君の名前

「全然そんなことない」。

この歌は、何度もそれを言う。

名前が自分には似合わない。そんなことない。 ギターが自分の実力にはもったいない。そんなことない。 彼氏と釣り合っていない。そんなことない。

君が自分を一段下へ置くたびに、僕が勝手に元へ戻す。かなり明るい歌だ。そして、かなり世話を焼く。

作品情報

Track
8
制作
2006年3月
初出
2006年9月4日
クレジット
作詞: みゅー/作曲: みゅー

歌詞

君に与えられた カワイすぎる名前
そんなズルい 名前 うらやましいな
「私の性格と 適ってないよ」って君は言うけど
全然そんなことない 君は十分 カワイイよ

君が新しく買った カッコ良すぎるギター
そんなかっこいい ギターうらやましいな
「私の実力に 適ってないよ」って君は言うけど
全然そんなことない そんなことは関係ないんだよ

いつも君は 自分に 自信が無いんだなぁ
もっと 自分に 自信を 持っても バチは 当たらないよ

君の その名前を 高らかに唄うんだ
君の そのギターを かき鳴らして
僕がピアノで 伴奏つけてあげる
僕がキレイに ハモってあげるから
ねぇ!

君がある日 食べさしてくれた料理
あれは 肉じゃが だったな うまかったよ
「味の方はあまり保証できないよ」って君は言うけど
全然そんなことない うまかった また作ってね

君が付き合ってる 優しそうな彼氏
そんな優しい 彼氏 敵わないな
「私とは全然 釣り合ってないよ」って君は言うけど
全然そんなことない お似合いさ
きっと まだ見たこと無いけど

やっぱり君は 自分のこと まだ解ってないみたいだな
君が想っている以上に 君は 素敵なんだよ!

君の その存在を 高らかに唄うんだ
誰が 君の悪口を 言おうとも
僕は絶対にそれを許さない
僕が君のこと守ってあげるから
さぁ!

胸を張ってステージに立つんだ
いつも以上に 誰よりも 楽しそうに

君の その名前を 高らかに唄うんだ
君の そのギターを 見せびらかして
僕が最前列で 見守ってあげる
僕が変な踊り 踊ってあげるから
さぁ!
君の その未来を 堂々と唄うんだ
君の その期待を 膨らまして
僕は隣で伴走していたい
僕と一緒にゴール目指さないか!

曲を読む

題名は「君の名前」。

でも、その名前そのものは最後まで書かれない。

君に与えられた カワイすぎる名前
そんなズルい 名前 うらやましいな
「私の性格と 適ってないよ」って君は言うけど
全然そんなことない 君は十分 カワイイよ

まず褒めるのは、君ではなく君の名前だ。しかも「カワイすぎる」。「ズルい」。「うらやましい」。真正面から褒めると照れ臭いからなのか、少しふざけながら褒めている。

ところが君の返事は、

「私の性格と 適ってないよ」

である。名前が嫌いだとは言っていない。その名前に、自分の方が釣り合っていないと思っている。ここから、この歌の変な押し問答が始まる。

君が、自分にはふさわしくない、と言う。僕が、全然そんなことない、と返す。次はギターだ。

君が新しく買った カッコ良すぎるギター
そんなかっこいい ギターうらやましいな
「私の実力に 適ってないよ」って君は言うけど
全然そんなことない そんなことは関係ないんだよ

今度は「性格」ではなく「実力」。いいギターを持つには、それに見合う腕前が必要だと君は思っている。それに対する答えが面白い。

「君は十分うまいよ」ではない。

そんなことは関係ないんだよ

なのである。実力があるかどうかという判定そのものを、どうでもいいことにしてしまう。弾きたいなら弾けばいい。持ちたいなら持てばいい。似合う資格を取ってから好きなものを使う必要なんてない。

そして、二つの会話をまとめるように、

いつも君は 自分に 自信が無いんだなぁ
もっと 自分に 自信を 持っても バチは 当たらないよ

と来る。「自信を持て」ではなく、「バチは 当たらないよ」。ずいぶん変な励まし方である。自信を持つことが、何か悪いことでもするような言い方だ。

でも、たぶんそこまで後ろめたいのだろう。

私なんかが。私には似合わない。私の実力では。そうやって自分を小さくする人に、大きな夢を持てとは言わない。少しくらい自分を褒めても、罰は当たらないよ。

その程度から始める。最初のサビでは、その自信を音にしようとする。

君の その名前を 高らかに唄うんだ
君の そのギターを かき鳴らして
僕がピアノで 伴奏つけてあげる
僕がキレイに ハモってあげるから
ねぇ!

