君とcaffe
次のバイト。
次のデート。次の記念日。何でもない日。最初は、カフェで働けたらいいな、くらいの妄想だった。
でも君の横顔を見ているうちに、
僕の空想は果てしなく拡がる
本当に果てしなくなっていく。ただし、そこで想像しているのは壮大な人生ではない。コーヒーを飲む。週末を過ごす。顔を見つめる。
何でもない日にも笑っている。ずいぶん小さな未来である。
作品情報
- Track
- 7
- 制作
- 2007年1-3月
- 初出
- 2008年3月17日
- クレジット
- 作詞: みゅー/作曲: みゅー
歌詞
次のバイトはcaffeにしよう
君と一緒に都心のお洒落なcaffe
もしくは君がお客さんで 僕がウェイター
君が学校帰り ふらっと立ち寄って
僕が入れたコーヒーをゆっくり飲む間
君の横顔に見とれてしまう
君があんまり美しいから 時間も仕事も忘れてしまうよ
そして店長さんに 肩を叩かれて我に返るんだ
だから次のバイトはそんなcaffeにしよう
次のデートもcaffeにしよう
君と並んで都会の静かなcaffe
大好きな君と過ごすSunday 憧れた
窓の外に見える街は賑わっていて
一緒に頼んだカプチーノ ゆっくり飲む間
君の横顔はとっても美しい
僕が角砂糖一つ入れるまで 君の笑顔はそれを溶かしてしまうよ
楽しい時間はあっという間に過ぎるんだ
何気ない週末の静かなcaffe
君の横顔は相変わらず美しい
君があんまり美しいから 呼吸も会話も忘れてしまうよ
そして君が僕の顔 覗き込んで我に返るんだ
目の前に君が居る 幸せ
僕の空想は果てしなく拡がる
次の記念日も 何でもない日も いつも笑顔で満ちあふれているよ
僕の心の中は君でいっぱいになるんだ
だから僕は誰より一番 君が好き
君といる時間が何より楽しい
君とcaffe
曲を読む
最初は仕事の話だ。
次のバイトはcaffeにしよう
君と一緒に都心のお洒落なcaffe
もしくは君がお客さんで 僕がウェイター
次のバイト
なので、今の仕事ではない。
これから選ぶ仕事だ。でも職種の中身や給料の話は出てこない。選ぶ理由は、君と同じ場所にいられるかどうか。しかも、一つの妄想で満足しない。
最初は、
君と一緒に
働く。次には、
もしくは
と別案を出す。君がお客さん。僕がウェイター。もう空想の中でシフトまで組み替えている。
どちらにしても必要なのは、君。と、caffe。である。そこで想像する場面も、かなり具体的だ。
君が学校帰り ふらっと立ち寄って
僕が入れたコーヒーをゆっくり飲む間
君は、
ふらっと
来る。
大イベントとして来店するのではない。
学校帰りに、なんとなく寄る。そのくらい日常であってほしい。そして、
ゆっくり飲む間
である。こちらは、その時間をゆっくりにしたい。
ところが、そんな君を見ていると仕事にならない。
君の横顔に見とれてしまう
君があんまり美しいから 時間も仕事も忘れてしまうよ
そして店長さんに 肩を叩かれて我に返るんだ
だから次のバイトはそんなcaffeにしよう
まず、
横顔に見とれてしまう
である。
君が何を考えているかではない。
横顔を見ている。かなり一方的だ。そして忘れるものが、
時間も仕事も
である。時間を忘れる。まあ分かる。仕事まで忘れる。これは困る。
そして本人だけでは戻ってこられず、
店長さんに 肩を叩かれて
ようやく、
我に返る
のである。普通なら、こんな職場では働けない。になるところだ。でも結論は、
だから次のバイトはそんなcaffeにしよう
である。「だから」の使い方がおかしい。君に見とれて仕事にならない。店長にも注意される。だから、そんなカフェで働こう。
反省が、なぜか願望を補強している。そのくらい妄想の方が強い。二番では、
次のバイト
が、
次のデート
へ変わる。
次のデートもcaffeにしよう
君と並んで都会の静かなcaffe
大好きな君と過ごすSunday 憧れた
今度は働かなくていい。客として二人でいる。一番では、
君と一緒に
だった。ここでは、
君と並んで
になる。関係が少し具体的になる。そしてカフェも、
都心のお洒落なcaffe
から、
都会の静かなcaffe
