ブリブリブルース
呼び出される。
走って会いに行く。振られる。数時間の出来事だけなら、それで終わる。
でも、この曲の頭の中では、土砂降り。
思わせぶり。掟破り。空振り。ゴキブリ。monkey。
猿芝居。と、関係ない言葉まで次々に走ってくる。ものすごく悲しいはずなのに、悲しみより先に韻が出る。本人が後から「自分のセンスを疑う」と書いたのも、まあ分かる。
作品情報
- Track
- 3
- 制作
- 2007年12月-2008年1月
- 初出
- 2008年3月17日
- クレジット
- 作詞: みゅー/作曲: みゅー
歌詞
(今日も土砂降り 思わせぶり 掟破り 今日も空振り)
然る後 手に入れた宝物は まにまに let it go
光る watch かさむ money ただのmonkeyさ
バイバイ 猿芝居
(しばらくぶり 嫌だゴキブリ 今日も土砂降り)
ギリギリの滑り込み サラサラのいい香り 髪
死せる心で 「無理!無理!」 敗れた Baby
(寒ぃー)Oh yeah! 高鳴る胸を抑え 走ってくんだぜ
(眠ぃー)Oh No! 今更 言えることはあるのか?
(ダーリン)Oh yeah! 今 君に 逢いに行くよ
そう遠くないな 未来 揺るぎない 決意
(今日も土砂降り 思わせぶり 掟破り 今日も空振り)
しゃべるモンチー 日が暮れて 黙るモンチー so many many ladies gone
怒る beauty 焦る もうにー だからどうした?
もり もり 去るつもり
(しばらくぶり 嫌だゴキブリ 今日も空振り)
キリキリと胃 差し込み ガラガラと崩れ去り
死せる身体で 「無理!無理!」 壊れた Baby
(寒ぃー)Oh yeah! 母なる海を想え! 超えてくんだぜ
(だりー)Oh No! 暇だから 見えるものもあるのか?
(ダーリン)Oh yeah! 控え気味に 逢いに行くよ
そっと流す涙 片方の決意
(だりー)Oh yeah! 重なる夢に悶え 発射したっていいんだぜ
(寒ぃー)Oh No! 今更 恥じることがあるのか?
(ダーリン)Oh yeah! 今 君は あいにくNo
そう遠くないな 未来 底のない 涙
揺るぎない決意 頑なな決意
(今日も土砂降り 思わせぶり 掟破り 今日も空振り しばらくぶり)
今日も土砂降り
曲を読む
第一声から、話をする気があまりない。
(今日も土砂降り 思わせぶり 掟破り 今日も空振り)
土砂降り。思わせぶり。掟破り。空振り。意味の種類は全部違う。
天気。態度。規則。失敗。
でも、音はよく似ている。
何が起きたかを順番に説明する前に、「〜ぶり」「〜破り」「〜振り」の響きが、次の言葉を連れてくる。しかも、
今日も
が二度入る。今日だけの大事件なのに、すでに「またこれか」という感じまである。失恋の実況というより、頭の中で韻が回り始めたところから歌が始まる。次の四行も、ずいぶん落ち着かない。
然る後 手に入れた宝物は まにまに let it go
光る watch かさむ money ただのmonkeyさ
バイバイ 猿芝居
「然る後」。「まにまに」。少し古めかしい日本語が来たかと思えば、let it gowatchmoneymonkeyである。最後は、
猿芝居
へ着地する。monkey がそのまま猿へ変わる。「宝物」と言っていたものも、いつの間にか自分の芝居ごと茶化されている。この歌では、格好をつけようとすると、すぐ別の言葉がその格好よさを壊しに来る。悲劇の主人公でいさせてくれない。
続く括弧も、同じように音で増殖する。
(しばらくぶり 嫌だゴキブリ 今日も土砂降り)
ギリギリの滑り込み サラサラのいい香り 髪
死せる心で 「無理!無理!」 敗れた Baby
「しばらくぶり」。「ゴキブリ」。また「ぶり」が来る。題名の「ブリブリ」が何を意味するのか、現在の資料には説明がない。だから由来は決めない。
ただ、歌の中に「思わせぶり」「しばらくぶり」「ゴキブリ」と、やたら「ぶり」の音が出てくることだけは確かだ。耳で聴けば、題名まで同じ音の渦に巻き込まれる。そして、
ギリギリの滑り込み サラサラのいい香り 髪
も、文章としては妙だ。「サラサラの髪」。「いい香り」。なら普通に言える。
でも正本は、
サラサラのいい香り 髪
である。「髪」が最後にぽんと置かれる。頭が整理される前に、目や鼻へ入ったものを、その順に吐き出しているようでもある。その直後には、
死せる心
なのに、
「無理!無理!」
と言う。死んでいるはずの心が、かなりうるさい。そして、いよいよ会いに行く。
(寒ぃー)Oh yeah! 高鳴る胸を抑え 走ってくんだぜ
(眠ぃー)Oh No! 今更 言えることはあるのか?
