Maricha
Maricha is surely more charming than before.
Maricha is still shining like an autumn sun.
But I can’t find her anymore.
前より魅力的になった。いまも輝いている。
それなのに、もう見つけられない。「Maricha」の厄介さは、たぶんこの三行にほとんど出ている。彼女は魅力を失ったわけではない。むしろ増している。それでも「僕」が好きだった彼女は、もういないと言う。
では、いなくなったのは誰なのだろう。
作品情報
- 収録作品
- 1st album『真実の口』
- Track
- 5
- 制作
- 2005年8月
- 初出
- 2006年9月4日
- クレジット
- 作詞: みゅー/作曲: みゅー
歌詞
Maricha is very simple and has pure heart.
She is healthy and active, likes to dance and play volley ball.
She is honest and cheerful like an autumn sky.
She is charming so she is loved by everyone.
But she is one of the members of the “CAMP”.
And they have a bad influence on her.
Use a metaphor; her color was pure snow white.
But they made her dirty like a cloudy sky.
Maricha. One more chance? It’s too late? Lonely hearts.
Autumn sky of the hearts. What is “CAMP”?
Maricha, What is tough? I don’t know. Blue hearts.
I like her and I love her.
Uh, I’m falling in love with you.
Maricha learns how to dress up and make up.
Her friends of “CAMP “didn’t leave her as she was.
Are we fated to turn red like autumn leaves?
Then autumn has gone. My favorite has gone.
Maricha. No more chance? Turning red. Only love.
I like her. Aloha, Karman.
Maricha, What is “CAMP”? I don’t know. What is tough?
Our fate and farewell.
You are being something wrong, uh.
Maricha is surely more charming than before.
Maricha is still shining like an autumn sun.
But I can’t find her anymore.
You’re being something pitiful.
Maricha. No more chance! It’s too late! Very hard.
Maricha. What is “CAMP”? What is “CAMP”!
Maricha, What is tough? I don’t know. I can’t find.
Maricha. Ah, Maricha!
You are feeling loving with you.
Meu was feeling loving with you.
Meu was being, loving. It’s you.
曲を読む
最初のMarichaは、これでもかというほど褒められる。
Maricha is very simple and has pure heart.
She is healthy and active, likes to dance and play volley ball.
She is honest and cheerful like an autumn sky.
She is charming so she is loved by everyone.
simple、pure、healthy、active、honest、cheerful、charming。ずいぶん隙がない。本人が何かを話す前に、こちら側から人物評がどんどん貼られていく。最後には、自分が好きだというだけでは足りず、she is loved by everyone とまで言う。みんなに愛される人。
そのMarichaを表す最初の景色が、an autumn skyである。澄んだ秋空。
ところが、その空はすぐ曇る。
But she is one of the members of the “CAMP”.
And they have a bad influence on her.
ここで突然、CAMPという集団が出てくる。何者なのかは説明されない。ただ、「bad influence」。悪い影響を与える人たち、と先に判定される。そして、この歌でもっとも妙な一文のひとつが来る。
Use a metaphor; her color was pure snow white.
But they made her dirty like a cloudy sky.
Use a metaphor;比喩を使う、と自分で言ってから比喩を使う。普通は書かない。「ここから比喩です」と舞台袖の指示まで歌詞に入ってしまったような一行である。でも、その不器用さのおかげで、逆に見えてくるものもある。これはMarichaの真実を説明しているというより、僕が彼女をこういう図にして理解しようとしているのだ、と。
以前は pure snow white。CAMPに染められて dirty like a cloudy sky。白と汚れ。かなり強烈な二分法である。
ところが、この色分けは歌の中ですぐに崩れていく。
最初は「秋の空」がMarichaの明るさだった。次は「曇り空」が汚れになる。そして、そのあとには赤い紅葉が出てくる。空も秋も色も、善悪をきれいに分ける道具としては、どうも落ち着かない。サビに入ると、言葉の方も落ち着かなくなる。
Maricha. One more chance? It’s too late? Lonely hearts.
Autumn sky of the hearts. What is “CAMP”?
Maricha, What is tough? I don’t know. Blue hearts.
I like her and I love her.
Uh, I’m falling in love with you.
さっきまで、CAMPは悪い。彼らがMarichaを汚した。と断言していたはずなのに、What is “CAMP”?と聞く。
さらに、What is tough? I don’t know.分からない、と自分で言ってしまう。ここが面白い。結論はかなり強いのに、理解は追いついていない。何なのか分からないCAMPを、悪者にはできる。
何が「tough」なのか分からないのに、Marichaが何か間違った方向へ行っているとは感じている。判断の方が、理解より先に走っている。そして、I like her and I love her.までは her だったものが、I’m falling in love with you.で急に you になる。遠くから人物評をしていたMarichaが、ここで初めて呼びかけの相手になる。ただし、彼女の返事はない。
距離が縮まるのは、まだ代名詞の中だけだ。二番では変化がもっと具体的になる。
Maricha learns how to dress up and make up.
Her friends of “CAMP “didn’t leave her as she was.
おしゃれを覚えた。化粧を覚えた。learns と書いている以上、Maricha自身が何かを身につけたとも読める。でも次の一行では、CAMPの友人たちが彼女を以前のままにしておかなかった、と外からの作用に戻してしまう。自分で変わったのか。
変えられたのか。歌は後者だと言いたがっている。けれど、その直後にこんな問いが来る。
Are we fated to turn red like autumn leaves?
