Tokyo Walker

このままで。

いつまでも。これからも。そう言って歩き始めた歌が、途中で、

それを抱えて とことん変わっていこうじゃない この街と共に

と言う。そして最後には、

いつかまた Tokyo Walker この街で Tokyo Walker 逢いましょう

となる。いつまでも一緒なら、「いつかまた」会う必要はない。この曲は、東京の地名をたくさん並べた楽しい街歩きの歌である。でも、その地図をよく見ると、変わらないでほしいものと、変わっていくものが同じ道を歩いている。

作品情報

Track
9
制作
2008年1-3月
初出
2008年3月17日
クレジット
作詞: みゅー/作曲: みゅー

歌詞

僕たちは Tokyo Walker どんな時もTokyo Walker いつまでも
Everybody is Tokyo Walker これからも Tokyo Walker よろしくね

飛び乗った電車は 新宿行き 今日の待ち合わせは ハチ公前
混み始めた電車は 下北沢 今日も人が行き交う 渋谷の交差点

タワレコの脇を抜ければ 明治通り オシャレな服屋を横目で チラり 素通りして
クレープの匂いと 群がる若者達 ヒルズの前で一休み ケヤキ並木の木漏れ日

表参道 今日もどうか このままで Tokyo Walker 晴れるかな?
幸せは Tokyo Walker どんな時も Tokyo Walkerここにある

青山通りは 別名246 初めてのデートで 僕ら ここを歩いた
いつも君を家まで送った帰り道 寂しさこらえて走った 宮益坂

骨董通りのスタバでコーヒーを飲み その日撮った写真を 二人で見せ合った
南青山の街並みは とてもオシャレで
僕も出来ることならいつかこんな街に住んでみたいと思った

僕たちは Tokyo Walker 恋をして Tokyo Walker 歩き出す
いつまでも Tokyo Walker 帰りたくない Tokyo Walker 一緒にいたい

東京タワーで僕らは 二度目の恋に落ち
ハンバーガーショップの前で 初めてキスをした
四季折々のこの街を 僕らは歩き回って 僕にとって もはや東京は 君の存在そのもの

どう 今日 会おっか これから暇? Tokyo Walker どっか行こう
恵比寿 御茶の水 Tokyo Walker 池袋 Tokyo Walker 六本木

いつまでも変わらないものを ひとつ 見つけたなら
それを抱えて とことん変わっていこうじゃない この街と共に

Tokyo Walker どんな時も Tokyo Walker いつまでも
Everybody say, Tokyo Walker これからも Tokyo Walker よろしくね

いつかまた Tokyo Walker この街で Tokyo Walker 逢いましょう
僕たちは Tokyo Walker これからも Tokyo Walker よろしくね

曲を読む

最初は、ずいぶん景気がいい。

僕たちは Tokyo Walker どんな時もTokyo Walker いつまでも
Everybody is Tokyo Walker これからも Tokyo Walker よろしくね