(ダーリン)Oh yeah! 今 君に 逢いに行くよ
表面は、Oh yeah!である。でも括弧の中では、
寒ぃー
眠ぃー
と言っている。ぜんぜん格好よくない。高鳴る胸。走ってくんだぜ。ダーリン。
という大仰な恋愛の言葉の横で、寒い。眠い。という身体がずっと文句を言っている。しかも、
今 君に 逢いに行くよ
と勢いよく走りながら、その直前には、
今更 言えることはあるのか?
と自分で聞いている。会いに行く。でも何を言うのか分からない。身体だけが先に走っている。
そこで急に、
そう遠くないな 未来 揺るぎない 決意
と言う。「未来」。「決意」。大きな言葉だ。
しかも、
揺るぎない
かなり強い。少し前まで「寒ぃー」「眠ぃー」と言っていた人が、急に未来へ確信を持つ。この落差も大きい。ところが二巡目に入ると、その確信の周りからまた言葉が崩れていく。
(今日も土砂降り 思わせぶり 掟破り 今日も空振り)
しゃべるモンチー 日が暮れて 黙るモンチー so many many ladies gone
怒る beauty 焦る もうにー だからどうした?
もり もり 去るつもり
ここは、さらに意味が追いつかない。しゃべる。黙る。怒る。焦る。
去る。動詞だけはどんどん動く。日本語と英語も混ざる。最後の、
もり もり 去るつもり
が何を指しているのかも、今回の資料からは分からない。分からないままの方がいいと思う。きれいな物語を作るための言葉というより、頭の中で音が次の音へ飛び移っている。その速度自体が、この場面の混乱に合っている。
現在のみゅーによれば、「しゃべるモンチー」はチャットモンチー、「もうにー」は自分のことだという。ただ、それを知っても歌が急に論理的になるわけではない。むしろ、現実の名前まで音遊びの中へ巻き込まれていることが分かるくらいだ。そして、一巡目の身体描写が、二巡目では壊れる。
(しばらくぶり 嫌だゴキブリ 今日も空振り)
キリキリと胃 差し込み ガラガラと崩れ去り
死せる身体で 「無理!無理!」 壊れた Baby
一巡目は、
ギリギリ
サラサラ
だった。二巡目では、
キリキリ
ガラガラ
になる。ほんの少し音が変わっただけで、滑り込みと髪の感触が、胃痛と崩壊へ変わる。ギリギリ が キリキリ。サラサラ が ガラガラ。意味が壊れていくのと一緒に、音まで少しずつ濁っていく。
さらに、
死せる心
だったものが、
死せる身体
になる。
敗れた Baby
は、
壊れた Baby
になる。最初は心の問題だった。今度は身体まで来た。失恋の説明をする代わりに、胃が痛くなり、身体が壊れる。かなり直接的だ。
それでも、まだ会いに行こうとする。
(寒ぃー)Oh yeah! 母なる海を想え! 超えてくんだぜ
(だりー)Oh No! 暇だから 見えるものもあるのか?
