ALLY
宝物を盗んだ怪盗を恨んでいる。ところが、その怪盗が盗んでくれなければ、それが宝物だとは分からなかったとも言う。
だから取り返しに行く。しかも、自分まで怪盗になる。恋敵を相手にした歌なのに、最後に残る言葉は勝利宣言ではない。「Thank you」と「So long」だ。ずいぶん妙な復讐譚である。
作品情報
- 収録作品
- 1st album『真実の口』
- Track
- 3
- 制作
- 2006年2月
- 初出
- 2006年9月4日
- クレジット
- 作詞: みゅー/作曲: みゅー
歌詞
In the midnight, I happened to be woken up by noisy sound.
"Anyone is there?"
It said, "mew, mew, mew."
How careless!
I thought maybe there were only cat.
He is famous phantom thief, ALLY!
No one knows how many treasures he's ever stolen.
ALLY, ALLY, ALLY, ALLY, ALLY.
His name is ALLY.
Next morning, I woke up and found my treasure stolen.
Why did you find my treasure?
There were many many many something expensive to steal from me.
He is good judge phantom thief ALLY!
I don't know why he knows our most important one.
ALLY, ALLY, ALLY, ALLY, ALLY.
Who are you, ALLY?
Hey, ALLY!
Bring me back my treasure.
I couldn't understand its worth till you steal it from me.
Hey, ALLY!
It's you tell me my true treasure.
Now I know what is important for me.
In the evening, I was watching sunset, decided and said, "Hey, Ally! Then it's your turn."
I'm going to steal your treasure this time, revengefully.
I am beginner phantom thief, Mony!
I will get back my treasure from him for sure.
Mony, Mony, Mony, Mony, Mony.
It's me.
Hey, ALLY!
Bring me back my treasure.
I couldn't understand its worth till you stole it from me.
Hey, ALLY!
It's you tell me my true treasure.
Now I know what is important for me.
He is famous phantom thief, ALLY!
No one knows how many treasures he's ever stolen.
He is good judge phantom thief ALLY!
I don't know why he knows our most important one.
Thank you, Ally. Good luck, Ally.
So long, ALLY.
ALLY, ALLY, ALLY, ALLY, ALLY.
ALLY, MY LOVE.
曲を読む
最初に起きるのは、盗難ではない。
聞き間違いである。
In the midnight, I happened to be woken up by noisy sound.
"Anyone is there?"
It said, "mew, mew, mew."
How careless!
I thought maybe there were only cat.
真夜中に物音で目が覚める。誰かいるのか、と尋ねる。返ってきたのは「mew, mew, mew」。それで猫だと思ってしまう。
英語はかなり危うい。でも、何が起きたかは妙にはっきりしている。何かがおかしいことには気づいたのに、その意味を取り違えて眠ってしまった。この歌の主人公は、最初から見抜けていない。翌朝になって、ようやく怪盗の存在が浮かび上がる。
He is famous phantom thief, ALLY!
No one knows how many treasures he's ever stolen.
ALLY, ALLY, ALLY, ALLY, ALLY.
His name is ALLY.
有名なのに、どれだけ宝を盗んだかは誰も知らない。説明が増えるほど人物像が分かるわけでもない。むしろ「ALLY, ALLY, ALLY, ALLY, ALLY」と名前だけが五回も鳴る。何者なのか分からないから、名前だけが大きくなる。そして翌朝。
Next morning, I woke up and found my treasure stolen.
Why did you find my treasure?
There were many many many something expensive to steal from me.
ここで言うのが「なぜ盗んだ」ではなく、Why did you find my treasure?なのがいい。なぜ、それを見つけたんだ。高価なものなら、ほかにいくらでもあったのに。ずいぶん変な抗議である。
でも、この言い方をした瞬間、高価なものと宝物は別だということになる。値段のつくものはたくさんあった。なのにALLYは、その中から「treasure」を見つけて盗んだ。
だから次に出てくる肩書きが、
He is good judge phantom thief ALLY!
になる。
名うての怪盗というだけではない。
目利きの怪盗である。これは悔しい。盗まれたことも悔しいけれど、それ以上に、自分より先に相手の方が宝物の価値を見抜いていたことになる。
I don't know why he knows our most important one.
ここでは、それまで my treasure だったものが our most important one になっている。英作文上の揺れなのか、意図した代名詞の変化なのかは分からない。だから、ここに大きな物語を背負わせる必要はないと思う。ただ、少なくとも歌詞の上では、宝物はすでに「僕だけのもの」としては少しぐらついている。そしてサビで、ようやくこの歌の変な感情が全部出てくる。
Hey, ALLY!
Bring me back my treasure.
I couldn't understand its worth till you steal it from me.
Hey, ALLY!
It's you tell me my true treasure.
Now I know what is important for me.
返せ。
でも、ありがとう。
だいたいそんなことを同時に言っている。盗まれるまで、その価値が分からなかった。ALLYが盗んだから、それが true treasure だと知った。宝物は最初からそこにあったはずなのに、「本当の宝物」になったのは、失う可能性が現れてからなのである。これはけっこう情けない。
自分が何を大切にしているのか、自分一人では分からなかった。恋敵が持っていって初めて分かった。
でも、人間の欲望なんて案外そういうところがある。
なくなると分かった途端、急に輪郭が出る。そして夕方になる。
In the evening, I was watching sunset, decided and said, "Hey, Ally! Then it's your turn."
I'm going to steal your treasure this time, revengefully.