まず、

僕たちは

で始まる。それがすぐ、

Everybody

まで広がる。

僕たちだけではない。

みんなだ。しかも、

どんな時も

いつまでも

これからも

時間の範囲がやたら広い。今日だけの散歩ではないらしい。いつまでもTokyo Walker。そんな大きな宣言をした最後が、

よろしくね

なのもいい。よろしくお願いします、ではない。

よろしくね。東京という巨大な都市を掲げながら、最後は隣にいる人へ話しかけるくらいの距離へ戻ってくる。そこから、いきなり地名が動き始める。

飛び乗った電車は 新宿行き 今日の待ち合わせは ハチ公前
混み始めた電車は 下北沢 今日も人が行き交う 渋谷の交差点

新宿。ハチ公前。下北沢。渋谷。細かな交通経路を説明するというより、地名がリズムに乗って次々に出てくる。

しかも、

今日の待ち合わせ

と、

今日も人が行き交う

の二つの「今日」がある。僕たちにとっては特別な待ち合わせの日。街にとっては、また人が行き交っている普通の今日。同じ一日でも、尺度が違う。東京は巨大だ。

でも歌が見ているのは、その中で二人が会う一日である。街を歩き始めると、視覚だけではなく、かなり身体的になる。

タワレコの脇を抜ければ 明治通り オシャレな服屋を横目で チラり 素通りして
クレープの匂いと 群がる若者達 ヒルズの前で一休み ケヤキ並木の木漏れ日

服屋は、

横目で チラり

見るだけ。そして、

素通り

する。クレープも、食べたとは書いていない。残るのは、

匂い

である。ヒルズの前では、

一休み

する。その上には、

木漏れ日

がある。東京らしい固有名詞をたくさん出しているのに、実際に歌の中へ残るのは、横目。匂い。休む身体。木漏れ日。

そんなものだったりする。

街を全部所有する歌ではない。

歩いている時に身体へ入ってきたものを拾っている。そこで最初のサビ。

表参道 今日もどうか このままで Tokyo Walker 晴れるかな?
幸せは Tokyo Walker どんな時も Tokyo Walkerここにある

今日もどうか このままで

と言う。かなり強い願いだ。変わらないでほしい。今の状態が続いてほしい。

でも、そのすぐ後ろは、

晴れるかな?

疑問形である。少なくとも天気について、先のことは分からない。

一方、次の行では、

幸せは

そして、

ここにある

と、現在だけは言い切る。この先がどうなるかではなく、今ここにある幸福。そこにはかなり自信がある。この、

このままで

は、後半まで覚えておいた方がいい。二番では、地名がただの地名ではなくなる。

青山通りは 別名246 初めてのデートで 僕ら ここを歩いた
いつも君を家まで送った帰り道 寂しさこらえて走った 宮益坂

まず、

別名246

という、妙に案内板っぽい情報が入る。そこへ、

初めてのデート

がくっつく。道路の説明と恋愛の記憶が、同じ一行にある。さらに面白いのは、身体の動きだ。初めてのデートでは、

僕ら ここを歩いた

二人で歩く。でも君を送ったあとの宮益坂は、

寂しさこらえて走った

一人で走る。行きと帰りで、同じ都市の速度が変わる。二人なら歩く。一人になると走る。坂の名前まで、その寂しさとセットで残る。

東京の地図が、少しずつ公共の地図ではなくなっていく。次もそうだ。

骨董通りのスタバでコーヒーを飲み その日撮った写真を 二人で見せ合った
南青山の街並みは とてもオシャレで
僕も出来ることならいつかこんな街に住んでみたいと思った

その日撮った写真を、その日のうちに、二人で見る。まだ今日が終わっていないのに、もう今日を記録として眺めている。街歩きが、その場で思い出になっていく。そして、

いつかこんな街に住んでみたい

未来まで生まれる。歩いた場所が、住みたい場所になる。でも次のサビで、もっと欲しいものが出る。

僕たちは Tokyo Walker 恋をして Tokyo Walker 歩き出す
いつまでも Tokyo Walker 帰りたくない Tokyo Walker 一緒にいたい

街に住みたい、よりも、

帰りたくない

一緒にいたい

なのである。東京に残りたいのか。君のそばに残りたいのか。もう分けにくい。

そして、

恋をして

そのまま、

歩き出す

恋をした結果が、歩くことで表される。この歌では、恋愛と移動がかなり近い。次の三行は、関係の記憶を数字で数えている。

東京タワーで僕らは 二度目の恋に落ち
ハンバーガーショップの前で 初めてキスをした
四季折々のこの街を 僕らは歩き回って 僕にとって もはや東京は 君の存在そのもの

