Beauty is Truth
一秒でも長生きしたい。
だからタバコをやめる。……とは言わない。夜更かしもカップ麺も、
少しだけ
減らす。題名は「Beauty is Truth」。ずいぶん大きい。でも、この歌が実際にやっていることは、わりと小さい。少し健康になる。
少し優しくなる。少し自分を好きになる。そのうち話が大きくなって、「ありのまま」が美しいと言い始める。ところが最後には、「君だけは、そのまま今のままでいて」。少し怪しくなってくる。
作品情報
- 収録作品
- 2nd album『約束の場所』
- Track
- 4
- 制作
- 2006年9月
- 初出
- 2007年4月4日
- クレジット
- 作詞: みゅー/作曲: みゅー
歌詞
君と出会ってから 一秒でも長生きしたいんだ
だから タバコも 夜更かしも カップ麺も 少しだけ 数を減らして
規則正しい生活を 心懸けてみる
君が側にいると なんかほのぼのしちゃうんだ
だから イライラも 忙しさも しかめ面も 少しだけ 微笑みに変わって
今日も 無事生きていることに 感謝を告げてみる
ねぇ ありがと 僕は君といると こんなにも 優しい気持ちになって
ありのままで 胸を張って 自信を持って こんなにも まっさらで 新しい自分
十代の煩悩も 愛していく
君を見ていると 君は誰よりも美しいと思うんだ
それは 化粧でも おめかしでも ブランドもんでも 成し得ない 「飾らぬ美しさ」
僕だけに 飾らずに生きる 術を教えて
ねぇ How beautiful you are! Kiss me. そう 今夜は 君だけ誘って 夢の世界へ行って
自分を飾り立て 虚栄で生きることの無意味さを 思い知るんだ 準備万端かい?
目を閉じて 息を止めて 落ちていく
枯れゆく運命でも 承知の上だよ
焦らないで 気張らないで 受け止めてみる
ねぇ 周りの友達は変わっても 君だけは そのまま 今のままでいて
きっと この気持ちは恋とは違っても 君にだけは ありのまま 全てさらけ出して
Truth is beauty. 僕は君といると こんなにも 優しい気持ちになれる
すっぴんも普段着も 愛していく
わがままな本性も 愛してる
愛してる
曲を読む
最初に変わるのは、恋愛関係ではない。
生活習慣である。
君と出会ってから 一秒でも長生きしたいんだ
だから タバコも 夜更かしも カップ麺も 少しだけ 数を減らして
規則正しい生活を 心懸けてみる
「一秒でも長生きしたい」。かなり大きなことを言う。
でも、そのためにやるのは、
少しだけ 数を減らして
である。
全部やめるわけではない。
タバコも。夜更かしも。カップ麺も。少しだけ。
さらに、
心懸けてみる
である。規則正しい生活をする。
ではない。
心懸けてみる。試しにやってみる。この弱さがいい。君と出会ったから生まれ変わりました、という話ではない。今までの自分をかなり残したまま、ちょっとだけ長生きする方向へ寄せてみる。
二番目の変化も、同じくらい小さい。
君が側にいると なんかほのぼのしちゃうんだ
だから イライラも 忙しさも しかめ面も 少しだけ 微笑みに変わって
今日も 無事生きていることに 感謝を告げてみる
また、
少しだけ
である。
イライラがなくなったわけではない。
忙しくなくなったわけでもない。しかめ面が全部笑顔になったわけでもない。少しだけ微笑みに変わる。そしてここでも、
感謝を告げてみる
と言う。やっぱり「みる」。心懸けてみる。感謝を告げてみる。この歌の人は、何かを完全に達成するというより、ちょっと試している。
しかも、
今日も 無事生きていること
に感謝する。最初は、一秒でも長生きしたい。今度は、今日も無事生きている。大きな未来ではなく、一秒と今日で生命を数えている。そのくらいのところから、この歌の「美」が始まる。
そして、君への感謝が、自分自身の見え方まで変える。
ねぇ ありがと 僕は君といると こんなにも 優しい気持ちになって
ありのままで 胸を張って 自信を持って こんなにも まっさらで 新しい自分
十代の煩悩も 愛していく
ここが少し変だ。
ありのままで
なのに、
まっさらで 新しい自分
なのである。ありのままなら、前と同じ自分ではないのか。新しいなら、何か変わったのではないか。
でも、その直後には、
十代の煩悩も 愛していく
とある。昔の自分を捨てて新品になるわけではないらしい。煩悩まで持っていく。過去を洗い落としたから「まっさら」なのではなく、過去ごと自分だと思えるようになったことが新しい。そんなふうにも読める。
「ありのまま」は、何も変わらないことではない。
自分への見方が変わることで、同じ自分が少し新しく見える。ここでは、まだそういう言葉である。
次に、その「ありのまま」が君へ移る。
君を見ていると 君は誰よりも美しいと思うんだ
それは 化粧でも おめかしでも ブランドもんでも 成し得ない 「飾らぬ美しさ」
僕だけに 飾らずに生きる 術を教えて
「誰よりも美しい」。かなり大きく出た。でも、
君を見ていると
なので、世界美人ランキングの話ではない。
僕が君を見ると、そう思う。そこはかなり私的だ。そして美しさの中身を、
「飾らぬ美しさ」
と呼ぶ。化粧。おめかし。ブランドもん。そういうものでは作れない。
飾らないことに、美を見ている。ただ、ここから話が少し面白くなる。
僕だけに
なのである。飾らずに生きる術を、みんなに教えて、ではない。僕だけに教えて。美について普遍的なことを言っているようで、願っているのはかなり私的な特権である。君の自然な姿に触れたい。
しかも、それによって自分も変わりたい。君の美しさは、君だけのものではなく、僕を生きやすくする方法にもなっている。感謝でもある。かなり勝手でもある。そして急に英語になる。
ねぇ How beautiful you are! Kiss me. そう 今夜は 君だけ誘って 夢の世界へ行って
自分を飾り立て 虚栄で生きることの無意味さを 思い知るんだ 準備万端かい?