真夜中に盗まれ、朝に気づき、夕方には自分が怪盗になることを決める。一日でずいぶん忙しい。
しかも復讐の方法は、相手を捕まえることではない。
今度はこちらが相手の宝を盗む。同じゲームに参加するのである。そこで新しい怪盗が名乗りを上げる。
I am beginner phantom thief, Mony!
I will get back my treasure from him for sure.
Mony, Mony, Mony, Mony, Mony.
It's me.
ALLYが五回なら、Monyも五回。相手の登場形式を、ほとんどそのまま真似している。ただしALLYは famous であり good judge。こちらは beginner。見習い怪盗である。
何とも頼りない。しかも宝物を取り返すために、自分も盗む側へ回ったせいで、どちらが正しいのかも分からなくなってくる。宝物を一人の人間として読めば、さらに危うい。僕が取り返す。ALLYが奪う。
二人とも、宝物本人がどうしたいのかをあまり聞いていない。怪盗の寓話にしたことで、「欲しい」「取り返したい」という感情はものすごく素直になった。その代わり、人を宝物として取り合う身勝手さも、きれいには隠れなかった。そして、この歌は奪還成功を描かない。最後まで、宝が戻ってきたとは書かれない。
代わりにこう終わる。
Thank you, Ally. Good luck, Ally.
So long, ALLY.
ALLY, ALLY, ALLY, ALLY, ALLY.
ALLY, MY LOVE.
復讐の歌なら、ここは勝敗で終わってもよさそうなものだ。ところが、「ありがとう」。「幸運を」。「じゃあな」。になってしまう。
ALLYは最後まで敵なのに、自分にとって何が大切かを教えてくれた人でもある。倒すべき悪役が、妙な先生みたいになってしまった。だから「So long」が効く。戦いの続きではなく、別れである。
そして最後の、ALLY, MY LOVE.これはやっぱり変だ。ALLY本人を MY LOVE と呼んでいるのか。ALLYという名前の向こうにいる、奪われた「my love」へ言葉が滑っていったのか。歌詞だけでは決められない。たぶん、決めない方が面白い。
敵と恋と宝物が、最後の一行で妙にくっついてしまう。ちなみに ally という英単語には「味方」という意味もある。この名前は実在のあだ名から取られているので、それを狙って付けたという記録はない。それでも物語だけを見ると、ALLYは結果として主人公の味方までしてしまっている。宝を盗み、自分の欲望を教え、最後には感謝されて去っていく。
敵だったはずなのに、いなくなる頃には少し役割が変わっている。そのねじれが、この歌をただの「恋敵をやっつける歌」にしない。
奪い返したい。でも、相手がちゃんと大切にしてくれるのかも気になる。怒りなのか、心配なのか、所有欲なのか、まだ整理されていない。その整理できなさを、怪盗の話にしたところがこの曲の面白さだと思う。
制作背景
日本語がメロディーにうまく乗らず、英語で書いた曲の一つ。モデルになったのは、思いを寄せていた人の交際相手だったが、当時みゅーが知っていたのは「あだ名がアリー」ということくらいだった。そこから恋敵を怪盗ALLYへ変え、自分自身を見習い怪盗Monyとして歌にした。演奏について本人は「情熱に演奏技術が伴わず」「演奏は、デモテープそのまま」と振り返っている。みゅー本人による詳しい制作記録は、NOTES「制作秘話」で読めます。
Mutant Music史から見ると
「ALLY」をあとから面白くするのは、この怪盗が同じアルバムの中で消えていないことだ。「君の名前」でも、同じ三人の関係が別の角度から歌われる。「ALLY」では、恋敵は宝物を盗んだ怪盗だった。こちらも怪盗になって奪い返す、とまで言う。ところが「君の名前」になると、まだ顔も知らないその交際相手について、二人はお似合いなのだと歌っている。
ずいぶん違う。奪い返したい。
でも、二人が幸せならそれでいいとも思う。
どちらかを嘘として処理しなくてもいいのだと思う。同じ時期の中に、その二つが両方あった。だから一曲の中で心境がきれいに変化したのではなく、別々の歌が、別々の本音を引き受けた。そこが面白い。「ALLY」には、さらに「宝物」という言葉が残った。
後の vital でも、「君」は宝物と呼ばれる。「しあわせ」では、笑顔だけでなく涙まで含めた相手のすべてが宝物になる。ただ、これを「宝物という概念が成熟していった」と並べるのは違う気がする。曲ごとに、何を宝物と呼びたかったかが違う。「ALLY」の場合は、とても特殊だ。
自分が宝物だと判断したのではない。
恋敵に盗まれて初めて、Now I know what is important for me.と言う。価値判断を、いったん敵にやってもらっている。それがこの歌の情けなさでもあり、面白さでもある。ALLYは恋敵なのに、目利きである。盗人なのに、価値を教えてくれる。
だから最後には、怒鳴られるのではなく感謝される。自分が何を欲しがっているのか、自分だけでは分からないことがある。誰かに取られそうになって初めて、「あ、これだったのか」と分かることがある。「ALLY」は、そんな少し格好の悪い発見を、正面から告白する代わりに、真夜中の猫と怪盗と見習い怪盗の話にしてしまった。その遠回りのおかげで、嫉妬も、所有欲も、感謝も、別れも、ひとつに整理されない。
怪盗ALLYは宝を盗んだ。
でも、盗んだだけでは終わらなかった。
クレジット
- 作詞
- みゅー
- 作曲
- みゅー