(ダーリン)Oh yeah! 控え気味に 逢いに行くよ
最初は、
今 君に 逢いに行くよ
だった。今度は、
控え気味に 逢いに行くよ
になる。「行かない」にはならない。行く。でも、控え気味。決意はあるのに、勢いだけ少し小さくなる。
この「控え気味に逢いに行く」という言い方も妙だ。歩く速度を控えるのか。気持ちを控えるのか。期待を控えるのか。よく分からない。
ただ、最初の Oh yeah! より腰が引けていることだけは分かる。そして、たった一行。
そっと流す涙 片方の決意
ここだけ急に静かになる。あれほど言葉が騒いでいたのに、
そっと
である。そして、
片方の決意
「誰の決意か」「もう一方には何があったのか」は書かれない。ただ、二人の決意が同じ方向へ重なっているなら、わざわざ「片方」とは言わないだろう。少なくとも、ここで一つだった未来が二つに割れて見える。
さっきまでの、
揺るぎない 決意
が強ければ強いほど、片方だけだった、という一語が痛い。それでも、歌はしんみり終わらない。
(だりー)Oh yeah! 重なる夢に悶え 発射したっていいんだぜ
(寒ぃー)Oh No! 今更 恥じることがあるのか?
(ダーリン)Oh yeah! 今 君は あいにくNo
悲しみの中へ、今度は露骨な身体の欲望まで入ってくる。しかも、
今更 恥じることがあるのか?
と自分で開き直る。格好悪い。恥ずかしい。欲望もある。全部入れる。
そして三度目の「ダーリン」は、
今 君は あいにくNo
で終わる。ここは音も残酷だ。最初は、
今 君に 逢いに行くよ
だった。「逢いに」。最後は、
あいにくNo
になる。「あいに」という音が、会いに行く、から、あいにく、へひっくり返る。会いに行った先にあったのが、No。かなりきれいに落ちてしまう。しかも「あいにく」は、重大な拒絶に使うには妙に軽い。
本日はあいにく。都合が悪くて。くらいの温度がある。その軽い言い方の直後で、
そう遠くないな 未来 底のない 涙
揺るぎない決意 頑なな決意
になる。「未来」はまだ、
そう遠くないな
と言っている。拒絶されたのに、未来そのものを撤回していない。代わりに、
底のない 涙
が加わる。そして、
揺るぎない決意
は、
頑なな決意
と言い直される。どちらも、動かない意志を表す。でも温度は違う。「揺るぎない」なら、強さに聞こえる。「頑なな」になると、状況が変わっているのに動けない硬さにも聞こえる。
同じ決意が、美徳から執着へ少し傾く。歌が本人を格好よく終わらせてくれない。最後には、冒頭の音列がもう一度戻る。
(今日も土砂降り 思わせぶり 掟破り 今日も空振り しばらくぶり)
最初より、
しばらくぶり
が一つ増えている。そして本当に最後に残るのは、
今日も土砂降り
だけ。猿も。monkeyも。ゴキブリも。
Oh yeah!も。決意も。全部鳴り終わって、土砂降りだけが残る。悲しみを韻と駄洒落で散々壊したのに、悲しくなくなったわけではない。
だから、この歌の笑いを「悲しみを乗り越えたユーモア」とまで言う必要はないと思う。笑っている。ふざけている。でも土砂降り。全部同時にある。
題名は「ブリブリブルース」。「ブリブリ」の由来は分からない。そして「ブルース」と付いている一方、現在のみゅーはアレンジを、グランジとグラムロックを「煎じて僕なりに解釈した感じ」と振り返っている。悲しいからブルース。そんな単純な話でもなさそうだ。
ただ、意味を整えず、格好悪さまで音にして残す。そのやり方なら、この妙な題名はよく似合っている。