ここでも主役は君だ。歌うのは君の名前。鳴らすのは君のギター。僕はピアノを弾き、ハモる。

ただし、「伴奏つけてあげる」。「ハモってあげる」。やっぱり、ものすごく世話を焼く。君をステージの真ん中へ置きたい。でも、そのステージには自分の役もちゃんと用意してある。

二番では、話が急に肉じゃがになる。

君がある日 食べさしてくれた料理
あれは 肉じゃが だったな うまかったよ
「味の方はあまり保証できないよ」って君は言うけど
全然そんなことない うまかった また作ってね

名前。ギター。肉じゃが。並べると、かなり自由である。でもやっていることは同じだ。

君が自分のしたことを低く見積もる。僕が否定する。ただ、この肉じゃがだけは少し事情が違う。名前やギターについては、こちらが価値を判定していた。肉じゃがは実際に食べている。

だから、「うまかった」。そしてもう一度、「うまかった」。これは強い。実食済みである。

ただし最後は、

また作ってね

なので、褒めながらちゃっかり次回を予約している。こういうところが、この歌を立派すぎる応援歌にしない。そして、その次に彼氏が登場する。

君が付き合ってる 優しそうな彼氏
そんな優しい 彼氏 敵わないな
「私とは全然 釣り合ってないよ」って君は言うけど
全然そんなことない お似合いさ
きっと まだ見たこと無いけど

ここがかなり好きだ。「お似合いさ」。きっぱり言う。そして次の行で、

きっと まだ見たこと無いけど

会ったことがない。それなら何を根拠に「お似合いさ」と言っているのか。分からない。

でも、この歌ではそれでいいらしい。

ここまで来ると、僕がやっているのは客観的な人物評価ではないことがよく分かる。君が、私なんか、と言ったら、全然そんなことない、と返す。それが先に決まっている。証拠はあとでいい。なくてもいい。

だからとうとう、

やっぱり君は 自分のこと まだ解ってないみたいだな
君が想っている以上に 君は 素敵なんだよ!

と言ってしまう。ずいぶん大きく出た。君より僕の方が、君のことを分かっている。少なくとも、この瞬間の僕は本気でそう思っている。もちろん、これは危うい。

自分のことは本人が一番よく知っている、という考え方だってある。でも、自信をなくしているときには、自分だけでは見えなくなるものもある。だから誰かに、いや、そんなことないよ、と言われることが、実際に救いになる場合もある。この歌は、その二つをあまり区別しない。余計なお世話と、必要な励まし。

どちらも同じ「全然そんなことない」から出てくる。次のサビでは、名前やギターではなく、ついに「存在」を歌い始める。

君の その存在を 高らかに唄うんだ
誰が 君の悪口を 言おうとも
僕は絶対にそれを許さない
僕が君のこと守ってあげるから
さぁ!

「守ってあげる」。また「あげる」である。とにかく役に立ちたい。伴奏もする。ハモる。

守る。そして、そのすぐあとに、

胸を張ってステージに立つんだ
いつも以上に 誰よりも 楽しそうに

と君をステージへ送り出す。ここで「上手に」ではないのがいい。「楽しそうに」。最初に君が気にしていたのは、自分の実力にこんなギターはふさわしくない、ということだった。

それに対する答えは、最終的にも演奏技術ではない。

胸を張って。楽しそうに。それでいい。最後のサビになると、僕の位置がまた変わる。

君の その名前を 高らかに唄うんだ
君の そのギターを 見せびらかして
僕が最前列で 見守ってあげる
僕が変な踊り 踊ってあげるから
さぁ!

最初は一緒に演奏していた。今度は最前列にいる。

ステージから降りたのではない。

最初から客席にいたわけでもない。君が主役になる場所に合わせて、自分の居場所をころころ変えている。ピアノが必要ならピアノを弾く。ハモりが必要ならハモる。客席が必要なら最前列へ行く。

しかも「変な踊り」まで踊る。かなり忙しい。そして最後。

君の その未来を 堂々と唄うんだ
君の その期待を 膨らまして
僕は隣で伴走していたい
僕と一緒にゴール目指さないか!

ここだけ少し言い方が変わる。それまでは、「してあげる」。だった。伴奏してあげる。ハモってあげる。

守ってあげる。見守ってあげる。踊ってあげる。ところが最後は、

僕は隣で伴走していたい

である。

「してあげる」ではない。

「していたい」。君のために何かをしてあげる、という形から、自分が隣にいたい、という自分の願いが出てくる。そして「伴奏」が「伴走」になる。音の遊びから出てきた言葉なのかもしれない。

でも、歌詞として置かれた以上、隣で走る、という位置ができる。前から引っ張るでもない。後ろから守るでもない。隣。ただし、そこで終わらない。

僕と一緒にゴール目指さないか!