さっきは、

初めてのデート

だった。ここでは、

二度目の恋

そして、

初めてキス

である。初めて。二度目。初めて。数字だけを見ると、かなり細かく記憶を数えている。

ただ、

二度目の恋に落ち

が何を意味するのかは、歌詞だけでは決めない。同じ人へもう一度恋をしたのか。別の意味なのか。関係の履歴をここから作る必要はない。

ただ、この歌では東京の場所だけでなく、初めて。二度目。という回数まで、街の記憶と結びついている。そして決定的なのが、

僕にとって もはや東京は 君の存在そのもの

である。東京は君そのもの。かなり大きなことを言う。でも重要なのは、

僕にとって

だ。東京とはこういう街だ、とは言わない。誰にとっても東京は恋人だ、とも言わない。僕にとって。徹底して個人的な東京である。

だから、渋谷も表参道も宮益坂も、地名でありながら、二人の記憶の索引になっていく。そのあと、急に文章が会話になる。

どう 今日 会おっか これから暇? Tokyo Walker どっか行こう
恵比寿 御茶の水 Tokyo Walker 池袋 Tokyo Walker 六本木

それまでの歌詞は、思い出を語る文章だった。ここでは、

どう 今日 会おっか

これから暇?

どっか行こう

ほとんどそのまま誘い文句である。しかも、

どっか行こう

と言った直後に、恵比寿。御茶の水。池袋。六本木。と候補がどんどん出る。

どっか、なのに具体的。決めていないのに、行ける場所はいくらでもある。東京が巨大だから楽しいというより、「これから暇?」と言えば次の場所へ行けることが楽しい。そんな軽さがある。

そして、この歌のいちばん妙な二行が来る。

いつまでも変わらないものを ひとつ 見つけたなら
それを抱えて とことん変わっていこうじゃない この街と共に

最初のサビでは、

今日もどうか このままで

と言っていた。ここでは、

とことん変わっていこうじゃない

である。どっちなんだ。たぶん、どっちもなのだ。何も変わってほしくない、とは言わない。

変わらないものを、

ひとつ

だけ見つける。

全部ではない。

ひとつ。そして、それ以外は、

とことん

変わる。

変わらないものは、変化を拒むための錨ではない。

むしろ、それを抱えているから変われる。しかも、

この街と共に

である。東京も変わる。自分も変わる。関係も変わるかもしれない。その中で何か一つだけ抱えていく。

では、その「ひとつ」は何なのか。歌詞は言わない。君なのか。二人の記憶なのか。歩くことなのか。

そこは空いたままでいいと思う。そして最後の反復。

Tokyo Walker どんな時も Tokyo Walker いつまでも
Everybody say, Tokyo Walker これからも Tokyo Walker よろしくね

最初は、

Everybody is Tokyo Walker

だった。最後は、

Everybody say, Tokyo Walker

になる。issay になる。最初は、みんなTokyo Walkerだ。という定義だった。

今度は、みんなTokyo Walkerって言おう。という呼びかけになる。誰でもそうだ、から、みんな参加しよう、へ少し動く。そして本当の最後。

いつかまた Tokyo Walker この街で Tokyo Walker 逢いましょう
僕たちは Tokyo Walker これからも Tokyo Walker よろしくね

ここで、

いつかまた

が出る。冒頭は、

いつまでも

だった。ずっと続くはずだった。ところが最後は、また会おう、と言う。つまり、その間に一度離れる時間が入る。いつなのか。

なぜ離れるのか。そんな説明はない。ただ、いつまでも。から、いつかまた。へ変わる。

それでも、

これからも

は残る。そして最後は、再び、

僕たちは

である。途中で Everybody まで広がった歌が、最後にまた僕たちへ戻ってくる。東京は誰にでも開かれている。

でも、この歌の東京はやはり、僕と君が歩いた東京でもある。公共の街と、二人だけの街。この曲は最後まで、その二つを一つにしてしまわない。「Tokyo Walker」は、東京を知り尽くした人の名前ではないのだと思う。今日会う。

どっか行く。歩く。変わる。いつかまた会う。そのたびに街を自分の記憶へ書き換えていく人の名前なのかもしれない。

憧れとして雑誌から集めた東京と、実際に歩いた東京が、一曲の中で混ざっている。地名も地理情報であるだけでなく、本人が自慢する韻の材料になる。さらに聴衆まで一人で演じている。東京という大都市を歌いながら、かなり一人宅録的な世界でもあるところが可笑しい。