悲しい出来事を後から笑い話へ加工したのではなく、まだ頭がぐちゃぐちゃな時点ですでにこの言葉の調子が出てきたらしい。笑いへ変えようと計画したのでもない。ただ悲しいのに、なぜかこういう言葉が出た。後から見ても本人に少し理解できない、そのずれを残しておきたい。
制作背景
現在のみゅーは、この曲を「呼び出されてから振られるまでの数時間を描いた曲」と説明している。別れた帰りにそのまま言葉が出て、帰宅後は「ぐちゃぐちゃな頭で即レコーディング」。後から本人自身が「自分のセンスを疑う」と振り返っている。アレンジについては「グランジとグラムロックを煎じて僕なりに解釈した感じ」だったという。みゅー本人による詳しい制作記録は、NOTES「制作秘話」で読めます。
Mutant Music史から見ると
アルバムの曲順では、この前が「Thank you,Sunshine」である。あちらの最後は、
今が最高に幸せだ
だった。そして次の曲では、
今日も土砂降り 思わせぶり 掟破り 今日も空振り
である。かなりひどい落差だ。ただし、この曲順をそのまま一人の恋愛日記へすることはできない。「Thank you,Sunshine」は2006年12月から2007年7月にかけて制作され、「ブリブリブルース」は2007年12月から2008年1月。前の曲で最高に幸せだった恋が、そのままここで破綻した。
そこまでの資料はない。でもアルバムとして並べた結果、最高に幸せ。その次に、空振り。という乱暴な落差ができた。
『Tokyo Walker』の序盤は、それで急に不安定になる。そして、失恋の扱い方だけを見れば、「秋の終わり」とはかなり違う。「秋の終わり」は、季節。無常。太陽。
裏切らない循環。そういうものを使って、恋の終わりを考えようとした。しかも最後には、
でも冬も好きだ!
と、妙に軽く立ち直る。「ブリブリブルース」は、そんなふうに世界の法則へ広げる暇がほとんどない。ゴキブリ。monkey。胃がキリキリ。
Oh yeah!あいにくNo。言葉の方が先に暴れる。
どちらかが深く、どちらかが浅いという話ではない。
悲しい時に、意味を作って耐えることもある。意味が壊れるほど言葉を鳴らしてしまうこともある。Mutant Musicには、その両方がある。そしてアルバムでは、この次に「どん底」が置かれる。
「ブリブリブルース」の終盤には、
底のない 涙
がある。そこから次の題名が、「どん底」。並びだけを見れば、かなり出来すぎている。ただし二曲とも2008年1月の制作圏にあり、厳密な先後や、同じ出来事から作った連作だという記録はない。
だから、振られた。底のない涙。そのまま「どん底」を書いた。とはしない。アルバムの曲順が、そういう落下を作っている。
制作史と、並べた後に生まれる物語は別である。この曲について確かなのは、もっと手前のところだ。呼び出された。会いに行った。振られた。
帰った。そして、頭がまだぐちゃぐちゃなうちに録音した。それだけでも十分に『Tokyo Walker』らしい。大事件を遠くから整理するのではなく、移動の途中で考えたこと、身体に起きたこと、口から出た変な言葉を、その日の速度のまま持ち帰る。だから、この曲では自分の格好よさが最後まで守られない。
「揺るぎない決意」と言った本人が、寒い。眠い。だるい。胃が痛い。猿芝居。
と自分で壊していく。
それでも、悲しみまで冗談になったわけではない。
最後には、
今日も土砂降り
が一行だけ残る。笑いも駄洒落も使い切ったあとに、雨だけやまない。その終わり方が、この曲にはいちばん似合っている。
クレジット
- 作詞
- みゅー
- 作曲
- みゅー