Then autumn has gone. My favorite has gone.
ここでは she ではなく we である。
変わるのはMarichaだけではない。
僕も含まれてしまう。しかも紅葉は、誰かに汚されたから赤くなるわけではない。秋になれば赤くなる。自然に。時間の中で。
CAMPのせいだったはずの変化が、いつの間にか fated、運命の話へ広がっている。この歌は、自分で作った説明を、自分で少しずつ壊していく。My favorite has gone.という言葉も、なかなか身勝手である。いなくなったのはMarichaそのものなのか。それとも「僕の好きだったMaricha」なのか。
この二つを、歌はほとんど区別しない。そして、その区別ができていないことを最も露骨に見せるのが、冒頭に挙げた三行だ。
Maricha is surely more charming than before.
Maricha is still shining like an autumn sun.
But I can’t find her anymore.
You’re being something pitiful.
前より魅力的。いまも輝いている。それでも見つからない。そして最後には、彼女を pitiful と呼ぶ。ここまで来ると、何が失われたのかはかなり怪しくなる。
少なくとも、Marichaの魅力そのものではない。歌の中の彼女は、むしろ前より魅力的なのだから。見つけられなくなったのは、白くて、素朴で、こちらが「pure」と呼んでいたMarichaの方なのだろう。つまり変わった彼女を見ているはずが、だんだんこちら側の「変わってほしくなかった」が見えてくる。
しかも彼女自身が、私は不幸だ。元に戻りたい。とは一度も言わない。だから、この歌を「悪い仲間に変えられてしまった女性を嘆く歌」とだけ読むと、少し足りない。それは確かに、歌の中の僕が信じている物語ではある。
でも歌詞を最後まで読むと、その物語からはみ出すMarichaもちゃんといる。前より魅力的で。秋の太陽みたいに輝いている。その人を見ながら、「見つからない」と言っている。終盤になると、英文そのものもずいぶん崩れる。
Maricha. Ah, Maricha!
You are feeling loving with you.
Meu was feeling loving with you.
Meu was being, loving. It’s you.
ここで突然 Meu という語が現れる。何を指すのか、現在の資料だけでは確定できない。文法を整えて意味を一つに決めることもできるかもしれない。
でも、そうしない方がいいと思う。
この歌は最初、Marichaを非常にはっきり説明していた。pure。healthy。honest。cheerful。
ところが歌い終わる頃には、誰が誰をどう愛していたのかすら、英語の形が崩れている。人をきれいな形容詞で説明しようとして始まった歌が、最後には説明そのものを失っていく。その崩れ方まで含めて「Maricha」なのだと思う。
現在のYouTube概要欄にある日本語文は、英語歌詞の逐語訳ではない。日本語文では変化をかなり明確な「喪失」として整理している一方、英語歌詞には、以前より魅力的になったと認める言葉も残っている。好きだった姿はなくなった。でも今の方が魅力的でもある。戻ってほしい。でも時間は戻らない。現在の説明を読んでも全部は片づかない。そのずれを残しておきたい。
Mutant Music史から見ると
後から作品を並べると、「Maricha」と「Go up in the smoke」はかなり近い場所にある。同じ人物と出来事につながる曲として残されているが、言っていることは少し違う。
「Maricha」では、
But they made her dirty like a cloudy sky.
と、変化の原因をCAMPの側へ置く。彼らが彼女を変えた。だから、以前の彼女が失われた。ところが「Go up in the smoke」では、焦点がこちら側へ移る。
認めよう それでいいよ
それが答えだ!
どうすることもできないんだ
時間を止めることはできないんだ
どちらが正しい説明だったのか、という話ではない。
一つの出来事を前にして、相手が変えられてしまった、とも思った。自分にはどうすることもできない、とも思った。その二つが別々の歌として残った。だから「Go up in the smoke」が「Maricha」を反省して訂正した、とまで言う必要はないと思う。人は同じ出来事について、同時に矛盾することを考える。
むしろ、その矛盾を別々の曲へ逃がせたから、両方とも残った。同じアルバムの「笑顔のち夏」にも、「変わる」という言葉が出てくる。
君が変わっていくことが 哀しいことに思えてたけど
だけど あの頃も今も過去も未来も 全部ひっくるめて 君の側にいたい
こちらで歌われる相手はMarichaではない。
だから、この二曲を一つの恋愛物語としてつなぐことはできない。ただ、並べると面白い。「Maricha」は、変わった相手の中に以前の姿を探して、I can’t find her anymore.と言う。「笑顔のち夏」は、変わっていくことを哀しいと思いながら、それでも過去も未来も含めて側にいたいと言う。
同じアルバムの中に、変わらないでほしい、と、変わっても側にいたい、が両方ある。
どちらかが未熟で、どちらかが正解なのではない。
相手によっても、時期によっても、自分の置かれた場所によっても、人が「変わる」ことの意味は違ってしまう。「Maricha」は、その中でもかなり頑固な方にいる。前より魅力的だと認めながら、それでも、僕の知っていたMarichaではない、と言い張る。その矛盾を最後まで解決しない。たぶん、この曲に残しておくべきなのは、そこなのだと思う。
クレジット
- 作詞
- みゅー
- 作曲
- みゅー