制作背景

現在のみゅーは「田舎者の描く憧れの東京像満載みたいな思い出を綴った曲」と説明している。都心でのデート経験がまだ乏しかった頃、雑誌 Tokyo walker を毎月買い、行きたい場所やカフェを集めていたという。音作りではThe Beatles「Ob-La-Di, Ob-La-Da」のような遊びを意識し、部室にあった色々な物まで鳴らした。聴衆の声も含めて「ちなみに全部自分」である。みゅー本人による詳しい制作記録は、NOTES「制作秘話」で読めます。

Mutant Music史から見ると

「Promised Land」も、場所をめぐる歌だった。ただ、あちらの場所は少し不思議だ。

約束の場所は今でも 心の中に

と歌いながら、

今すぐ飛んで行く

とも言う。心の中にある。

でも、そこへ飛んで行く。

かなり抽象的な場所である。「Tokyo Walker」は反対に、新宿。渋谷。明治通り。表参道。

青山通り。宮益坂。と、名前のある場所を足で歩く。一方は約束の場所へ飛ぶ。もう一方は東京を歩く。

どちらも居場所の歌として読めるけれど、片方がもう片方より具体的になって完成した、という話ではない。心の中にしか置けない場所もある。何度も足で歩くことで自分のものになる場所もある。違う方法で、場所と人を結びつけている。「君とcaffe」と並べると、東京の大きさが変わる。

あの曲では、

窓の外に見える街は賑わっていて

街は窓の外にあった。歌の中心は、君の横顔。カプチーノ。角砂糖。二人で座る静かな席だった。

「Tokyo Walker」は、その窓の外へ出る。電車に乗る。交差点を歩く。坂を走る。並木で休む。

同じ都市と君を歌っていても、一方は一席。こちらは街全体。ただ、どちらも東京そのものを褒めたいだけの歌ではない。君と何をしたかによって、都市の意味が変わっている。そして「インスタントライフ」との接続は、現在のみゅー自身が明示している。

あちらには、

ふるさと 遠く離れて 憧れの街にやってきた
誰よりもかけがえのない人を この街で見つけた

がある。それが、この曲の、

僕にとって もはや東京は 君の存在そのもの

へリンクする、と本人が現在説明している。憧れていた街に来た。そこで大切な人を見つけた。すると街そのものが、その人と分けられなくなる。ただし、二曲は同じ2008年1月から3月頃の制作圏にある。

どちらが先だったのかは分からない。だから、「インスタントライフ」で見つけた人が、この曲で東京そのものになった、という制作順にはしない。完成した二曲を並べた時に、その接続が見える。そして「Tokyo Walker」自身も、東京を永遠に固定してはいない。

むしろ、

今日もどうか このままで

と言った人が、

とことん変わっていこうじゃない この街と共に

と言う。さらに、

いつまでも

と言っていた人が、

いつかまた

と言う。

変わらない都市を保存した歌ではない。

変わり続ける街の中で、何なら抱えていけるのか、を考えている。それが何かは最後まで書かれない。でも一つだけ確かなのは、東京はもう単なる憧れの都市ではない、ということだ。雑誌で集めた地名。実際に歩いた道。

初めてのデート。寂しくて走った坂。写真。キス。部室で鳴らした音。

全部が同じ「東京」に入っている。そして最後には、

Everybody say, Tokyo Walker

と、他の人にもその名前を渡す。ただし、誰もが同じ東京を持つ必要はない。歌詞自身が、

僕にとって

と言っている。僕には僕の東京がある。なら、聴く人にはその人の東京があっていい。私的な記憶を抱えたまま、名前だけをみんなで共有する。そのくらいの開き方が、この表題曲にはよく似合っている。

クレジット

作詞
みゅー
作曲
みゅー