う仕事をする。

でも「明日も君に会える」では、そんな先のことはまだ何も知らない。「もちろんだよ」。その返事があった。だから明日の服を考える。スケジュール帳に書く。

早く明日になれと念じる。そして寝る。未来について考える歌はたくさんあるけれど、ここまで小さな未来を、ここまで大事にできる歌は案外少ない。この曲の明日は、一日先にしかない。そこがいい。

クレジット

作詞
みゅー
作曲
みゅー