目を閉じて 息を止めて 落ちていく
さっきは、
僕だけに
だった。今度は、
君だけ誘って
になる。「だけ」が、少しずつ二人の外側へ線を引いていく。そして、Kiss me.である。さっきまで健康的な生活について話していたのに、ずいぶん近くなった。「夢の世界」。
「目を閉じて」。「息を止めて」。「落ちていく」。何に落ちるのかは書かれていない。恋。
夢。キス。眠り。どれか一つに固定しなくてもいいと思う。
ただ、
自分を飾り立て 虚栄で生きることの無意味さを 思い知るんだ
と、ここだけ妙に説教くさい。飾らない美しさを教えてほしい、と言っていた人が、今度は虚栄の無意味さまで言い切る。しかも直後に、
準備万端かい?
と君へ尋ねる。何の準備なのか。かなり分からない。大きな美学と、恋に浮かれた「Kiss me.」が同じ連に入っている。それくらいでいいのだと思う。
そして、一度熱を下げる。
枯れゆく運命でも 承知の上だよ
焦らないで 気張らないで 受け止めてみる
何が枯れるのかは書かれない。恋なのか。美しさなのか。生命なのか。関係なのか。
分からない。でも、
承知の上だよ
と言う。永遠だとは言わない。しかも、「焦らないで」。「気張らないで」。
そしてまた、
受け止めてみる
である。心懸けてみる。感謝を告げてみる。受け止めてみる。この歌は、大きなことを言うわりに、実際の動詞はずっと仮運転だ。
完全にはできない。でもやってみる。ところが、そのすぐあとに、さっきの「枯れゆく運命」とかなり喧嘩する言葉が出てくる。
ねぇ 周りの友達は変わっても 君だけは そのまま 今のままでいて
きっと この気持ちは恋とは違っても 君にだけは ありのまま 全てさらけ出して
周りは変わってもいい。でも、
君だけは
変わらないでほしい。さっきの「だけ」がまた出てくる。僕だけに。君だけ誘って。君だけは。
そして、
君にだけは
まで来る。二人だけの関係を作りたい気持ちが、どんどん強くなる。それと同時に、「まま」も増える。
そのまま 今のままでいて
さらに、
ありのまま 全てさらけ出して
ありのまま。そのまま。今のまま。ありのまま。最初の「ありのまま」は、自分が胸を張れる状態だった。
ここでの「ありのまま」は、君との間で全部をさらけ出すことになる。でも、「ありのまま」と、「今のままでいて」は、似ているようで少し違う。ありのままは、隠さないこと。今のままでいて、は変わらないことを願う。
自然でいてほしい、という願いが、変わらないでほしい、へ少しずつ滑っている。飾らない君が好きだ。だから、ずっとその君でいてほしい。気持ちは分かる。でも、それはもう「君がどう変わってもいい」という話ではない。
自然体を愛することと、現在の相手を保存したいことが、同じ「まま」に入ってしまっている。その矛盾を残したまま、最後へ行く。
Truth is beauty. 僕は君といると こんなにも 優しい気持ちになれる
すっぴんも普段着も 愛していく
わがままな本性も 愛してる
愛してる
題名は、Beauty is Truth。最後は、Truth is beauty.順番が逆になる。美しいものが真実だ。真実が美しい。ぐるりと反対側から同じ二語を結ぶ。
でも、歌の最後に出てくる「真実」は、急に生活臭い。すっぴん。普段着。わがままな本性。大きな英語の命題から、ずいぶん近いところまで降りてくる。
そして、ここでも「も」が大事だ。
十代の煩悩も 愛していく
と、自分について歌っていた。最後には、
すっぴんも普段着も 愛していく
わがままな本性も 愛してる
になる。最初は自分の煩悩。最後は君のすっぴん、普段着、本性。「も」で、愛する範囲を広げていく。
しかも、「愛していく」。から、「愛してる」。になる。これから愛していく、という意志と、もう愛している、という現在。
最後にはさらに、
愛してる
もう一度言う。ここまで来ると、
この気持ちは恋とは違っても
は何だったのだろう、と思う。恋とは違う。Kiss me.君だけ。愛してる。かなり忙しい。
でも、この歌は最初からそんなふうである。
少しだけ健康になる。ありのままの自分を好きになる。飾らない君を美しいと思う。虚栄は無意味だと言う。枯れていくことも受け止める。