へ変わる。お洒落かどうかより、静かであること。二人で過ごせること。そちらへ少し重点が移る。
しかも、
Sunday
である。
特別な旅行ではない。
週末だ。そのカフェの外には、ちゃんと街がある。
窓の外に見える街は賑わっていて
一緒に頼んだカプチーノ ゆっくり飲む間
外は、
賑わっていて
中では、
ゆっくり飲む
都会の真ん中にいながら、二人の席だけ別の速度で動いている。そしてここでも、
ゆっくり飲む間
が出る。一番のコーヒーも、ゆっくり飲む間。二番のカプチーノも、ゆっくり飲む間。この歌は、かなり時間を延ばしたがっている。その「間」にやることは、やはり横顔を見ることだ。
君の横顔はとっても美しい
僕が角砂糖一つ入れるまで 君の笑顔はそれを溶かしてしまうよ
楽しい時間はあっという間に過ぎるんだ
何気ない週末の静かなcaffe
一度目は、
君の横顔に見とれてしまう
だった。今度は、
君の横顔はとっても美しい
になる。見とれてしまった自分の反応から、美しい、という断言へ変わる。そして、
角砂糖一つ
が出る。かなり小さい。でも君の笑顔には、それを、
溶かしてしまう
力があるらしい。もちろん、笑顔で砂糖は溶けない。かなり甘い誇張だ。しかもその直後に、
楽しい時間はあっという間に過ぎるんだ
と来る。さっきまで、
ゆっくり飲む間
だった。今度は、
あっという間
になる。同じ「間」なのに、ゆっくり。あっという間。である。ゆっくり過ごしたいからこそ、早く終わったように感じる。
カプチーノの時間を伸ばそうとしても、楽しい時間の方は勝手に短くなる。そしてその日を、
何気ない週末
と呼ぶ。これもいい。これほど君に見とれて、角砂糖まで笑顔で溶かしているのに、「何気ない」。本人にとっては大事件でも、望んでいるのは大事件ではないらしい。こんな週末が普通になってほしい。
そのあと、横顔が三度目に現れる。
君の横顔は相変わらず美しい
君があんまり美しいから 呼吸も会話も忘れてしまうよ
そして君が僕の顔 覗き込んで我に返るんだ
目の前に君が居る 幸せ
今度は、
相変わらず
である。最初は見とれた。次は美しいと断言した。そして今度は、相変わらず美しい。少し時間が経っても変わらない。
むしろ、もう見慣れていてもなお美しい。そんな言い方になる。そして忘れるものも変わる。一番では、
時間も仕事も忘れてしまうよ
だった。今度は、
呼吸も会話も忘れてしまうよ
である。時間。仕事。から、呼吸。会話。
へ。だんだん本人の身体に近づいてくる。呼吸まで忘れたらかなり危ない。
でも、それほど見とれている。
そして再び、
我に返るんだ
になる。一回目に我へ戻したのは、店長さん。二回目は、君。である。一度目は現実が仕事だった。
店長に肩を叩かれて、仕事しろ、という世界へ戻る。二度目は君が顔を覗き込む。そして戻ってきた現実は、
目の前に君が居る 幸せ
である。ここが少し面白い。空想から現実へ戻された。でも現実の方にも君がいる。
妄想から覚めたらつまらなくなる、ではない。
我に返ってみたら、目の前に君がいる。その現実が幸せだった。ただ、それでも空想は止まらない。
僕の空想は果てしなく拡がる
次の記念日も 何でもない日も いつも笑顔で満ちあふれているよ
僕の心の中は君でいっぱいになるんだ
だから僕は誰より一番 君が好き
最初は、
次のバイト
だった。次には、
次のデート
そして今度は、
次の記念日
へ行く。「次の」がどんどん先へ進む。
ところが、そのすぐ隣に、
何でもない日
を置く。記念日。何でもない日。両方でいい。
特別な日だけを君で埋めたいのではない。
何でもない日まで、
いつも笑顔で満ちあふれている
ようにしたい。だから、
僕の空想は果てしなく拡がる
と言うわりに、その内容はかなり地味である。バイト。学校帰り。デート。週末。
記念日。何でもない日。果てしなく広がった空想の中身が、生活そのものになっていく。そして、
僕の心の中は君でいっぱいになるんだ
満ちあふれる。いっぱいになる。量の言葉まで増えてくる。その勢いで、
誰より一番 君が好き
と言う。「誰より」だけでもかなり強い。「一番」だけでも十分だ。両方言う。少し言い過ぎである。
でも、この歌は空想も心の中も、いっぱい。