と言ってしまう。君の未来を応援していたはずが、その未来へ自分も参加したくなる。まあ、これは告白だと思われても仕方がない。でも、そこまで一直線に告白するつもりだったのかどうかは、歌詞だけでは分からない。この歌はずっとそうだ。

君を肯定したい。君を輝かせたい。君を守りたい。君の隣にいたい。似ているけれど、全部少しずつ違う。

その違いを整理しないまま、「全然そんなことない」で押し切っていく。そして題名は「君の名前」なのに、その名前だけは書かない。名前を高らかに歌う歌なのに、聴いているこちらには聞かせない。中心にいる一人だけが、最後まで歌の外に名前を残している。それも、この歌にはよく似合っている。

現在のみゅーは、相手を守り輝かせる自分という筋書きを「ヒーロースクリプト」と呼べるかもしれないと考えている。ただし当時からそんな整理があったわけではない。最後のゴールも、もともとは「伴奏」から「伴走」へ音が転がって生まれた言葉だった。それが周囲には告白に聞こえ、本人の感情とも区別しにくくなっていく。その落ち着かなさを残したい。

制作背景

「名前というのは尊いものだ」という感覚から、身近な同級生の名前と、その人が新しく買ったギターを重ねて書いた曲。本人曰く「ベタベタな展開」で、「これでもかってくらい、褒め称える」。この人物をめぐる曲が次々できた時期を、現在のみゅーは「確変突入状態」「完全に創作に火がついた状態」と振り返っている。みゅー本人による詳しい制作記録は、NOTES「制作秘話」で読めます。

Mutant Music史から見ると

「君の名前」のすぐ近くには、「ALLY」がある。同じ人物をめぐる歌であり、「君の名前」に出てくる彼氏は、ALLYと同じ人物として現在のセルフライナーに記録されている。

ところが、二曲で言っていることはかなり違う。

「ALLY」では、恋敵を怪盗にした。宝物を奪われた。だから自分も怪盗になって取り返す、とまで歌った。「君の名前」では、その同じ相手について、

「私とは全然 釣り合ってないよ」って君は言うけど
全然そんなことない お似合いさ
きっと まだ見たこと無いけど

と言う。奪い返したい。お似合いだ。この二つを、きれいな心境の変化にしなくていいと思う。人はそんなに順番よく感情を整理しない。

恋敵は嫌だ。でも君には自信を持ってほしい。君が選んだ相手なら、それも肯定したい。でも自分も君の隣にはいたい。全部あっていい。

むしろ「君の名前」は、何でも肯定するというルールを自分に課したせいで、嫉妬まで一緒に飲み込んでしまった歌にも見える。その矛盾を明るい言葉で押し切る。だから、「まだ見たこと無いけど」が妙に可笑しい。

もう一つ、ずっと後の「新しい命」では、名前がまったく違う位置に現れる。そこでは、生まれてくる子どもの名前を考える。秋にちなんだ名前をいろいろ考える。でも決まらない。

そして、

だけど結局 決まらなくて 名前はなくとも 生まれておいで

と歌う。「君の名前」は、すでに与えられた名前をものすごく大切なものとして扱った。その名前がかわいい。その名前を堂々と歌え。そこまで言う。

「新しい命」では、まだ名前がなくてもいい。とにかく生まれておいで、と言う。これは「名前なんて重要ではなかった」という訂正ではない。場面が違うのだ。すでに生きて、自分の名前を「私には似合わない」と言う人には、その名前ごと自分を肯定してほしい。

まだ生まれていない人には、名前が決まるより先に、存在してくれればいい。同じ「名前」が、別の状況ではまったく違う役をする。だから作品史を通じて一つの答えが完成した、というより、名前について考えるたびに別の面が出てきた、と考える方が面白い。そして「君の名前」には、この曲だけのやりすぎがある。褒める。

また褒める。全部否定して返す。ピアノも弾く。ハモる。守る。

最前列まで行く。変な踊りまで踊る。最後には隣を走りたいと言う。君に自信を持ってほしいだけのはずなのに、気づけば自分もずいぶん忙しい。そこまでやってしまうところまで含めて、「君の名前」なのだと思う。

クレジット

作詞
みゅー
作曲
みゅー