でも君だけは変わらないでほしい。全部さらけ出したい。愛してる。一つのきれいな美学へまとめるには、言っていることが多すぎる。
だから、Beauty is Truth をこの曲の答えとして読むより、本当に「ありのまま」を愛するとはどういうことなのか、本人も歌いながら試している曲として聞く方が面白い。
「飾らないことが美しい」と決めると、今度は何を飾りと呼ぶのか、誰がそれを決めるのかという別の問題が出てくる。「Maricha」への完全な答えというより、同じ問題を別の形で抱え直した歌なのだと思う。大きな美学を掲げながら、本人がライブでは替え歌にして遊んでいたという軽さも、この曲には似合っている。
制作背景
題名は、みゅーがジョン・キーツの言葉として参照した Beauty is truth, truth beauty. から取ったという。「Maricha」で変わっていく人を嘆いた後、今度は飾らないことこそ美しいのではないかと考えて書いた。音楽面では本人曰く「3拍子の曲って書くの難しいのよ!」で、「ちょっとゆずっぽい」。間奏では、歌詞上は落下する場面に対してコード進行は上昇するように作ったと説明している。みゅー本人による詳しい制作記録は、NOTES「制作秘話」で読めます。
Mutant Music史から見ると
「Beauty is Truth」については、まず「Maricha」との関係を外せない。これは後から批評側が似ている言葉を探してきた、というだけではない。
現在のみゅー自身が、「Maricha」で飾り立てられ変わっていく美を嘆いたあと、真の美しさとは飾らないことではないか、と考えた曲として説明している。「Maricha」では、変わってしまった。以前の君が見つからない。という方向へ進んだ。
「Beauty is Truth」では、飾らなくていい。すっぴんも普段着も、本性も愛したい。と別の方向へ進む。一見すると、答えを見つけたように見える。
でも、実際の歌詞はそこで終わらない。
君だけは そのまま 今のままでいて
と言っている。ここにまだ「変わってほしくない」が残っている。だから二曲を、外見に惑わされていた昔。内面の美を理解した今。という成長物語にはしない方がいい。
「Maricha」では、相手の変化を外から見て困った。「Beauty is Truth」では、飾らない相手を愛そうとして、今度はその「飾らない姿」を保存したくなった。困り方が変わった。それくらいなのかもしれない。
そして現在のみゅーは、2nd album『約束の場所』を振り返ると、「生命(ライフ)」というもう一つの流れもあったように思う、と書いている。
これは制作時から決めていた裏テーマではない。
後からアルバムを眺めたときに見えてきたものだ。その目で「Beauty is Truth」を見ると、確かに生命の言葉はかなり多い。
一秒でも長生きしたいんだ
から始まる。
今日も 無事生きていることに 感謝を告げてみる
と続く。そして途中には、
枯れゆく運命でも 承知の上だよ
がある。美について歌っているのに、長生きすること。今日生きていること。枯れていくこと。がずっと近くにある。
美しいから所有したい、だけではない。
君と出会ったことで、もう少し長く生きたい。もう少し機嫌よく暮らしたい。自分の昔の煩悩も少し愛してみたい。そういう生活の変化へ降りてくる。それが、この曲の大きな題名をかなり救っている。
Beauty is Truth。Truth is beauty.だけを抜き出せば、ずいぶん立派である。でも実際の歌には、タバコ。夜更かし。カップ麺。
すっぴん。普段着。わがまま。がいる。真理と美について大きなことを言いながら、最後まで生活臭が抜けない。
しかも本人は知人の名前を入れて替え歌までしている。そのくらいの距離にある「真実」の方が、この曲には似合っている。飾らないことが本当に正しいのか。今のままでいてほしいと願うことは、相手をありのまま愛することなのか。そこまでの答えは出ない。
ただ、少しだけ長生きしてみる。少しだけ微笑んでみる。受け止めてみる。そして愛していく。その「少しだけ」と「みる」の方に、この曲の本当の手触りがある気がする。
クレジット
- 作詞
- みゅー
- 作曲
- みゅー