果てしなく。と増やしていく歌なので、この過剰さは似合っている。最後はずいぶん簡単になる。
君といる時間が何より楽しい
君とcaffe
ここまで、お洒落な店。静かな店。Sunday。カプチーノ。角砂糖。
記念日。いろいろ出してきた。でも最後に残るのは、
君といる時間
である。そして題名も、caffe、ではない。
君とcaffe
である。
カフェが好きな歌ではない。
君とカフェにいることが好きな歌だ。いや、最後まで読むと、カフェでなくてもいいような気さえしてくる。記念日でも。何でもない日でも。君といる時間なら楽しい。
そのことを想像するために、たまたま一番都合がよかった舞台が caffe だったのだと思う。深夜バイト中の妄想から始まったのに、実際にカフェを巡った景色まで後から入り込む。どこまでが空想で、どこからが実景なのかを全部仕分けるより、両方が一つの caffe に混ざったと考える方がこの曲には合う。本人が「テーブル挟んでカプチーノなんてロックンロールじゃないよな」という言葉を後から思い出して、自分でセルフツッコミしているのも可笑しい。
制作背景
深夜のアルバイト中に、次はカフェで働こうという空想から始まった曲。二番には実際のカフェ巡りで見た景色も入り、妄想のカフェと現実のカフェが一曲の中で混ざった。音楽面では、本人曰く「当時の僕なりにジャズを咀嚼して解釈したらこんな感じ」で、コード進行へかなりこだわり、ピアノも「めっちゃ練習した」という。みゅー本人による詳しい制作記録は、NOTES「制作秘話」で読めます。
Mutant Music史から見ると
この曲の背景について、現在のみゅーがわざわざ、「『意味のない繰り返し』こと深夜のバイト中」と書いているのは少し気になる。「意味の無い繰り返し」は、以前の vital にも出ていた。
意味の無い繰り返しに 絶望を感じる時
君の笑顔を思い出すんだ
あの曲では、繰り返しへ絶望する時、君の笑顔を思い出す。「君とcaffe」では、その繰り返しの時間そのものが、君とのカフェを妄想する時間になる。ただし、同じアルバイト先だったとか、vital の場面を直接続けて書いたとか、そこまでの資料はない。
現在のみゅー自身が同じ言葉を使っている。そのことだけで十分だ。同じような反復の中で、一方では笑顔を思い出し、もう一方では次のバイト、次のデート、次の記念日まで想像する。退屈な時間は消えない。
でも、その中で頭の中だけはかなり遠くまで行ける。
もう一つ、現在のみゅー自身が後からつないでいるのが、「溶ける」という言葉である。「冬の鼓動」では、
君は子供みたいに 無邪気に笑って 僕を 溶かしていった
と歌った。そして「君とcaffe」では、
僕が角砂糖一つ入れるまで 君の笑顔はそれを溶かしてしまうよ
になる。どちらにも、君。笑顔。溶ける。がある。
でも、同じ出来事ではない。
「冬の鼓動」では、僕自身が溶ける。こちらで溶けるのは角砂糖だ。心や関係の大きな変化に使えそうな言葉が、カップの中の小さな砂糖へ降りてくる。
現在のみゅーはこれを「一連のキーワード」と見ているけれど、制作時から統一的に配置したという記録はない。後から並べると、同じ動詞が違う大きさで使われている。そこが面白い。そして『Tokyo Walker』というアルバムの中に置くと、この曲はかなり生活臭い。都心。
都会。学校帰り。バイト。ウェイター。店長さん。
Sunday。カプチーノ。週末。東京という都市を、大きな象徴として語るのではなく、君と座る一席まで小さくする。窓の外では街が賑わっている。
でも歌が見ているのは、ほとんどずっと君の横顔だ。
街全部を手に入れたいわけではない。
その街のどこかに、君とゆっくりコーヒーを飲める席があればいい。しかも空想は、
果てしなく拡がる
と言いながら、最後に欲しがるものは、記念日。何でもない日。君といる時間。である。
大きな未来を夢見ることと、小さな日常を欲しがることは、反対ではないらしい。むしろこの曲では、空想が果てしなく広がった先にあるのが、何でもない日、なのである。そこが「君とcaffe」のいちばん甘くて、いちばん生活に近いところだと思う。
クレジット
- 作詞
- みゅー
- 作曲
- みゅー